ウェディングジャーナル連載_Vol 4 健全な組織改革
※本記事は2023年ウェディングジャーナルに連載した記事です。
健全な組織改革
第4回は"健全な組織改革をテーマとします。コロナ禍以前からも、組織課題については、多くの企業で大小様々な課題が存在していました。しかし、これほど大きな課題となっているのはコロナ禍の影響もかなり大きいと思われます。実際多くの経営者・支配人をはじめとした管理職の皆様が、業績面での懸念のみならず、組織に対しての不安を感じています。課題は放置しておけば負の遺産のママに過ぎず、一方で進化のチャンスでもあります。
この2年間、コロナ禍を脱する為に行っている企業再生に於いても、前稿までの「生産性・業績」のみならず「組織課題」を解決する為の事例も多くありました。このコラムを通じて、少しでも多くのヒントを見出していただけるお手伝いが出来ればと考えています。
◆なぜ組織の課題がこれほど多くなったのか?
業界にはこれまでも組織課題があったという前提で、コロナ禍中盤(休業に拠る雇用調整助成金に頼る時期から、通常勤務が戻ったあたり)から、多くの企業で組織課題が一層大きな懸案として取沙汰されるようになりました。
改めて要因を紐解くと、
① コロナ起因に拠る顧客対応での更なる負荷に加えて、採用数よりも退職者数が多いなかで押し寄せる業務負荷がもたらしたストレス。
② 在宅業務が増加する中で、他産業との比較をする時間が多くなった。更に効率や生産が重視される世の中の風潮も重なり「タイパ(タイムパフォーマンス)」が流行語になるなど、費やす時間に於ける生産性・自己重要感が重視されるようになった。
ブライダル業界では、それらを感じられない企業の方が多数なので、影響が大きく、
「顧客満足の為にハードワークする」というだけでの維持継続が難しくなった。
③ ブライダル業界は金銭的なリターンよりも、感情的な満足度によって支えられてきた側面もあり、施行数の減少やオンラインの普及に拠り「対面による満足度の獲得」に依存している企業は軒並み、モチベーション低下の歯止めが効かなくなった。
結果的に、ブライダル業界に於いては、プランナー、サービス、キッチンと式場の現場職種での採用競争力が明らかに低下しています。
◆「健全な組織」は必要なのか?
本稿ではブライダル業界の中で「式場・ホテル運営企業」という前提で記しますが、
結論「絶対に必要」だと思います。
ブライダル業界の中でも、最近「営業代行」のように、健全性ではなく、自律した個々の集合体で成果を出すという企業体が徐々に増えてきたように思いますが、そのケースは除きます。余談となりますが、多様な働き方の実現・コストの変動費化という観点での「営業代行」は個人的には大賛成なのですが、昨今、企業やチームの調和を乱す事例を良く聞くので、大変苦々しく思っています。派遣・運営をする企業側も受け入れ企業側も、改めて企業の垣根を越えた健全性の創造というコトは、今後必須になると思います。
本論に戻りますが、メンバーのモチベーションが、業績や顧客満足へもたらす影響が大きいことは、この業界の方であれば周知のとおりです。
「健全な組織」の定義に於ける昨今のトレンドに、婚礼業界の実態を掛け合わせて考察すると、ポイントは5つだと思います。心理的安全性や、互いの信頼関係は前提条件として記載を省略します。
① 成果が出ているコト(成果が出ていない組織は早かれ遅かれ、内部に対してのエネルギーが向いてしまうことになるので、揉め事や不平不満が多くなる傾向)
② 数年前までは「企業のビジョンへの共感」だけで繋がれた組織も、今後は「個別化・多様性」も必須になる。根底には企業のビジョンへの共感がありつつも「個々の価値観の承認と共感」が必要というコト。
③ 自身の役割とその実現可能性が明確であり、自身が貢献できているコトの実感
④ 働きがいだけではなく、働きやすさ
⑤ 現状の自己重要感とともに、個々が思い描く未来の素晴らしい状態(※キャリアビジョンが必要な人もいれば、安定した未来の像が必要な人もいる)を描けている
※私見ですが、5年以内に、⑥として「待遇面」が必須になると予測しています。
◆「健全な組織」に向けた手段は?
