菊花賞を考える。というか買いたい馬の話をする

【大前提とカギを握る2頭】

 大前提として何といっても菊花賞で大事になるのは最後勝負所でどれだけ末脚を伸ばせるか
 よっぽどスローになるか、不良馬場で物理的にトップスピードが出ないような状態にならない限りは上がり最速を使った馬が勝たずとも馬券内には来ており、上がり最速でなくとも上位の上りを使った馬で馬券内独占というのも珍しくない。
 ここで難しいのが、一気に距離が伸びて全頭未知の3000mを戦うが故に前走までにいい上がりを使った馬を選ぶだけでは中々”菊花賞で上位の上りを使う馬”にたどり着くことは出来ず、この舞台、このメンバーで誰が早い上がりを使うことが出来るかをこれまでの情報から推測、予想しなければならない。だからこそ菊花賞の予想は楽しい。
 今回はどの馬が早い上がりを使えるかというのを考えるときにまず”展開”に注目したい。
 その展開のカギを握るのが2頭。メイショウタバルとコスモキュランダ。
 メイショウタバルが今回も逃げるというか、これまでの走り、気性の面から逃げを選ばざるを得ないと思うが、皐月賞の逃げと前走の神戸新聞杯の逃げがこの馬の本質を表しているのかなと思う。
 それはコーナーでしかブレーキが利かないタイプということ特に顕著なのが神戸新聞杯のラップ。12.7-11.0-11.7-12.4-12.2-12.0-11.8-12.0-11.8-11.7-12.5で逃げ切っている訳なんですが、このラップが緩んで12秒台が挟まっているのがちょうど1.2コーナーのところ。そこから向こう正面に入って加速し、普通なら入れる必要のないタイミングで11.8が挟まる、ラスト4コーナーから仕掛けてリードを広げて最後は止まりながら粘り込み。
 皐月賞もスタートから勢いがついてシリウスコルトと競りながら1コーナーに入って、内からのコーナーワークで前に出すために緩めることが出来なかったので、隊列が落ち着いた2コーナーの途中からではブレーキが利かなかった。そのまま向こう正面止まらずに破壊的なハイペースを刻みようやく緩んだのが3.4コーナー、時すでに遅しである。
 じゃあ今回の京都で逃げたらどうなるかと考えると……そりゃあ止まらないでしょう。京都外回りはつばき賞で一回走っている訳ですがその時が12.9-11.3-12.1-12.5-12.7-11.4-11.1-11.1-11.8、これコーナーの入りまでは我慢できているんですが、レース映像を見てみるとポジション取りでもずっと抑えながら我慢させて我慢させて、外から被せられても我慢して抑えてやっと後半4Fあたりから緩めたらあっという間に加速して早め先頭。
 これ今回メイショウタバルがスタートで抑えたとしてもすぐに一回目の下り坂に差し掛かるし、最初の直線歓声も上がるだろうからちょっと抑えが効くとは思えない。浜中騎手ががっつり抑えようとしたとしても、それはそれで消耗して何もできないまま人生に一度の菊花賞を追えるリスクが大きいので選択するのは難しい。十中八九”できるだけ抑えたいが、そこまで馬と喧嘩せずにリズムを重視”そんな逃げ方になると思う。そうなれば初の3000mにしては流れ気味なラップにはなってしまうんじゃないかなと、スタートから最初の1000mが60秒台前後、そのまま坦々と2000m通過も120秒ちょいくらいでラストの勝負所に突入していく、レコードに迫るようなペースになるのではないだろうか。
 勝負所に差し掛かるまでの展開を握るのがメイショウタバルだが、ここからはコスモキュランダの出番。皐月賞の時もカギを握る馬として注目した馬ではあるがこの馬のコーナーでの機動力は凄まじい。勝ち切った弥生賞はもちろんだが、あのハイペースだった皐月賞でもぐんぐんとコーナーで外から動きながら押し上げてその勢いのままに直線もしぶとく迫る競馬が出来ており、強いの一言。
 ラスト1000m究極の持続力と瞬発力戦になったダービーではキレ負けの形で6着まで。サンライズアースと一緒にコーナーで一気にポジションを上げるが長い直線で伸びきることが出来ず、しっかり内から末脚を伸ばした馬に差されてしまった。
 前走もかなり良い競馬が出来たが、更に完璧な競馬をしてきたアーバンシックのキレに屈する形で2着となってしまったのもあり”コーナーから動いてポジション優位を取りつつ、上手く凌ぎ切りたい”という意識は強く出そう。
 タバルがつくる淀みのない流れ、そのままなだれ込むようにキュランダが早めに動いて消耗戦のような直線脚比べとかなり激しい展開が想定される今年の菊花賞。
 これに対応するのはかなりハードルが高いと思うが、春のクラシック2戦をこなしているメンバーは超ハイペースの皐月賞と長く足を使うことが求められたダービーをこなしてきているので、非常に質の高い経験を積んでいる。この経験が前哨戦2つを春の実績馬が独占した要因かなというところでもあり、基本的には夏の上り馬よりはクラシック組を重視で良いのかなという感じがしてしまう。

