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幸せであるように

朝一番に末っ子と耳鼻科に行った。
お盆明けの院内はかなり混んでいて、あとから来た人は座る場所もないほど。
私たちは早く着いたので後ろの方のベンチで一緒に本を読んでいた。
そこに一組の親子。
40代くらいの息子さんは障がいがあるようで、「行かない。行かない」と大きめの声でお母さんに伝えている。
お母さんは「ここで待ってるんだよ。大きな声は出さないよ」と繰り返し伝えているけれど、息子さんは落ち着かない様子。
そうだよね。
きっと行きたくない耳鼻科で、しかもこんなに混んでいて、嫌な気持ちがいっぱいになったんだろう。
それから、息子さんが何を伝えているか聞き取れなかったけど、お母さんが何度も「座る場所は空いてないんだよ」と言っていたから、座りたいと言っていたのかもしれない。
息子さんは、何度か声にならない叫び声をあげる。
前の椅子に座っているおじさんが後ろを振り返って、何事かと見つめる。
そのたびにお母さんは身を縮めながら「静かにします。大声は出さないよ」と繰り返す。


私は一緒に座っていた子どもに「ここの席譲ってあげていい?」と聞いたけど、子どもは本を読んでいたので「えーやだ」という返事。
その間にも、お母さんと息子さんは「車で待ってる?」「嫌だ」「椅子は空いてないの」というやり取り。
私は子どもに「本は、こっちで立ったままでも読めるからさ」と言って、お母さんと息子さんに「ここよかったらどうぞ。私たちすぐ呼ばれると思うので」と言って席を立った。
お母さんは「すみません。いいんですか? ありがとう」と言って、息子さんと一緒に座った。
息子さんはまだ声は出していたけれど、立ち上がることなく落ち着いて座っている。
子どもも「えー」と言っていた割には「むしこ(私のこと)って席譲るの好きだよね」って本を読みながら笑った。


診察が終わって、待合室に戻ると、さっき以上の混みっぷりで、でもその親子さんが後ろの席で穏やかに座っているのが見えた。
わたしと子どもが会計を終えて出るとき、お母さんが会釈をしてくれた。
早く呼ばれるといいな、と思いながら病院を出た。


普通に生活していても、予想外のことや、自分の思いと違うこと、こうしたい!という気持ちから外れたことはたくさん起こる。
そんなとき、「まあいいか」「そういうこともある」と思えたら楽だけど、そう思えないときもあるよね。
障がいがあると、「まあいいか」の範囲が狭くなることもある。
(逆に、広い分野もある!)
だから、自分は小さなことしかできないし、もしかしたらその親子さんにはもう会うこともないかもしれないけど、ただただあの親子さんが幸せであるようにと祈った。
困ったことが起きたとき、親子さんだけで大変なときは、誰か近くの人が助けてくれますように。
大変なとき、少しでも嬉しい気持ちですごせますように。
知らない人も知ってる人もお互いに隣の人のことを祈り合えたら、少しだけ平和になるのかもしれない。

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