ここからは、具体的にどんな手段が有効であったか?という実例も交えて記載します。
① 業務改革(BPR(Business-Process-Reengineering)・DXなど)は必須。
組織・個々に向き合う工数を捻出するコトは重要です。働く時間は、限られています。これまでのブライダル業界でよく見られるのは、良さそうなものはどんどん追加する。一方で、既存で行っている業務は、特に理由なく辞めない。それが積み重なり、意味はよく分からないけども、実施している業務が横行しています。まずは、今必要なコトを実施する為の余白を創ることが不可欠です。
一方で、必要性があるからと言って、誰もが簡単に受け入れるほど、業務改革は甘くはありません。経営・マネジメント側を中心とした変える側が「意図意味の浸透を怠らず、そして、人間は良し悪し関わらず変化を嫌う」という前提を正しく認識し、実行する必要があります。変革には、打ち合わせフローや、当日施行の準備フローの改定のみならず、定例会議の見直しや朝礼の類など、多くの時間が圧縮できます。
② 「組織・個人に向き合う時間の重要度」を高める
メンバーとの接点を創っている人と、創っていない人の差は「忙しさ」という理由を付けてしまいがちですが、そんなことはなくて単純に「優先順位」の問題であることがほとんどです。企業・組織としての意思決定をしなければ、その優先順位はなかなか変えられません。「個別面談=1時間」となると、なかなか腰が重たくなると思いますが、「毎週5分の個別面談の積み重ね」がいかに大きな効果を生むかは、体感しないと伝わりません。
③ 「心理的安全性・自己効力感」は前提条件
これまでの業界慣習として「良い人が集って、顧客志向が強い。だから様々なコトに耐えられるハズであり、そうあるべきである」という風潮は強かったように思います。今まで「ブライダル業界だから」という一言で片づけられてきた特徴に依存してしまうと、今後健全な組織運営は果たせないでしょう。言語化すると「メンバー自身が安心してパフォーマンスを発揮できる環境、メンバー自身が、自分は組織に貢献しており活躍できる確信を持てている状態」は必須です。決して甘やかすというコトでも、緩さを演出するというコトでもありません。この後のおススメ書籍の中でも詳細を解説しています。
④ 共通ゴールと個々の特徴の違いを理解・承認している
今後「共通ゴールを浸透させるだけ」では健全な組織運営は難しいと考えられます。「個々人の特徴・価値観の理解・承認」が必要です。※もし自社にそのフレームが無い場合は、外部の研修受講がおススメです。
⑤ 「褒めるコト・承認するコト」を蔑ろにしない。
「婚礼という商材なのだから、うまくいって当たり前。褒められることには該当しない」という雰囲気を感じています。これは私も新卒からこの業界にいて、大きな違和感でした。次第にそれは承認という行為の位置づけを低下させ、自己重要感を高めるコトが出来ていないことに繋がっているように感じます。褒めるコト・承認することは甘やかすことではありません。また、上司が怖いことが厳格性を保つことでもありません。
⑥ 自社のキャリア設計を見直す
ブライダル業界は、キャリアをあまり重要視してこなかった業界と感じます。施設が増えない限りポジションが増えないという特性も関係していますが、今一度、キャリアについては設計をし直すべきタイミングが来たと思います。また、プランナー、サービス、料理に関わるメンバーに於いては、キャリアアップ=肩書を得るということ以外の選択肢も重要です。「専門職を極めるというコト」にも重きを置き、評価をすることが、今後の企業運営には必要だと感じます。
⑦ 火消しが得意な人よりも、平穏無事を生み出す人にフォーカスを
もちろん、主体性をもってトラブルに向き合う人は評価されるべきです。未だに、他責の管理職・メンバーをよくお見受けするのですが、だからこそ、主体性をもって厳しい環境に臨んでくれる人材は、価値と魅力があると思っています。一方で、この章で述べたいコトとしては、平穏無事であるコトも相当な評価対象であるというコトです。例えば、工程管理が組織としてなされていて個人だけの責任になっていないコト・メンバーが不安や相談をしやすい環境や雰囲気を創れているコトなども、評価されるべきですし、そうなっていないのであれば、改めた方が良い点だと思っています。
⑧ 長く働ける環境整備によって、経験値の高いメンバーがいるコト
ようやくブライダル業界にも多様な働き方が出来る環境が整いました。これ迄どうしても、結婚・出産・介護など環境の変化によって、退職せざるを得ないという業界構造が変わりつつあります。組織内に、経験値が高く、安心して相談できる存在がいるコトがもたらす効果は非常に大きく、コンサルティングの一つに、復職制度・環境を整えるという事例も数多くみられました。