
岸本尚毅句集「雲は友」を読む
句集「雲は友」は、岸本尚毅さんの第六句集です。
心に残った句20選
蟬を食ひ蜻蛉を食うて寺の猫
はらわたを動くを感じ日向ぼこ
顔焦げしこの鯛焼に消費税
佐保姫のみてゐる田螺うごきけり
春塵やマクドナルドの黄なるM
たわむともなく蛇わたる若葉かな
水深く黄あやめの濃く映りけり
黴くさきそのカーテンにかくれんぼ
DANGERと描くTシャツや老凉し
風は歌雲は友なる墓洗ふ
水仙や狸も来たる猫の餌
鬚胸毛ゆたかに達磨冬の雲
初空やどこかにいさう樹木希林
福笑そのまま誰もゐない部屋
ばらばらに来て涅槃図にうち揃ひ
絵の外に我立つてゐる涅槃かな
大寺のうちそとにある土筆かな
地虫出づそこらを自働芝刈機
蜘蛛の囲に胴なき蜂や聖五月
夏めくや昼顔に色うすき蟻
噴水女神の像の苔と黴
避暑の子かこの町の子か駈けてゆく
汗ばめる如くに薔薇や露しづく
すててこの志村を真似て遊びけり
この道を蚯蚓もとほる秋遍路
岸本さんの句の特徴として、季重なりの句がたくさんでてくること。とくに3つ以上の季重なりもさらっと読まれています。季語(季題)のウェイトのバランスがとても良くて、気にならない。(蜘蛛の囲に、夏めくや、汗ばめる、あたりの句)
ぱっとみた景色をそのまま写し取れば、季語だらけになるのは当たり前のことなので、その当たり前が形になっているのは、とても勉強になります。
また、爽波のモチーフを感じる句(黄あやめ、避暑)や、当時性を感じる句(すててこの志村句、おそらくコロナ禍でのあれこれでしょう)、アルファベット表記をそのまま詠む句(マクドナルド、DANGER)など、いろんな引き出しをあけているのですが、それでいて全体のトーンはぶれていない。
今回の句集、あとがきに
還暦を過ぎた。遠からず「高齢者」となる。
(中略)「老人」という言葉がある。何となく突き放したような感じがする。そのため、これまではその言葉を避けてきた。
(中略)今回の句集では、自分が老人に近づいたので、いくばくかの親しみを込めて「老人」という言葉を使ってみた。
とあって、「老」をどのように捉えていくのかと思っていたのですが、「老」という部分についてというよりも、「岸本尚毅」という人物が、ポーンと浮かび上がってくる、そういう作品になっているなと思いました。(岸本尚毅さんを知らない方はナンノコッチャって感じかもしれませんが、まさに作品のテンションのような方なのです。)
ふらんす堂編集日記にて、岸本尚毅さんがこれからの俳句活動、方向性についての回答に、
句の出来不出来を気にせずに、引き続き、ノホホンと句を作る。
とあり、あらためて句集全体をみたときに、このテンションが行き渡っているなあと感じました。また、日を改めて読んでいこうと思います。