地面師たち~現実はグダグダ
おはようございます。🐤
話題のNetflixドラマ「地面師たち」を見ました。
このドラマは"現実にあった話"を元にしていて、通称「積水ハウス地面師詐欺事件」といわれています。今日はその"現実にあった話"をメインにしていきたいと思います。
実際の事件と現在の事件現場
ドラマは初回から最終回までずっと怖かったですね、ちょっと逃げようとか裏切りを見せようものならすぐにハリソンに見つかって掃除屋さんみたいな人に殺されちゃう、あの監視されている恐怖感は私は苦手です。もう二度と見られないかも。
現実の事件は、記録を見る限り関係者の死人は出ていません。小池栄子さん、ピエール瀧さん、山本耕史さんにリリーフランキーさんの役どころの方たちみな健在です、良かった、ホッ…寝れる…。
一方でドラマの大筋は現実とほぼ同じです。違う点をあげると、
地主の女性の年齢はドラマでは40代⇒現実は72才
ドラマではお寺⇒現実は老舗旅館
地主の女性のホスト遊び⇒現実は末期のがんで入院中
主犯(綾野剛)はドラマでは自首⇒現実はフィリピンに逃亡後逮捕
積水ハウス部長(山本耕史)はドラマでは不審な事故死⇒死なない
現実の事件現場である五反田の約2000㎡(ドラマでは3200㎡)の土地は、事件の後に第三者に売却されて高級タワーマンションが建てられています。この春から入居が始まっているようです。
いわくつきの土地なんですけど、駅前の一等地だからそんなの関係なく売れてしまうんですね~、投資用に外国人が買っているのかなという印象です。
35.8㎡が7,298万円~最上階の部屋は127㎡で1室3億5990万円、総戸数は213戸とのことで、なるほど仮に1戸平均1億円の売り上げとしても約213億円です。工事費が1㎡あたり仮に40万円として80億円くらいかかったとしても、土地代70億であれば事業者としては十分に採算がとれそうですね。
ちなみに2024年の8月時点でもう中古が3件も売りに出ています。3件とも南東側の部屋で、桜の季節には目黒川の桜も見えないみたいです。75㎡で売り出し価格は2億5300万円。なんともまあ。
このマンションのエントランスは、大胆にもこの土地にあった老舗旅館の面影を残しているらしいのです。老舗旅館とそれにまつわる詐欺事件が伝説としていつまでも生き続けるんでしょうね。
そして積水ハウスはいつまでもいつまでもこすられ続けます。
なんせ「日本でトップの不動産プロ集団」が詐欺師に55億円ももっていかれたんですから。銀行がオレオレ詐欺にひっかかったようなものですから。
ドラマでは綾野剛さんが完璧な偽造書類を作っていて、小池栄子さんも素晴らしい涙の演技を見せて、さすがだなと、これならひっかかる理由もわかるかなという演出だったのですが…
現実はそんなものではなかったのです、逆によくこんなボロボロで穴だらけの手口にひっかかれたなという内容でした。
事件の概要
現実の事件の概要は次のとおりです。
積水ハウス社員Aが、私的な飲み会の席でアパレル会社の生田さんから「五反田2000㎡をゲットした」という情報を得る
しかし生田はアパレル会社なので活用ができないので誰かに売りたい
80億~100億の物件を70億円という美味しい話なので、積水ハウスとしては買いたい
積水ハウス社員Aはこの大型物件を社長にもちかけ、社長案件とする
通常なら1年以上かかる確認や稟議を2週間ほどですっ飛ばす
契約締結、仮登記申請、手付金支払い
本人確認、本登記申請、残代金の支払い
登記申請却下!詐欺だとわかる
だいたいドラマのとおり、ここまでわずか2か月ほどです。
この間、地面師たちは他の不動産屋にも情報を流しています、何社かは現地を見たり周辺住民に聞き取りをしたりして「これは怪しい」と契約をしなかったそうです。
確かに、なんとなく素人でも次のようなことは気にかかりそうなものです。
80億~100億の物件なのに、なぜ70億で買えるの?
