エリザベス女王杯を考える
【奥手な乙女たちの決戦】
前哨戦の府中牝馬Sから引き続き、メンバーに明確な逃げ馬が居ません。前走初角5番手以内で競馬をしていた馬は
・アートハウス
・ゴールドエクリプス
・ディヴィーナ
・ハーパー
・ビッグリボン
・ライラック
・ローゼライト
とそれなりに数は多いのですが、逃げた馬はディヴィーナのみ。そのディヴィーナも逃げたくて逃げたわけではなく、他の馬があまりにも行かなさすぎてデムーロ騎手が内のコスタボニータを何度も見ながら「マツヤマさん先に行ってくだサイ!!あ…あ…行ってくれなぁい!!」という感じで嫌々逃げており、これから考えても積極的に逃げたい馬はいないと見ていいかと思います。
キャリア全体で見ても、新馬戦以外で逃げた経験があるのがなんとディヴィーナとローゼライトの2頭のみ。
逃げ馬は前走のように押し出される形で気性が前向きなディヴィーナが押し出されるか、人気薄のローゼライトが奇襲気味に逃げるか、もしかしたら安定して2.3番手の競馬をしているアートハウスが坂井騎手への乗り替わりで積極的に逃げてしまうかというところじゃないかと思います。どれが行ったとしてもスローペースは濃厚かと思います。
【タダでさえスローになりがちなエリ女】
エリザベス女王杯には非常に特徴的なラップ傾向があります。過去10年のラップがこちら。
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逃げ馬が飛ばしていた2011年2010年あたりがやや歪んだラップになっていますが、その他の年と平均を見ると分かりやすく、1F~2F(=1コーナーの入りまで)はそれなりのラップだが、コーナーに入ってからはかなりゆったりとした流れに。向こう正面をゆっくり走って坂を上り切ったあたりでグッとペースアップ、下り坂で加速しながらの4Fの末脚勝負。前段のとおり逃げたい馬もいないのでかなり高い確率で京都のエリザベス女王杯らしいラップになることが想定されます。
となれば重視したいのはやはり”どれだけラスト4Fで早い脚を使うことが出来るか”そして”そのためにどれだけ道中で足を溜めることが出来るか”でしょう。末脚のキレがかなり求められるレース質であることから5歳以上になると極端に成績が落ちるのは気にしておきたいところですね、今年は人気サイドのジェラルディーナを含め15頭中7頭が5歳以上、末脚のキレの有無で5歳以上を機械的に切れるのであればかなり馬券は組みやすくなってきます。
また、スローペースが故に後方からの追い込み馬の成績はかなり悪く、基本的には4角通過が少なくとも1桁になりそうな馬から高く評価していきたいですね。
【ちょっと気になったので調べてみました】
ちょっと気になったので、改修後の京都競馬場外回りにおける今回出走の種牡馬別成績を調べてみました。(手作業で集計したのでちょっと間違ってるかもしれませんがご了承ください)
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一応3000m以上まで含めて集計したのでちょっと横長で見づらい感じになってしまいましたが、結構種牡馬の傾向として苦手がはっきりしているなという集計結果。
気にしておきたいのはエピファネイア、ルーラーシップ、ハーツクライがそれなりに母数がありながらかなり成績が悪くなっているところ。
逆に良さそうなのはモーリス、ドゥラメンテはそれなりの母数でも馬券内率40%超えの好成績。ディープ産駒も1800以上の距離ではやはり好成績。
まあ母数がかなり少ない中での集計なのであくまで参考値ではありますが、人気サイドだとハーパーはハーツクライ産駒。ちょっと疑ってみたい要素にはなりますね。
【ちょっと気になる乗り替わり】
G1で多数発生しがちな”前走ルメール”。今年のG1で印象的なのはルメール、前走ルメール、前走ルメールで決着となった宝塚記念ですが今回のエリザベス女王杯は
・ブレイディヴェーグ(今回もルメール)
・サリエラ(前走ルメール今回マーカンド)
・ハーパー(前走ルメール今回川田)
の3頭になるわけですが、これはまあ単純にルメール騎手の中では3頭の中でブレイディヴェーグに一番乗りたいということで選んだと見てもいいのかなと思います。まあハーパーは秋華賞出走後に経過を見ての出走かもしれないので断言はできませんが、サリエラは選ばれなかったと見ていいのかなと。