【買いたい馬の話をしましょう】

 人気が想定されるダノンデサイル、アーバンシックは当然強いとは思うものの、ダノンデサイルがダービーの時のようにポジションを取ってそつの無い競馬をしようとするのであれば前が苦しくなりそうなこの展開は歓迎できない(個人的には中団後方くらいに控えそうな気がするが…)、アーバンシックも前走で強い勝ち方をしているが、何か神の力が働いたかのような直線の進路の開き方、少しでも詰まっていたら普通にコスモキュランダが勝ち切っていそうだし、今回キーワードになるコーナーでの機動力には課題がある。コスモキュランダ、メイショウタバルも展開のカギは握るものの、前が苦しくなりそうな消耗戦で目標になりやすいことを考えると、全部飛ばずとも簡単に人気馬で決まるとは思えない。
 ここからは本命候補3頭について書いていきたいと思います。

◎エコロヴァルツ
 頭までありそうと思える本命候補一頭目がエコロヴァルツ。
 岩田パパに乗り替わって継続3戦目、豊さんが乗っていたころは折り合いに専念しながら終いを活かす競馬がメインだったが、その教育あってかダービーではスタートを決めてハナに立ってスローに落として脚を溜めることが出来ており、激しいレースを経験しながら順調に成長。夏を超えての成長もあり、前走はスタートよく逃げるも途中でヤマニンアドホックに被せられ、早めに躱しに行かなければならないと展開に恵まれないところもありながら悪くない内容、最後直線では急坂部分で伸びあぐねたようにも見え、登ってからの100mではコスモキュランダとの差をやや詰めることが出来ている。京都替わりは良いほうに働きそう。
 春のクラシック2戦に参加できているというのは加点ポイントだが、注目したいのはその脚質の幅。昨年の朝日杯ではスタートで窮屈になったのもあったが最後方の位置取りに、じっくり足を溜めて直線で解放、暮れの阪神のやや時計が掛かり気味の馬場でタフな展開も上がり最速で前に迫り2着。皐月賞でもスタート行き脚がつかなかったのでそのまま控えて足を溜める競馬、あの時計で前にある程度の上りでまとめられては着順のあげようがなかったが、あのハイペースでもしっかり足が溜まってレガレイラと同じ上がりでまとめられたのは強い。
 岩田騎手も手の内に入れた馬ではこれまで先行していたところを突然最後方で控えて上がり最速で貫いてくるなんてこともあるので、今回大方前に行くと思われているところを急に控えてじっくり足を溜めるという選択肢もあり得る。そうなった時には2走ぶりに鋭い上がりを見られるかも。
 栗東所属の馬でありながら、前哨戦では神戸新聞杯を使わずにセントライト記念を使ってからしっかり中一か月取れるローテを選んでいるというのもここを見据えてのレース選びという感じで好感が持てるし、なんと朝日杯ぶりの関西圏での競馬となるので、輸送がないことで馬にも余裕が生まれるのであればかなり面白い。
 朝日杯で末脚を伸ばすときのストライドは大きく、下り坂の活かし方も上手い走り方。京都の外回りは初だが走り方的には合いそう。
 マイルのハイレベル戦で実績がある馬の激走というのは案外珍しくないのがこの菊花賞、この2走前にいっても折り合う競馬を練習したことで、3000mへの延長も苦にせずじっくり溜めることが出来れば、ここでもチャンスがありそう。
 レースそのものとは関係ないが、先日デルタブルースが亡くなったがデルタブルースが勝利したのは20年前の菊花賞でその時の鞍上は岩田康誠。近年G1では中々結果が出ていない時間が続いているが、久々に栄冠をつかみ取るにはいいタイミングなのかもしれない。そんな物語にも期待してしまうのがこのエコロヴァルツ。調教と枠次第では頭まで狙ってみたい一頭。

