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模倣
Baby その色を変えて行け
星に近づいて
Hey, J いつでもただ一人で
歌い踊り
何か楽しいことが起きるような
幻想が弾ける
この”J"なる人物が誰なのか、ずっと気になっていた。星野源さんのヒット曲「SUN」のサビの後で突如として現れる。ただ一人で歌い踊る”J"とは?
James、Jimmy、Joey…思いつく限りの”J"を探してみる。どれも一人で歌って踊りそうな名前じゃない。というか誰だこの人たち。
著書『いのちの車窓から』にその答えはあった。
ステージの奈落からスーパージャンプして観客の前に飛び出すと、爆音で鳴り響く破裂音、火や煙の特殊効果とともに数万人の観客が絶叫する。失神したファンが次々とスタジアムの観客席外に運び出される。
(中略)
圧倒的なパフォーマンス。しかしその表情の奥は、いつも寂しそうだった。(『いのちの車窓から』)
星野源さん。今や日本中で知らない人はいないほどの人気歌手だ。TBS系ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』で新垣結衣さんと共演した源さん。メディアでは引っ張りだこなのに、本の中では驚くほど人間味がにじみ出る源さん。『おげんさんといっしょ』で、NHKを見る唯一の理由をくれた源さん。
そんな彼の憧れの一人がキング・オブ・ポップ、あのマイケル・ジャクソンだった。
マイケルのダンス、そのパフォーマンス、歌声の素晴らしさ、楽曲の楽しさ、切なさ、そしてなぜだか瞳の奥に感じる寂しそうな雰囲気に、おこがましくも心が重くなり、そのすべてに夢中になった。
模倣と創作。両者は対立の立場として用いられ、前者だとパクリ、後者ならクリエイティブだと言われる。みんなが後者を目指して画策する。対比のように書くから誤解されるんじゃないだろうか。創作は模倣の上に成り立つ。これが本来の姿だと思う。みんなが0から1を生み出せたらそこら中にクリエイティブな人が溢れて大変だし、そもそもそんな主張の激しい世界はイヤだ。
ひやむぎは枠をする。そのスタイルにもいろいろな模倣がある。地元FM局だったり、星野源さんのオールナイトニッポンだったり、そのほかたくさんの要素を取り入れている。
そうして作り上げた枠にみんなが集まってくれると、ある瞬間に形容しがたいような一体感に包まれることがある。
どこに住んでいるのかも判然としない、顔も氏素性も知らないリスナーと、「つながった」気がする瞬間。
その瞬間がクセになる。
一人で声を吹き込む。マイクの向こうにいるのは、どこに居るとも知れない、顔も氏素性も知らないあなただ。