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「クイーンズ・ギャンビット」 女王の白ベレーを作る

Netflixで大ヒットのミニシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』
孤独で身寄りのない少女がチェスの世界でのし上がり、勝利を掴んでいく物語。
 
メインビジュアルがすごくキャッチーで、配信が始まってからずっと気になっていました。でもー。これって多分「完全なるチェックメイト」の女性版みたいな話なんでしょ?ちょっと安易な気がするなー。

なんて思っていた頃の私よ、おまえは何を言っているんだちょっとそこに座れ。と今なら諭したい。

友人に、絶対いいからとにかく観て!と勧められ「じゃあ、1日1話観て、1週間ね」と観始めたのに……我慢できずに3日で一周し、さらに吹き替えを1日でもう一周してしまいました。

 いい……とても…いい……。友よ、ありがとう。

先ず、一度見たら忘れられないファニーフェイス。アニャ・テイラー・ジョイ演じる主人公ベスがめちゃめちゃいい、このメインビジュアルをご覧ください。

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大きな瞳、意志の強そうな眉!赤毛のボブヘアーが痺れるほどカッコイイ!
ストーリーはもちろんいいんだけど、美術と衣装がマジ神!

孤児院時代は野暮ったい服(しかしコレも可愛い)だったのが賞金額のアップと共に洗練されたモードになっていく。オシャレなだけでなく、色やデザインで時代の変化、その時々の気持ちや覚悟を見せる細やかな演出が素敵、そしてゴージャス!

物語の時代はベスが孤児となり施設に預けられる1950年代の終わり頃。選手としてのキャリアをスタートさせた1963年の州大会から、1968年の世界大会まで。

最初の賞金で彼女が手に入れるのは深いグリーンがベースになっているチェックのジャンパースカートとサドルシューズ。物語を通してグリーンは彼女のホームカラー。チェス盤を思い出させるようなチェックやバイカラーも大好きです。

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この後、66年頃にはヒッピームーブメントも描かれています。ジーンズもこの辺から登場。

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67年のパリ大会。すっかり大人の女性に。カルダンみたいなモダンなドレス。イカス背中のモチーフ!

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68年モスクワ大会。袖丈とグローブのバランス、襟のデザインが素晴らしい。これはクレージュのリアルヴィンテージだそうです。

衣装を担当したのはガブリエル・バインダー。90年代から多くの映画やドラマの衣装を担当しています。彼女の仕事も要チェックですね。(使用した写真は公式ページと以下の記事からお借りしました)

・ガブリエル・バインダーのインタビューを交えたエルジャポンの記事

・衣装をさらに立体的に見たい方はこちら。Netflix公式の衣装紹介


そして、今回作るのはラストシーン。白で統一されたこの衣装から

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白のベレー。

今回は難しい帽子ではないので、ご興味のある方は自作されるのも楽しいと思います。

◆難易度 (五つ星中)☆☆
◆制作時間 半日〜1日
◆可愛さ 無限大

作りは基本の6枚はぎベレー。
かんたーん!半日でできるっしょ。なんて思っている私などは簡単に失敗します(しました)。大丈夫です。失敗するところからがいつものスタートです。通常運転です。

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では、あらためて映像からよく検証してみましょう。

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・素材
厚めのウール地。よく見るとちょっとネップが入っています。うっすら起毛もありますね。しっかりした生地です。
てっぺんのポンポンは太めの毛糸。
・仕様
シンプルな6枚はぎベレー。縫い目にステッチは無し。簡単そうだけどちょっと工夫が要りそう。
目を凝らしてよーく見ると、生地の取り方は縦地のよう。

時期的に種類が少なくて、同じ生地は用意できませんでした。厚みのあるウールのコート地で作っていきます。

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パターンも検証していきましょう。極端ですが図にするとこんな感じ。

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上図をふまえてパターンを作り、かたちを見るために試し縫いをします。

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シーチングで試し縫いしたところです。ふくらみのピークが目立つので(左)もう少し丸く修正しました(右)。試し縫いは不織布などを使うのも良しです。

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修正した部分を解いて、それを元に型紙を作ります。1センチくらいの縫い代もつけておくと布裁ちしやすいです。

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ここでちょっと布のバイアスの話をします。

帽子、特にレディスの帽子は基本バイアスで取ります。頭にやさしく沿って被り心地が良くなるように。
かたちに沿う。ということは打ち込みの甘い生地などの場合「ゆるむ」といいますか…イヤな言い方をすると頭の形や自重で「歪む」のです。(もちろんプロの作り手は緩むことを計算したり生かしたりして作っています)
ベスのベレーはあまり弛ませず、かたちをしっかり保ってます。縦地で取っているのはデザイナーが場面の意図を汲んでかたちが際立つように作っているのでは、と推測します。

