見出し画像

2020年に書いたコラム

「お笑い第七世代」バラエティを見る人ならよく耳にする言葉。
霜降り明星をはじめとする、今人気急上昇中の若い世代のお笑い芸人を総称して「お笑い第七世代」と呼ぶ。
ちなみにこれを書いている僕も昔、ホーム・チームというコンビでお笑いをやっていたことがあり、自分世代を調べてみたら第5世代だった。

個々でも活躍を見せるお笑い第七世代だが、先輩との絡みによってさらに輝きを増すことがある。
その最たる番組として今日は「有吉の壁」という番組にスポットを当てるとしよう。

番組名を聞いただけで、見たことない人でも誰が出演しているかわかる。あの人気お笑い芸人、有吉弘行がMCを務める番組で、若手お笑い芸人が、与えられたシチュエーションの中で、衣装や設定を駆使して有吉さんを笑わせることができるか!という内容で
今年の4月からゴールデンタイムに昇進し、さらにはコロナ禍という苦境を逆手に取り、芸人の自宅を公開するという企画で成功を得るなど、今勢いに乗る番組である、
チョコレートプラネットやシソンヌなど、この番組に出演し、注目を浴びるようになった若手芸人は数知れず。

今回はそんな若手芸人ではなく、MCの有吉弘行さんに、元お笑い芸人の視点で着目していこうと思う。
有吉さんといえば、ひと昔前は「悪意に満ちたあだ名」や「歯に衣着せぬ発言で人を傷つける」というイメージがあった。しかし今は真逆で、切れ味は鋭いが、根本は良い人というイメージになっている。
現に7月30日に放送されたアメトーク「芸人大好き芸人」の回では、品川庄司の品川をはじめ数多くの芸人から『愛に溢れる人』や『一番言われたい悪口を言ってくれる』など、テレビで称賛される人となった。
こう思われる理由のひとつに、有吉さんのテクニック、”笑う”のバリエーションの多さがある。
いろんな方法で相手を笑わせる、”笑い”のバリエーションではなく、文字通りTPOに応じた笑いを使う”笑う”ほうだ。

「本当に面白くて笑う」
「場の空気を温める為に笑う」
「視聴者やスタッフにこれは面白いんだよと示す為に笑う」
「毒舌後のフォローの為に笑う」
「芸人をやりやすくする為に笑う」
「番組進行を考える間を持たせる為に笑う」

この番組を見ると、少なくともこれだけのバリエーションを使っている。もちろん細かく分析すれば、もっと多くの”笑う”を使っていると思うが。
しかもこの笑うという行為は、若手芸人の育成にも繋がる。
仕事で部下を持つ人は是非真似をしてほしい。もちろん笑うという事ではない。
ではどういう事かというと、若手芸人に対する笑うは、褒めるという事と同じなのだ。

2020年6月に放送された、遊園地の中に潜んで有吉さんを笑わせるという回があり、バイキングの小峠とシソンヌのじろうが組み、ひよこのオスメスを見分けている係員という設定で有吉さんに挑んだ。
有吉さんは、まず二人の設定を見て、理解した段階で、ボケも何もしていないのに笑う。
もちろん二人に聞こえるように笑うのだ。
この笑い声のお陰で、二人は圧倒的にやりやすくなる。自分たちのやりたい事を理解してもらい、しかも笑ってもらえたからだ。
この笑い声の凄さはそれだけではなく、カメラマンに対しても、ここに注目してという合図でもあるのだ。
ボケの内容はひたすらシソンヌじろうがオスメスを見分け、小峠が違う!というだけのネタ。
たったそれだけで笑わせる二人も凄いのだが、ボケのスタートからピークまで笑い続け、ピークを過ぎた瞬間に審査して終わらせる有吉さんのテクニックがとにかく凄い。

しかも有吉さんは経験値の浅い若手芸人に対しては、笑いのハードルを下げて、及第点くらいの笑わせ方でも笑う。
つまり仕事として間違った方向へ行っていなければ、とりあえず褒めるのだ。

理不尽な彼女と振り回される彼氏のネタで、2017年キングオブコント決勝へ進出したパーパーへの対応がまさにそれだった。
アスレチックで水に浮く橋を渡るカップル。
彼氏は楽々と渡るが、彼女は怖がって渡ることができない。
すると彼女が
「ケンジ君渡れない~」と彼氏に言う。それに対して有吉さんは
「そりゃ怖いよ」という同調をするのだ。
同調、つまり強調することにより、些細なボケでも笑いやすい空気を作った。
そして彼女が
「ケンジ君、いつものやって」
というと、すかさず有吉さんは
「怖いな~」と水に入るんじゃないかというのを匂わせる。
芸人と水。
この二つがあった場合、多くの人は水の中に芸人が入るということは容易に想像つくだろう。
想像どおり、彼氏が水に入り、彼女に踏ませて渡らせるというボケだった。
想像はつくが間違いではない。
有吉さんはそれを見て笑うのだ。
笑ってもらった若手芸人は、テンションが上がり、さらに頑張って笑わそうとする。
パーパーも一度でやめることはなく、何度も水に入る。つまりやる気と向上心が上がった証拠だ。

でもすべての若手芸人に対してそうするわけではない。番組中及第点を出しても、笑わない時がある。それは千鳥やハライチなど実力がある芸人に対してだ。

簡単な例でいうと、番組のオープニングで若手と絡む際、冒頭からサンシャイン池崎が全開でボケた回があった。
カメラにドアップになる距離まで前に出て、さらには床に根っこがって一言
「有吉の床!」と大声で叫んだ。
それに対して有吉さんはか細い声で
「…はい」
と。
もちろん「…はい」の後には『フォローの為の笑う』も入れている。

笑わない事で生まれる笑いもあるが、そうではなく、笑わない事で、お前たちはそんなもんじゃないだろ?まだやれるだろ?という意思を伝えている。
実力がある芸人は、笑わせるために試行錯誤し、ハードルを越えてくる。そこで初めて有吉さんは笑うのだ。
つまりある程度経験を積んだ部下はすぐに褒めるのではなく、もっとできるだろ?お前はそんなもんじゃないだろ?と促し、さらに良いもの出してきてから褒めるという事で成長させるわけだ。

「…はい」と言われたサンシャイン池崎は、それまでの大声のさらに上の声で有吉さんにツッコミ、その場を笑いに変えた。

ただ、この方法には必要不可欠なものがある。それは有吉さんとの信頼関係だ。
笑わない時でもMCを信じ、笑わないには理由がある。この人を笑わせたい、そう考えさせる、そう思ってもらえるMCでなければいけないのだ。部下があなたを喜ばせたいと思える上司になることが先決である。
こんな先輩が近くにいたら、僕はまだ楽しんでお笑い芸人を続けていられたかもしれない。番組を見ながらそんな事が頭をよぎった。

##################################
こちらのコラムはとある媒体で僕が最初に書いたコラムです。
2020年に書いたコラムなので中々探せないはず。なのでこちらに投稿しました。

いいなと思ったら応援しよう!

檜山豊
みなさまのサポートは、演劇の運営に充てさせていただきます。ありがとうございます。