小さな疫病神
たぶん母にとって、
入院している時間が唯一の私との穏やかな時間だったのではないだろうか。
梅雨の真っ只中だったこともあり、面会にきたのは事情を知らない実父母と実弟のみ。あとは、その病院に務めている従姉妹のたかよおばちゃん。
(この方は後々私にとってのキーマンになるので名前をつけておきたい。)
後にだが、たかよおばちゃんは言っていた。
「ひつじちゃんのお父さんのこと…
ごめんなさいね、仕事柄いろんな人と関わるから噂を聞いていたら、色々と繋がってしまって。
従姉妹でも失礼だと思いながらも聞いてしまったの。
産後、心細く寂しいだろうなと思って病室をのぞいたら、お母さんは貴女を抱いてとても満ち足りたような顔をしてたよ。穏やかな表情で貴女を見つめていたの。窓際のベッドでね、外は雨が降っていて、なんだかとても綺麗だったな。」
たかよおばちゃんは唯一、わたしの事情を知った上で味方でいてくれる人だった。
退院はお手伝いさんが付き添ってくれたのだろう。
父が私に会ったのは、産まれて2週間家に帰ってから1週間ほど経った時のことだそうだ。
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