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浅川芳直句集「夜景の奥」を読む
句集「夜景の奥」は、浅川芳直さんの第一句集。序句に蓬田紀枝子さん、序文に西山睦さん、跋に渡辺誠一郎さんが、そして帯には高橋睦郎さんが文をよせています。
浅川芳直(あさかわ・よしなお)さんは、平成4年宮城県生まれ。平成10年に「駒草」に入門。令和2年に第8回俳句四季新人賞を受賞。令和4年に第6回芝不器男俳句新人賞対馬康子奨励賞を受賞。現在、「駒草」同人。
この句集にて、第15回田中裕明賞、第48回俳人協会新人賞受賞。
句集は、平成14年秋から令和5年1月の句、286句が収められ、編年体で構成されています。
印象に残った20句選
新春の小石をひとつ蹴つて泣く
図書館のいつもゐる席十二月
空調音単調キャベツ切る仕事
向日葵が突つ立つてゐる外科医院
明るくて空つぽしぼり器のレモン
春昼の酔うてもムツオにはなれぬ
ライフガード装着最強の裸身
山霧を分けくる沢の青さかな
うす雲の中に浮く雲不死男の忌
雪となる夜景の奥の雪の山
騎馬像の刳りたる眼風光る
電灯のひそかな異音さくらの夜
風信子明日の雨にしづみさう
薔薇しぼむ薄明りして壜の水
火蛾集ふ避妊具自動販売機
鳥帰る廃船といふ道しるべ
栗の毬一つ轢かれて村境
ひめぢよをん古城の海に人のゐず
山羊の腹数字真つ赤に木下闇
日時計の浮きあがる夜の雪の原
※前書きがある句は省略しています
10代から20代へ向かっていく一人の人生を見ているような句集でした。前書きもある句もあるのですが、卒業、受験、入学、バイト、夏休みなどそれぞれの行事が、実感としてあらわれます。
また、浅川さんのご出身が宮城県(そしてお住まいも宮城県)ということもあり、句集全体に郷土性を感じました。2011年におきた東日本大震災についても、その後の状況が句から読み取れて、おそらくこれが宮城に住む俳人の実感なのだろうなと思いました。
昨年、震災後初めて宮城を訪れました。明らかに新しい空き地に、明らかに新しい建物、明らかに新しい道路、明らかに新しい盛り土があったことを思い出しました。(ちなみに、この句集は、宮城訪問の際に立ち寄った、丸善仙台アエル店で購入しました。)
この句集では、「ひかり」「明かり」という言葉や象徴するものが多く登場するのですが、これらの句が全体のトーンを構成していると感じました。(句集の表紙もしかり)ひかりがあれば、闇や影もあるので、そのいみでも「夜景の奥」という表題と表紙は、句集の本質だなと感じました。
表題のもととなる句、
雪となる夜景の奥の雪の山
眼の前の雪の白、その夜景の闇と光、その奥の暗さ、そしてさらに奥の雪山の白。明と暗が交互に現れる世界。雪が降るということは音もなくなっているだろうし、静寂の中ではっと気がついた世界。明と暗があるのは、風景だけでなくて、人生もそうだよなあと教えられている気がしました。