◎ビザンチンドリーム
 そしてもう一頭狙いたいのがビザンチンドリーム。
 キャリア2戦できさらぎ賞を制覇、そのまま挑戦した春のG1はスタートの課題が浮き彫りになった形で不完全燃焼の大敗。
 どちらも馬券内は遠かったが後方からの馬にはどうしようもないレースであり、皐月賞はもう少し着順を上げられそうな内容だったが、直線の入りでよれたサンライズアースが前に割り込んできて進路がカット、最もスピードに乗せたいタイミングでの急ブレーキで終了と致命的な不利。あのハイペースに対応しながらコーナーではポジションを押し上げることが出来ており、見どころのある走りが出来ていたものの結果にはつながらなかった。
 ダービーは初の左回りが大きく響いた感じで、直線手ごたえ自体は悪くなかったが、何度も内にヨレて西村騎手が修正しながら修正しながらという感じで追っていた。前に居た馬がそのまま上がりをまとめる展開で33.7を使うも殿負けというのは正直どうしようもない内容であり、あのハイレベル戦を経験できたことに価値があるととらえたい。
 秋初戦の神戸新聞杯は完全内有利の展開を大外ぶん回しで上がりも使って6着とかなり上昇の兆しが感じられる好内容。直線でもヨレずに走れており、馬体こそ増えなかったが夏を超えて一定の成長を感じられた。足元が悪くコーナーで動くことに大きく負荷がかかる馬場だった中京で、比較的良かった外を回したとはいえ捲り気味にポジションを上げられたのは評価できるポイントであり、今回求められるコーナーでの機動力と末脚の良さには期待できる内容。
 スタートの課題は未だ残っているものの、今回最後方からの競馬になることはむしろ激しい消耗戦になりそうな前目の駆け引きに巻き込まれない恵まれるポジションにもなり得そうで、最後方からインをロスなく回りつつ、直線他の馬が外に広がりながら末脚を伸ばそうとする中でぽっかり空いたインを切り裂いて伸びていくというのは何とも穴馬激走にありがちなパターン。 
 タフな競馬で溜めて末脚を引き出すのが重要な欧州競馬の名手、シュタルケ騎手に乗り替わりというのもかなり面白い。
 そもそも京都外回りはきさらぎ賞で実績がある舞台。今年の年始の京都は異常にタフな特殊馬場だったが、スローで内を捌いた馬が有利という展開を大外ぶん回しで33.7を使って差し切るのは並の馬ではできない芸当。ストライドの伸びは美しく、久々にこれが活きる舞台に出走できるというのは評価をあげられるポイント。
 馬体を見てもコンパクトに胴のつくりはまとめながらも足が長く可動域も広い、瞬発力のある背中をしており、いかにも長距離の差馬という感じの体系。なかなか3000がベストではないが3歳の今ならばこなせるか?という感じの馬が多い中で、むしろ長距離がベストに映るこの馬があっと驚く末脚を見せてくれる可能性も低くはないのではなかろうか。期待したい一頭。

