【小説】Neive is RAD -Friends-
Neive is RAD -Friends-
Hiyama Sunao
ネイブにはルーという特別な友達がいる。
髪と瞳は濃く赤く、爪は硬く鋭い。
厚みのある肌はやや褐色を帯びている。
ルーがネイブを見る時、その眼差しは一瞬炎が強く燃えるように、キラリと金色を帯びた。
人間の姿を真似ているが、その姿はやはりどこか神々しく見える。
ルーは美しい火の精霊だ。
遠い南の島の、轟々と燃えたぎる火山から生まれた。
故郷を離れ、突然ネイブのいるこの街へやってきたのは、つい三ヶ月ほど前のことだ。
ネイブの住む街は、高い山脈に囲まれた場所にある。
太陽はゆっくりと昇り、あっという間に山々の向こうに隠れてしまう。
冬は長く、気温は氷点下まで下がる。
今はようやく、厳しい寒さも和らいできた頃だった。
遠くに氷河の残る山並みを眺めながら、ネイブとルーはチェーン店のカフェのテラスで、新作のミルクシェイクを飲んでいた。
人が多く賑やかな、休日の午後。
道路向こうの広場から、子供達の明るい声や、軽快なリズムの音楽が聞こえてくる。
それに合わせて、ルーは楽しそうに体を揺らしていた。
「……これあんまりおいしくない」
「そうなの?」ルーはびっくりしたようにネイブを見た。
「それ、なんだっけ」
「『バナナとトリュフアイス』、飲む?」ネイブはルーにシェイクを差し出した。
「じゃあ交換」とルーも自分のカップをネイブに渡した。
ネイブはルーのシェイクの色を見てギョッとしながら、「こっちはなんだっけ?」と顔をしかめた。
真っ黒なシェイクに、無数の赤い粒とオレンジ色のソースが混ざっている。
「当ててみて」ルーは答えながら、ネイブのシェイクを一口吸い込んだ。
「うっ」ルーは思わず口を押さえると「トリュフって、きのこじゃん!!」と言ってゲラゲラと笑い出した。
「辛っ!!」ネイブも一口吸い込んだらしい。
未知のシェイクの味にびっくりしながら、あまりの辛さにむせこんだ。
口の中に残った赤い粒々が特に辛い。
唐辛子でできたお菓子のようだ。
「『スパイシーな溶岩』だったかな。オレそれ好き」
「うう……黒いのもザラザラしてて……本当に岩でも食べてるみたい」
ネイブは文句を言いながら、ルーの手から“バナナとトリュフアイス”のシェイクを取り戻した。
「ネイブ変わってる」ルーはケラケラと笑う。
「君もね」ネイブは美味しくないシェイクをちびちびと飲んだ。
その時、広間の前の通りに、よく知る顔を見つけた。
「あ、ブラウンだ」ネイブは立ち上がって、大きく手を振った。
体の大きなブラウンは、大人の中にいてもよく目立った。
ブラウンはネイブの幼馴染の少年だ。
体は肉付きがよく丸々としているが、警察官の母親譲りか、正義感の強そうな凛々しい顔立ちをしている。
ブラウンはちょうど横断歩道を渡ってくるところで、ネイブに気がつくと、そのままこちらに向かってきた。
ジュアンという羊のような毛色の大きな犬を連れていた。
「ひとりか?」
「え?」ネイブは驚いて横を向いた。
ついさっきまで横に座っていたルーが、いつの間にか消えていた。
冷たいシェイクからこぼれた水滴が、テーブルの上に少し残っている。
「あれー」ネイブは首を傾げた。
「オレも昨日、それ、飲んだ」ブラウンがネイブのシェイクを指差す。
「バナナとトリュフ?」ネイブは尻尾を振って顔を近づけてきた毛むくじゃらのジュアンの顔を撫でた。
「よく混ぜたほうがいいよ。シロップが沈んでるから」
「まじ?」ネイブは一生懸命シェイクをストローでかき混ぜた。
ブラウンは学校のことについて一つ二つ話をすると、買い物の途中だと言って立ち去った。
それからしばらくしてもルーが戻って来ないので、ネイブは荷物を持って席を立った。
空になったシェイクの容器をゴミ箱に突っ込んで、広場の方へ向かう。
ネイブは辺りを注意深く見回して、消えてしまった友人を探した。
ふとネイブの横を、ふわりと一羽の蝶々が通り過ぎていった。
ネイブはそれを見て「こっちか」と踵を返すと、蝶々の行く方へ向かった。
山と街の間には、エメラルド色の大きな川が流れている。
街から山に入る橋の向こうに、その友人は立っていた。
ルーはネイブがやってくるのを見つけると、嬉しそうにニヤニヤと笑って木の影に隠れた。
ネイブは少し怒って、ゆっくりとそのあとを追った。
山から流れてくる美しい川は、森のあちこちに湖を作った。
川はやがて海へと流れ出る。
ここから海までの道のりは……とても遠い。
ルーは、川に沿って続く小道を歩いた。
ネイブはルーに追いつくと、ルーの顔を覗き込んだ。
「なんでおいていくの」
ネイブは意地悪く笑う。
妙にぬるい風がネイブの細い髪を揺らして、耳元の小さなピアスが覗いた。
ネイブはポケットに手を入れて、ルーの前を後ろ向きに歩きながら、言った。
「さっきのシェイク、よく混ぜたらねぇ、結構おいしかった!」
「うそだぁ」ルーがくすりと笑う。
「ほんとだよ。またいつか同じの注文するかも。いつかね」
ネイブはそう言うと、ニヤッと笑って突然走り出した。
小道は上りに差し掛かっていた。
ルーもその後を追いかけて、砂利道を登った。
枯れた草の間から、青く若い芽が伸びている。
狭い坂道を一気に登り切ると、小さな展望台から川と山の麓を一望できた。
息を切らして追いついたルーを見て、ネイブは満足そうに笑った。
川の流れは遠く、チーチチと鳴く鳥の声だけがよく聞こえた。
「ブラウンのこと苦手なの?」ネイブはそう言おうとして、やめた。
キラリと金色にルーの目が光った。
太陽が山にかかった。
あっという間に日が落ちるだろう。
もう、少し肌寒い。
「帰ろっか」ネイブはルーの腕に優しく触れると、影にむかって歩き始めた。
「うん」とルーは両手をポケットに入れて、ネイブの後をついてきた。
ネイブはぼんやりと空を見上げて、薄い星を眺めると、静かに深く息を吐いた。
するとルーが「あの星、今度ネイブにあげるよ」と言ったので、ネイブは思わず吹き出した。
「あれ、ルーの星なの」ネイブがケラケラ笑って言うと、ルーも笑って「ずっと昔に、そう決めたんだ」と言った。
制作:2024年3月 ©︎ひやま すなおのイラスト工房
ご覧いただきありがとうございました!
本作は、以前記事にしたひやま すなおオリジナル作品【Neive is RAD】の新作の短編です。
そのほか、メタバース・clusterで公開中のワールド「ひやま館」やYouYubeでもショートアニメーションがご覧いただけます♪ぜひ遊びにきてね!
最後までご覧いただきありがとうございました!
ではまた!
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