そんなことより気になるのはアートハウス(坂井瑠星)です。昨年のオークスでスターズオンアースよりもアートハウスを選んだあの川田騎手が、何よりもパールコードにG1を勝たせられなかったその気持ちを優先した川田騎手が積極的にアートハウスに乗らないという選択を取るとは考えづらい。
ということは骨折からの休み明けとなるアートハウスの状態が出走できるかどうかかなり微妙なところで、出走が決まったのがハーパーの出走が決まるよりも後だったのではないかと4歳の秋という競走馬として最もいい時期にG1に挑戦するためにギリギリで出走に踏み切ったのではないかと思う訳です。
1週前追切の映像的にはいつも調教駆けするアートハウスらしく猛時計を記録していましたが、出走までにどこまで最好調に近づけられるか。能力的には上位人気馬との比較でも全く見劣りしないだけに、この人気なら美味しいと見るかどうか、穴党の腕の見せ所ですね…
【上位人気馬の評価と気になる穴馬】
・ブレイディヴェーグ
重賞未勝利の身ながらルメール騎手に選ばれ、どうやら1番人気になりそうなブレイディヴェーグ。
明確なウィークポイントとして挙げられるのがスタートの悪さというかゲートの下手さ。これまでのキャリア4戦全てで誰が乗ろうと出遅れておりこれは大きな不安要素。伸びあがるようなスタートになってしまうのでどうしてもスタートの一歩目が遅いので、内枠だとあっという間に包まれてしまう可能性が高く避けたいところ。外枠に入ればスタート後の二の足は悪くないので最後方よりも一つ前で競馬ができる可能性はある。
スローからの末脚比べになりそうな今回、最後方からになってしまうと流石に厳しいが、逆に言えば付け入る隙として挙げられるのがそれくらいしか思いつかない。
切れ味比べになればメンバー内でもトップレベルなのは前走の走りを見ても疑いなく、血統的にもマイナスする要素が無い。距離延長で臨んだ1勝クラスも強烈なパフォーマンスで走り切っており、今回2Fの延長とはいえそこまで不安要素にはならない。
一見隙のありそうな一番人気だが、無理に嫌うべきではないかと思う。
・ジェラルディーナ
阪神開催だった昨年の覇者。昨年のエリ女で勝利してから勝利こそないが、強い相手と戦いながらも大きくは崩れていない。
2走前の宝塚記念は勝ちに行ったが故の最後伸びきれず4着であり全く悲観する内容ではなく、前走はゆったりペースからの強烈な5Fロンスパの削り合い。11.5-11.5-11.6-11.5-12.4ではこの馬の持ち味である持続力を活かした差しは決め辛く、差さり切らなかったのもやや仕方ないと言える。
今回の不安点としては5歳秋になった今瞬発力勝負で上位と言えるかどうか。最後に33秒台の上りを記録したのはG3で勝ち切れていなかった昨年6月の鳴尾記念。昨年のエリ女、有馬と持続力が活きるタフな展開でこそ結果を出し続けてきた馬であるだけに、溜めて溜めて4Fの瞬発力戦となった時の切れ味勝負では正直かなり不安なところ。宝塚の時のように早めの仕掛けで自らタフな展開に持ち込んだ場合でも他の馬に差しきられる可能性が高く、ムーア騎手が騎乗したとしてもちょっと本命には評価しづらいというのが本音。
・ハーパー
上位人気の馬では圧倒的に逆風が強い。
・キャリアでの上がり最速が34.2であり、上がり3位以内が2回だけ。前走から状態的に上積みがあったとしても今回横の比較で上位の上りを使う可能性は極めて低い。
・京都外回りで成績の悪いハーツクライ産駒。
とこの2点でも上位人気ならば十分に嫌う理由になり得るが、好走しているのが稍重のクイーンCと秋華賞、締まったペースで持続力戦となったオークスであり、スタミナと持続力、立ち回りの上手さ武器である一方トップスピードの低さがウィークポイント。
前述のとおりスローで足を溜めて、高いトップスピードが求められそうな今回上位に評価する理由が見当たらない。
・ディヴィーナ
トップスピードが高いうえに前目の位置につけられそうなのはかなり魅力的だが、そもそもスタートが不安定な馬であり、近2走先行して競馬が出来ているとはいえ今回も信用していいのかはやや疑問。
2200の距離は1勝クラスでしか経験が無く、今回2年半ぶりとなるがこなせるかどうかは一つ課題。出来れば折り合いをつけて足を溜めた状態で直線を向きたいので何とか前に馬を置きたい。本質的なスタミナとしては2200も問題なくこなせるとは思うが前走の走りを見ると流石に逃げて折り合いを欠きながらでは終いまで足をつかうのは難しそう。