なぜ地主の女性になかなか会えないの?
なぜアパレル会社が土地の話を持ってくるの? そこ大丈夫なの?
そして決定的なこととして、地主の女性の偽物(なりすまし)が、自分の住所、誕生日、干支をことごとく間違うんですね。もう滑稽すぎてこんなシーンはドラマにできません。
また、残代金を支払う前に同業他社の社長さんがわざわざ積水ハウスの本社に尋ねてきてくれて「この契約怪しいよ、生田は金払い悪いよ、大丈夫か?」と忠告もしてくれているのに、それもガン無視します。
さらにさらに、残代金支払いの当日、積水ハウスの社員が敷地内を測量していたら本物の地主から通報されて警察に任意同行を求められたのに、その報告を受けた後で残代金を支払っていたのです!
いや完全に真っ黒ってわかりますやん??
そう、つまり、現実の契約は、「ええい、会社の上層部がいけっていうから、なんかめちゃくちゃ怪しくてしょうがないしトラブル続出だけど、支払っちゃえ~~!!」という感じだったのです。
なぜ???
なぜ他の不動産屋さんはひっかからなかったのに、積水ハウスだけは間違ってしまったのでしょうか??
もう、積水ハウスの上層部に地面師の仲間がいたとしか思えない話です。もしかしたらドラマみたいに家族の命とひきかえに脅されていたのかもしれませんね。
ただ、この土地特有の事情と、不動産業界の通例を知れば、少しは理由がわかるかもしれませんので、ちょっとだけ調べてみました。
背景(この土地特有の事情)
東京の五反田駅から徒歩3分という大都市のど真ん中に、うっそうと茂った大樹と歴史を感じるつぶれかけの老舗旅館のような建物が、ところどころ壊れた古い塀で囲まれている不思議な一角がありました。
商業地域の超一等地なのに、看板を出すでもなく何に使われているのかもわからない奇怪で不思議なその建物は、一部では「怪奇館(かいきかん)」と呼ばれていたそうです。
ここは「海喜館(うみきかん)」という大正時代から続く老舗旅館でした。
なんでも、この土地の持ち主は高齢の女性で、大正時代に父が始めた老舗旅館の女将として細々と経営していたのですが、実に商売っ気がなくお客さんもほとんどいません。
その理由は、人間不信にあったようです。
こんな超一等地なのにもったいないと、いろんな不動産屋さんに目をつけられていて、不動産屋さんから何度もしつこく売却の話をもちかけられてはその度に断っていました。
地主の女性が怒って「不動産屋お断り」と出入りを禁止しても、宿泊客となって姑息に潜入してしつこく土地のことを聞いたり、売却を迫られて迷惑していたのだそうです。
不動産屋さんがどれだけ強引に粘着的に売却を迫ったのか、もしかしたら地上げ屋による営業妨害や嫌がらせがあったのか、とにかくよっぽど嫌な思いをしたのだと思います。旅館側は警戒して宿泊予約の際は「泊まる目的や人数」などこと細かく聞くようになったそうです。
一般客にさえ「むしろ泊まってくれるな」というくらいの怪訝な態度だったのだとか。
そんなこんなで、不気味な旅館としてだけでなく、とにかく不動産屋さんのことが大嫌いな「売らない地主」としても有名で、さらに旅館は寂れ不気味さは増していきます。
そんなある日、地主の女性が胃がんで入院します。
女性は72歳という高齢、旅館のお客さんはいない。
「いよいよ売却に出すかも」というまことしやかな噂が界隈の不動産屋さんの間で話されるようになります。もし売りに出ると80億から100億の値がつくだろうと予想されました。
不動産屋さんの事情(想像)
私は不動産業ではないですが、少し関わりがある業種としてここで少し不動産屋さんの事情を想像してみます。
現実の不動産の取引は、ただのモノのやり取りとは違ってものすごくウェットに感情がたっぷりとまとわりついた「命」と同じ「かけがえのないもの」のやり取りになります。
この土地の場合、地主の女性は不動産屋さんが大嫌いで、接触が少なく情報も少なかったこと。周辺住民に聞き込みをしたりして嗅ぎまわることが地主女性本人に知れてしまうと印象を悪くしてしまうかもしれない、そうすると契約ができないかもしれないという背景がありました。
現実の不動産の契約というものは、ものすごく泥臭いものなのです。
それでも、地元に根付いた不動産屋さんだったら、周辺住民との関係があったりなんらかの情報は入ってくるのですが、超大手の積水ハウスにはそんな草の根のネットワークが無かったのかもしれません(?)
