兄として
父も大叔母には頭が上がらなかった。
理由は「自分がまだ半人前の時に社長(父の父)が倒れてしまって、会社の存続が危うくなったが、大叔父が助けてくれたから」らしい。
つまるところ、大叔父とその妻の大叔母は父の恩人なのだ。
そんな大叔母に兄が一言物申したので、父は大叔父と大叔母に呼び出され大変な説教を食らう羽目になった。
が、大叔母は自ら地雷を踏んだ。
父の前で母を侮辱したのだ。
「あの女は間男を敷地内に住まわせて、目付けだの世話役だの理由をつけて会いに行っている。ふしだらで穢らわしい女だ。」
みたいな内容だったんじゃないだろうか。
父の怒鳴り声が聞こえ始めた。
内容はよく聞こえなかったが、父の怒声が徐々に大きくなり離れにまで響いてきて、大叔父も慌ててその部屋に入っていった。しばらくして大叔母が少し項垂れて自分の部屋に戻っていくのが見えた。
おびえていた私たちだったが、とつぜん襖が開いて父が部屋に入ってきた。
母と私が住まう離れに父の部屋はない。
父と兄と姉の部屋は母屋にあって、兄と姉は昼間離れで過ごすことはあるが、父は基本的に母屋で寝食をしていた。
母と話す時も母屋に呼び出していた。
なので、ここに父がいることは少しばかり恐ろしい感覚になる。
父は私と母を見て、険しい顔をしてしばらくじっと見つめていた。
重たくてじとっとした空気だった。
そのうち兄に「こっちにこい」と言って、兄だけ連れて部屋から出ていった。
兄が離れに帰ってきたのは夕食の時間になってからだった。
ここから先は
736字
¥ 200
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?