
冬のビュンビュン|2月7日(金)奈良原生織
パンを買ってあることを忘れてパンを買ったので家にパンが二つあり、賞味期限が近い方を食べた。
歯ブラシを取り替えた。妹の旦那さんのお母さんが両家顔合わせの時になぜかくれたもの。妹の旦那さんのお母さんは歯科衛生士をしているということだった。
歯を磨いてる時に外へ出てみた。公園に誰もいない。天気がよくて、引っ越ししたくもなったし、この家にずっと住み続けたくもなった。去年契約更新の直前まで引っ越し先を探していた妻は今も密かに物件情報を回遊していて、よさげな物件があるとLINEでリンクが送られてくる。お客さんいいの入りましたよ、みたいな感じでいうからそれがおもしろい。昨日は新中野の貸家を見せてくれたんだけどそれがたしかにすごいよかった。なんたって風呂の壁材が檜なのだ。家賃は今よりぐんとあがるけど払えないほどではない。庭もあるし、窓の外は公園だ。
話は変わるけどふるさと納税をしたことがない。前回『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の話をした職場のチーム会は、毎週持ち回りで好きなトピックを話す形式で、昨日は後輩がふるさと納税はしたほうがよいという話をしてた。やっぱりというか、チームでしていないのは私だけでした。所得税や住民税を漫然と払うよりは2000円かかってでもホタテや高級まくらやどうせ買う消耗品をもらったほうがお得だというのだが、それはまったくその通りなのだが。ともあれふるさと納税もするしPaypayポイント運用もするしジムに通うしマーベル全作見てるけどたまには保坂和志読みますよ、という状態を実現するのがビジネスマンに読書を開く、ということのリアルなんだろうと思う。というか私は人に読め読め言う前にまず自分が読むべきだから、前回京都のイベントの話を書いたときはつい三宅香帆の話ばかりしてしまったけれど個人的には森脇透青が言っていた「不特定少数」と言う考えかたもまたしっくりきてたので、『ジャック・デリダ「差延」を読む』の第Ⅰ部を今は読んでいる。まだ途中だけど、難解なデリダの引用のあとに「説明しよう」って感じで地の文が出てきてくれるので、安心して読める。読めることと理解できることはもちろん別だが、要するに、モノとモノとの間には波動みたいなものが絶えずビュンビュン飛び交っていて、そのビュンビュンがあるからモノの輪郭が浮き上がるのに、これまでの形而上学はモノのほうばかり見ていた。その「ビュンビュン」にこそデリダは着目すべきと言って、それを差延と呼んだんだろうか……。仕事はそんなに忙しくなかったけど夕方からオンラインでお客さん向けにプレゼンをする時間があり、四〇分ほどパソコンの前でひとりでしゃべった。先方の偉い人が放り投げるみたいなしゃべり方でけっこう小難しいことを聞いてきたので脇の下に汗をたくさんかきながら平気な顔をして「なにも問題は無い」ということをそれらしい言葉で伝えた。全体で1時間半のアポが終わって思わずあーっと声が漏れる。これが終わったら飲もうと思っていたコーヒーを淹れて飲んだけど、緊張が胃に来ていたせいかあんまりおいしく飲めなかった。そのすぐあとに、1年以上前にやった仕事に間違いがあったかもしれないと連絡が来て、退勤ボタンを押したすぐあとだったけどパソコンをひらいてずっと昔に自分が打ったメールとかExcelファイルとかを見ていたら1時間くらい経っていて疲れた。結局自分が過去にそのような対応をしたことの理由も分からず記憶も無く、そもそもなにが正しい状態かも分からなかったから申し訳ないけど来週また確認しますと送った。
大島さんの日記がとてもおもしろくて長かったけど全部読む。ポリフォニーというのとも違う、けれどまったく単線的ではないたくさんの声が大島さんの文章からはめくるめく聞こえてくる。
そういえば今朝読んだきたのさんの日記もおもしろかった。「小説」というタイトルの小説っていいなと思った。きたのさんの書くものには思わず人に伝えたくなるようなひらめきがいつも含まれてて、でもきたのさんのことを知る人はわたしの周りに(このZINEメンバーを除いて)いないから、たいてい私の中だけにとどまって、下手をすると自分で気付いたことみたいに思い出したりしている。
夕飯の後、ゴミ捨てのため本日二度目の外出。歩いて冷気にさらされるだけで頭が回って身体も軽くなって、走った。自販機で缶コーヒーを買って公園の真ん中で飲む。最高だけど寒すぎてずっとこのままじゃいられない。暖房の効いた部屋に戻って椅子に座らないといけない。
奈良原生織
埼玉県出身。最近でかい本棚を買った。Kindleで本を読む良さを覚えた。
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