また、ハウスメーカーなので戸建てには強くても、このような大規模開発のノウハウは不足していたのかもしれません(そんなことある?)
そして一番は、そもそも不動産の取引は「怪しい中間業者が入ること」や「本人確認がとれないこと」そして「取引の邪魔の嫌がらせ」や「怪文書が出回ること」などが日常茶飯事のように行われているのかもしれません。
今回は55億円というちょっと大きな被害額でしたが、数千万円~数億円程度であれば、表面には現れてこなくても、実は世の中でたくさんある事件なのかもしれません。
例えば、地主がすでに亡くなっている物件で、死亡届を出す前に「なりすまし」で偽造の本人確認書類や口座を偽造して、本人としてお金を受け取れば…仮に身寄りがいない人であれば誰も訴える人はいません。
身寄りや遺言がなければ、亡くなった後は「国庫に帰属」ということになって、それから競売で国にお金が入ることになるところを、地面師が横からゲットするわけです。
誰も気づかないので事件にはならず、地面師は利益を得て、デベロッパーは普通に開発をして、新築の物件に住む人たちは最後まで何も知らないまま、という案件もあるのでしょう。
ちなみにこの五反田の地主の女性の物件については、女性の地主の相続人という人がいまして、腹違いの子(つまり女性の兄弟)が2人いて、その子たちが相続を待ち構えていたところに、誰か怪しいやつが仮登記しているのに気付いた、というのが真相です。
法務局の職員が偽書類を見抜いたわけではなかったのです。きっと兄弟の訴えが無かったらそのまま登記申請はとどこおりなく完了して、この土地は何もなかったごとくに積水ハウスのものになっていたのでしょう。
(参考文献)
後日談
そして、この積水ハウスの後日談がまた面白い…。
ドラマに出てきたのは、この案件を推し進めていた「社長」がメインで、会長は海外を飛び回っているということでしたよね。現実の積水ハウスも全くその通りだったらしいです。
この事件の後、誰が責任を取るんだ? という議論になりました。
まあ、普通に考えたらこの案件の責任者である阿部社長が責任をとると考えますよね。
しかし現実は、なんと社長がクーデターを起こします。
会長は社長に責任をとらせるべく、取締役会で「社長解任動議」を出すのですが、なんとこれが否決。
その直後、阿部社長が取締役会に加わり、なんと逆に「会長解任動議」を出します。なんとこれが可決、会長が辞任を余儀なくされてしまいます。
阿部社長は定年により会長を辞しましたが、現在も特別顧問を務めています。
まとめ
不動産はNon-Fungible、かけがえのない超ウェットなものなので、その扱いはとても難しいのですね。法律が完全にカバーできているかは私にはわかりません。
この積水ハウスの地面師詐欺事件で捕まった人たちは、以前にも逮捕、拘留歴があり、大ボス的な存在の内田マイクさん(ドラマでいうハリソン)は仮釈放中の事件とのことでした。
今回も3年から5年くらいの刑期を終えたら出所だそうなので、また同じことが繰り返されるのでしょう。
不動産投資には気をつけないといけませんね。
急かされる儲け話は怪しい
口の上手い人は怪しい
せめてこれくらいは気をつけて、最後は自分で書面を見る時間と、第三者の誰かに意見をもらう時間を必ずつくりましょう。
関わる人は「自分の利益しか考えてない」と考えましょう。
それではまた~(@^^)/~~~