前走時点で428㎏と小柄な馬体で56㎏を背負うのは不安ではあるが、斤量自体は初めてではなく、VMで56㎏を背負いながら上がり最速を出せているのは心強い実績。
過去の例を見ても小柄な馬の場合は逃げ先行から粘り込む形での好走が目立つところであり、比較的小柄な馬体ながら4歳~6歳の3年連続で好走したクロコスミアのような競馬ができれば、好走の可能性は十分あるのではないかと思う。
・サリエラ
5人気想定ではあるがちょっと魅力が薄い。
前走の新潟記念は状態面でも問題ありで度外視していいとは思う、2走前の目黒記念も55.5㎏を背負ってスタミナが求められる府中2500は適性的に厳しかったと考えてもいいかと思う。
安定して早い上がりを使うことが出来るのが魅力の馬ではあるが55㎏以上を背負った場合に上がり最速を記録出来ていないのは事実であり、今回初の56㎏で瞬発力比べになった時に上位になるとは考えづらい。
今回マーカンド騎手が騎乗予定だが、外国人騎手の騎乗だとディープインパクト産駒のような溜めて溜めて末脚を活かすような競馬をする馬よりは、非サンデー系の馬でスタミナを活かしながらガシガシと動かすことができるほうが向いている。
450㎏未満の馬だと過去20年で見ても2着が最高であり、末脚を活かした競馬であれば3着まで。ある程度人気をするのあれば逆らいたいところ。勝っても抑えまで。
注目穴馬を2頭
・ライラック
おそらく6~7人気になるかと思うがかなり魅力的。
前走の府中牝馬Sでは+18kgで過去最高馬体重だったが、夏を越しての成長分で馬体からもかなりの成長を感じさせた。
これまで切れ味勝負では分が悪かったところを、中団前目に構えてから33.0の上りで差の無い3着に差し込めたのは春までのライラックでは考えられなかった。
今回理想的には前走を使って更に充実して馬体増で出てきてくれること。450㎏を超えてきてくれれば逆風となるデータはほぼ無い。
クッション値の高い京都外回りだとステイゴールド系の好走も目立つところであり、坂を使いながら長く足をつかう展開はこの馬単体で見ても合いそう。
3歳時にスタミナと持続力を活かして2着に好走してから1年、成長して位置取りと切れ味を手に入れることが出来たとすれば京都に変わっても十分好走に期待できる。
頭まであるかと言われると微妙なところだが、1週前の動きも良く、期待したい一頭。
・ゴールドエクリプス
10番人気前後になりそうだがかなり魅力的な一頭。
前走3勝クラスを勝利してようやくOP入りした身ではあるが、決して能力が足りなかったわけではなく、騎手に恵まれなかったというのが出世が遅れた原因ではないだろうか。
今回望来騎手が騎乗予定だが、望来騎手騎乗時は2戦2勝と完璧。京都外回りである1800mは2-1-0-0と既に適性を見せている。重賞の2走では後方からの競馬となってしまったがマーメイドSでは大外からスタート決まらずペースも早かったので後方からの競馬、小倉記念では内から張り出してきた馬に進路をカットされた後内に行こうか外に行こうか迷っている内に後方とどちらも仕方ない面が強い。基本的には先行する競馬ができる馬なので今回のメンバーであれば前目に構えられる可能性が高い。
前走3勝クラスだったのでメンバーでは数少ない前走と同斤量での出走も魅力。
稍重かつ斤量+5kgで勝ち切った前走の上り35.5から良馬場の京都外回りで33.2の差きりを決めた2勝クラス使える上がりの幅も広い。
超ハイペースの初重賞でも4着に走ることが出来たマーメイドSで高い追走力も示しているところであり、今回のレースに向けてマイナスする点が前走非重賞組の成績の悪さくらいしかない。
1週前時点で抜群の動きが出来ており、大活躍中のドゥラメンテ産駒というのも魅力。
スローになりやすいレース質も相まって、逃げ先行馬が波乱を起こしやすいレースでもあるエリザベス女王杯。このタイミングで望来騎手の初G1制覇が合ってもいいのではないかと期待してしまう一頭。
【まとめ】
現時点では人気馬から選ぶならブレイディヴェーグかディヴィーナ。人気薄から選ぶならライラックかゴールドエクリプスかなと考えている。これにルージュエヴァイユとあとは状態を見極めたうえでアートハウスを足すかどうか考えて絞った馬券を組み立てられればと現状では考えています。
人気上位での決着が続いている秋G1ですが、あきらめずに狙える穴馬を探していきたいですね。