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高濱虚子五句集を読む④
第四句集「六百五十句」は、昭和21年(1946)~昭和25年(1950)の句をまとめた句集。昭和30年(1955)4月発行。序文に、ホトトギス650号を記念して発行されたと一言添えられています。
感銘を受けた句を以下に挙げます。
昭和二十一年(1946)
彼の人の片頬にあり初笑
針金にひつかゝりをる雪の切れ
風花はすべてのものを図案化す
皿洗ふ絵模様抜けて飛ぶ蝶か
人の世も斯く美しと虹の立つ
エレベーターどかと居りたる町師走
昭和二十二年(1946)
凍蝶の蛾眉衰へずあはれなり
恋めきて男女はだしや春の雨
茎右往左往菓子器のさくらんぼ
新米や百万石を一握り
爛々と昼の星見え菌生え
昭和二十三年(1946)
尼寺の蚊は殊更に辛辣に
理学部は薫風楡の大樹蔭
秋天にわれがぐん/\ぐん/\と
よき石によき小菊あり相倚りて
やはらかき餅の如くに冬日かな
昭和二十四年(1946)
霜除をとりし牡丹のうひ/\し
万緑の万物の中大仏
銀河西へ人は東へ流れ星
食ひかけの林檎をハンドバツグに入れ
遠足の子と女教師と薄紅葉
昭和二十五年(1946)
初蝶を見たといふまだ見ぬといふ
古家のキヽキヽと鳴るにや籐椅子鳴るにや
はら/\と月の雫を覚えたり
山雀のをぢさんが読む古雑誌
門松を立てゝいよ/\淋しき町
この句集では、
去年今年貫く棒の如きもの S25
の句も収録されています。
今までの句集もそうなのですが、高濱虚子が常に新しい表現を挑戦して続けているという印象をやはり持ちました。
風花はすべてのものを図案化す
万緑の万物の中大仏
山雀のをぢさんが読む古雑誌
風花の句は、抽象的な措辞が放り込まれることで、逆に風花の具体的さが際立ってきてるように感じました。また、「万緑」の句は、巨大なもの×巨大なもの×巨大なものの組み合わせで成り立っていて、俳句のセオリーの一つとして、近景と遠景、大と小といったものに対して、すべて大でぶつけていくということで、より大きな景を生み出しています。そして、「山雀の」について、「をぢさん」というものがひょいとでてくることで、俳句の景がぐんと広がっているように思いました。
どの句にでてくる人も魅力的に描かれている事が多くて、読んでいて楽しい句集の一つでした。(つづく)