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1.母の中へ

子供は母親を選んでやってくるという。
また望まれず生まれてくることはないという。
あれは一体誰が考えたんだろうか?

とにかく私は母を選んだのかもしれないし、選んでないのかもしれない。
お空での記憶は無いのでその辺は分からないけど、とりあえず私は望まれず生まれてくることはないなんていうのは綺麗事なんだと最初から知っていたように思う。

父は地元では有名な企業の跡取りで、
母も地元では有名な家柄の長女だった。

母には他名家からの縁談が来ていたのだが、父は母と結ばれることを望み、母は他に想い人がいつつも将来を考えた結果、名家のご子息よりも成長企業の跡取りであった父と結婚をした。
2人は結婚してまもなく、男の子と女の子の2人の子に恵まれた。

父は仕事こそ熱心であったけど、毎晩遊び仲間たちと遊び回り、家には義父母義祖父母がいて、母はその家で、まるでそこの使用人のような生活をしていたそうだ。

母は弱音を吐くことも出来ず、実家に帰りたいともいえず、毎日を苦しい中過ごしたらしい。

想い人に会いたい。
日々そんな願いが膨らんでいったそうだ。

ただ想い人は学者で、日本各地を飛び回っていて、当時各々が電話を持っていることはなかったので、時々、見知らぬ番号から母屋にある固定電話に「俺だけど元気か?」とかかってくるのだという。
もちろん母屋には義父母や義祖父母がいるので、長く話すことも親しげに話すことも出来ずただ「はい、元気です。そちらはお変わりありませんか?はい、はい、ではまた。」とすぐ切らなければならなかった。

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