〇ヘデントール
 頭まで狙うかは微妙なところだが、馬券には入れたいと思うのがまずヘデントール。
 6戦4勝と青葉賞では崩れたものの堅実に実績を積み重ねて、昨年の勝馬ドゥレッツァと同じく日本海Sを勝利してからの挑戦。
 勝利したレース内容もドゥレッツァに通じるものがあり、持続力と末脚の鋭さが魅力。前走の日本海Sではスローからの末脚比べだったとはいえ、小回りで中々時計が出づらい新潟内回りをラスト5F11.5-11.9-11.7-11.3-11.1というのは凄まじいレースラップで、それを前目から上がり33.6でまとめて突き放しての0.6差勝利はかなり評価できる内容。自身は推定57秒フラットで後半5Fをこなしており、コース形態を考えれば今年のダービーの後半5F11.7-11.3-11.1-11.2-11.5に見劣りしない内容、タフな末脚比べになっても春の実績馬と渡り合えそうな時計を残しているのは別路線組としては非常に評価をあげられるポイント。(昨年のドゥレッツァも日本海Sの後半1000を57秒台でこなしているのも注目ポイント)
 右回り実績もあり、京都外回りのような直線が長い&下り坂というコースの経験こそないものの、未勝利1勝Cは中山を上がり最速で快勝、特に1勝Cではフットワークからは重馬場合わなさそうに見えたものの、地力が違うと言わんばかりに捲って上がり最速で突き抜ける機動力とタフさを見せた。
 調教の動きやレースを見ても非常にストライドが大きく、柔らか。今回のメンバーではトップレベルのステイヤー適性の高そうな走りで、距離が延びることのプラスは大きそう。
 今回戸崎騎手に乗り替わりは、長距離G1を考える上で実践で使える末脚の長さや追走のリズムを体感したことがないという点で不安はあるものの、多少慎重な仕掛けになっても末脚の鋭さで融通が利く馬というのは戸崎騎手とも手が合いそう。
 血統的にもルーラーシップ×ステイゴールドというのはいかにもクッション値の高い京都外回りを走るためという感じの組み合わせ。前の争いに付き合わずにじっくり足を溜めて後半4Fで開放することが出来れば、多少外を回す進路どりでも最後まで力強く伸びてくれそう。他の馬の進路どり次第では上がり最速はこの馬という可能性までありそうで、ルメール騎手が選ばなかったということでオッズがおいしくなるならば積極的に狙いたい一頭。

【まとめ】

 本命候補までは行かないが他にも面白そうな馬はちらほらという感じで、気になっているのは前走稍重が全く合わず、のめりながらの走りで力が出せなかったウエストナウや前走は進路どりが響いたという感じで、内を捌いた馬に伸び負けたメリオーレムもスタミナ豊富で血統的にも距離が伸びてよさそうで魅力的。ミスタージーティーなんかも新馬以来の京都で一変があっても良さそうな血統構成。ここら辺は穴で気になる。
 長い距離を走る分、基本的に馬体重があり過ぎる馬は苦戦傾向なのがこの菊花賞で、近年で500㎏を超えた馬の勝利はキタサンブラックのみ(この年は2.3着も500㎏以上でやや特殊、もっと遡れば好走例は増えるが、馬体重を気にする場合は人気だとアーバンシックが510㎏というのはやや不安。穴で面白そうなショウナンラプンタは530㎏とメンバーで最も重い。
 春のG1で存在感のあった上位3頭は確かに能力は高いと思うが、この3頭がそのまま好走するような展開は、メイショウタバルが我慢を聞かせてミドルペースの逃げ、全馬余裕を持ってのロンスパ勝負くらいしかなさそうだが過去のレースを見ている限りなかなかそんなことは無さそうな……
 今のところ本命にしたい度合いで言えば3頭挙げた中ではエコロヴァルツ:ビザンチンドリーム:ヘデントールが4:5:1くらいで、追い込みが恵まれる展開になった時のビザンチンドリームの一発にかなり期待をしてしまっている自分がいます。
 まずはとにかく明日の調教映像次第ではありますが、今週は富士Sが上位強しで固めに納まりそうなだけに、菊花賞では一波乱あってほしいですね。

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