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こちらはバイアスで作ったために柔らかく出来てしまった失敗作です。
ベスのベレーからは離れてしまいましたが、柔らかく頭に馴染むので被り心地はとてもいいです。

※基本バイアス取りと書きましたが、帽子のデザイン、生地の柄などによって縦に使うこともよくあります。バイアス取りは生地が多めに必要なので、大量生産の製品にはあまり見られません。

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さあ、型紙ができたら後はもうパーツを作って縫うのみ!
厚みが足りなかったり、やわらかめの生地を使う時は接着芯を貼ってください。裏地は表地よりも少しだけ小さめに作っておくと綺麗にフィットします。

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前述した通り、ベスのベレーは縫い代にステッチがありません。
この場合、縫い代をアイロンでしっかり割るしかないのですが、布が厚地なので「戻り」が心配です。そこで倒した縫い代の下に蜘蛛の巣テープを入れて接着しました。

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ステッチ有りと無し。小さなことですがこんなふうに違います。ステッチが入るとちょっとカジュアル感が出ます。

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6枚のピースを縫い合わせると上から見て六角形になります。縫い代は強度が増すので、極端に言うと上図右のようなことになります。
より丸く仕上げたいときは内側に丸みのあるものを入れてスチームで丸く整えます。スチームは必ず裏から!

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はい。丸くなりました。

裏地をつける前にてっぺんのポンポンを付けちゃいます。
ワタクシ、今回ポンポンというものを初めて作りました。ポンポン初心者です。

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手作りポンポンメーカー!ダンボール製。
なんせはじめてですからどれくらい巻けばちょうどいいボリュームになるのかわからず……試行錯誤してウールの極太毛糸を85回巻きに落ち着きました。いや、楽しいですね、ポンポン作り。

太めの糸でてっぺんに取り付け、裏側で糸を結んで固定します。
ポンポンが付いたら裏地を入れ、端を縫って合わせます。(ほつれが気になるときはここでロックをかけてください)

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端から1センチのところに輪になったサイズリボン(サイズテープ、スベリ とも呼ばれます)をぐるっと縫い付けます。サイズリボンはグログランを使うといいですね。一応うちのブランドタグを付けました。

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完成です。

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うむ。だいたいイメージ通り。柔らかいけどかたちはしっかりしています。裏地はチェス盤をイメージして市松模様。いい光沢。

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真横から見るとこんなかんじ。

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チェス盤模様の裏地を探していたらこんなのも見つけちゃったので……縫ってみました。こっちもかっこいいな。

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ここまで作っておいてアレですが、「ベレー/型紙」などで検索して出てきたパターンで作れば十分それっぽくなると思います。ベレーのいいところは少ない布で作ることができる点です。コロナの影響で美容院に行くのを控えている今日この頃。髪型がいまいち決まらないときにも便利。

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言い足りない!ラストの胸熱展開!
(ここからはご注意!ネタバレあり)

ファッションの話ばかりしてしまったけど、クイーンズ・ギャンビットはストーリーが…もう……いいんです!
天才プレーヤーの話は孤独や依存症との戦いが描かれることが多いのですが、クイーンズ・ギャンビットの場合、それだけではありません。
『友情、努力、勝利』
少年ジャンプの3大原則を感じるんですよ!

高校生の、しかも女の子だからと舐めてかかっていたプレーヤーの男性たちも彼女に負けて実力を知り、自分の弱さに傷つきながらも友情を築いていきます。

自分を置いて死んでしまった母親の呪いのような言葉で、誰も信じてはダメ、強くならなくてはダメ、と彼女はずっと自分に言い聞かせてきました。
でも孤独に追い詰められて依存症から抜けられない時、どうしても勝ちが見えず八方塞がりな時、思いがけないことが起こります。自分がひとりでは無いことに気がついた時、ベスの本当の強さが発揮されるんです!(号泣)

ポーンを昇格(※)させて勝利を掴んだベス。ラストシーンの白一色コーデは盤上の戦い同様、ポーンからクイーンになった彼女自身を象徴しています。今回作った白いベレーはクイーンの駒がいだいているティアラ。6枚ハギなのはちょっと角を出して王冠っぽさを演出しているんじゃないでしょうか。シーンの小道具一つとってもいろんな事が考えられていますね。

※promotion:相手側の最終列に達したポーンは、同色(味方)のクイーン、ビショップ、ナイト、ルークのどれか好きな駒に昇格させなくてはならない。ほとんどの場合最強の駒クイーンに昇格させる。

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最後に。音楽もとてもいいです!劇伴もステキですが、時代とともに変わっていく音楽の選び方にセンスあります。

Netflix公式プレイリスト(Spotify)

暑苦しく語ってしまいましたが、ぜひご覧いただきたい作品です。

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