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山口明男句集「礫」を読む

句集「礫」は、私が所属している俳句結社「秋草」山口昭男主宰の第四句集です。2017年から2023年の句、338句が収められています。

印象に残った20句選

菜の花のみな窮屈に咲いてをり
葉牡丹の渦もどかしくありにけり
枝追つて年のはじめの音とする
げんげ田へ入るところの見つからぬ
はくれんの喜劇の如く散つてをり
しばらくは草笛のため恋のため
熟睡とは螢袋の花の中
臘梅の臘といふ字の潰れあり
音はみな雪解雫の中にあり
春の鴨毬のやうなる水を吐く
人の死に蛸切つてゐる暑さかな
月明の研究室にくるマウス
苗代へぶつきらぼうへ入る水
ゆつたりと水につかつてゐる西瓜
安心の形でありぬ露の玉
恋の眼のままに兎を抱いてをり
日の照つて障子の好きな時間かな
人間と菊人形の間かな
十二月紙の礫の開き出す
煌々と台風圏のシャンデリア

山口昭男「礫」(ふらんす堂)

「秋草」は取り合わせの飛ばし方がすごいと言われることが多いのですが、個人的には、取り合わせよりも、そのものを見たときの印象の句に、より心を惹かれました。

菜の花のみな窮屈に咲いてをり
葉牡丹の渦もどかしくありにけり
はくれんの喜劇の如く散つてをり
苗代へぶつきらぼうへ入る水
ゆつたりと水につかつてゐる西瓜

山口昭男「礫」(ふらんす堂)

また季語そのものを詠むのではなくて、景のあり方として詠まれてるような句も多いことに気が付きます。例えば、

熟睡とは螢袋の花の中
臘梅の臘といふ字の潰れあり
枝折つて年のはじめの音とする
煌々と台風圏のシャンデリア

山口昭男「礫」(ふらんす堂)

これらの句は、季語そのものというよりは、季語から想起されるイメージが強くあるなと。単純な写生を越えた、複眼的な写生のようなもの。

あとは、ちょこちょことでてくる恋の句。

しばらくは草笛のため恋のため
恋の眼のままに兎を抱いてをり

山口昭男「礫」(ふらんす堂)

ふらんす堂で昨年連載されていた「山口昭男の俳句日記」では、恋の句の連作を読みたいといったことをおっしゃられていて、これらもその一端なのかなと思って読んでいました。

ふらんす堂のホームページにある自選十五句を改めてみると、主宰がどのような視点でもって、この句集を編んだのかがわかり興味深いです。

ここ最近の句会では、主宰の句が、句集にある句からさらに発展しているようにも感じていて、次の句集がどのような展開になっているのか、個人的に楽しみにしています。

「秋草」十周年
  秋草のまじり気のなき色に合ふ

山口昭男「礫」(ふらんす堂)


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