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彼の住まい

うちが所有している敷地は小さな小川と小道(車1台ギリ通れるくらい)によって、会社サイドと自宅サイドで別れている。
父は毎日この小さな小川にアーチ状に掛かっている2mほどの石橋を渡って出勤をしている。
1mほどの低い鉄柵で覆われた、だだっ広い庭のすみからかかるこの橋は、母屋からも会社からもよく見えるので、渡る人がいればよく見える。
強いていえば、母屋から橋に向かうにはだだっ広い庭を突っ切るのでとても目立つが、離れは橋の近くなので若干目立たない。

彼は敷地内に住んでいると大伯母は言うが、
会社サイドの敷地内にある4人ほどが入居できる下宿みたいな建物に住んでいた。
母は週に2~3回ほど彼の生活の手伝いをしにいっている。
私も時々一緒に石橋を渡って、彼のところへ行っていた。

彼は、恩と罪悪感と精神を病んだことによって、会社を辞められずこの下宿に7年も住んでいる。
大体みんな3~4年ほど住んで、結婚や1人暮しするだけの資金が貯まったからなどで、他の借家に引っ越していくのに、彼は未だ出れないでいた。
彼は母と出会う頃は底抜けに明るくおしゃべり好きで社交的な人だったらしい。
そんな面影はもうない。

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