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成功と失敗は偶然?「平均への回帰」

私たちのまわりには、成功や失敗の話があふれています。それらがすべて努力や才能だけで決まっていると考えたくなるかもしれません。しかし実際には、偶然が大きく影響しているケースも多いのです。

そこで注目したいのが「平均への回帰」という現象です。これは、極端に良い結果や悪い結果を出したあとには、次に起こる結果が本来の実力や水準に近づく傾向がある、というものです。

今回は、その仕組みを具体例を交えながら見ていきましょう。

平均への回帰ってどういうこと?

「平均への回帰」とは、テストで80点を取った人が次回は少し点数を下げたり、逆に20点だった人が次回には少し点数を上げたりするように、極端な結果が出たあとの次の結果が平均に近づく傾向を指します。

もちろん、常に同じ点数が出るわけではありませんが、個別のテストでは上ぶれや下ぶれが起きやすいということです。

人はどうしても「〇〇したから下がった」「〇〇したから上がった」と考えがちです。しかし、その変化が偶然によるものかもしれないと意識しておくだけで、結果に一喜一憂するのを防ぎやすくなります。

飛行訓練教官が見た“叱る”と“誉める”の真実

心理学者ダニエル・カーネマンは、かつてイスラエル空軍の教官向けに「誉めることが訓練の成果を高める」と説きました。すると、ベテラン教官の一人がこう反論しました。

飛行訓練生に当てはまるとは思えない。訓練生が曲芸飛行をうまくこなしたときなどには、私は大いに誉めてやる。ところが次に同じ曲芸飛行をさせると、だいたいは前ほどうまくできない。

一方、まずい操縦をした訓練生は、マイクを通じてどなりつけてやる。するとだいたいは、次のときにうまくできるものだ。だから、誉めるのはよくて叱るのはだめだ、とどうか言わないでほしい。実際には反対なのだから。

ダニエル カーネマン ファスト&スロー

一見すると「誉めると逆効果、叱るほうが有効」に思えます。しかしカーネマンは、それは「平均への回帰」だと説明しています。

訓練生が誉められるのはたまたま非常に良い出来だったとき。一方、叱られるのはたまたま悪い出来だったときです。

次の訓練で同じレベルを維持するには運やコンディションなど多くの条件が同じである必要がありますが、現実にはそううまくいきません。

結果として飛行訓練の場合では、誉められた後の成績はやや落ち、叱られた後の成績はやや上がるように「平均」に戻りやすくなるのです。

なぜインデックスは平均に回帰しやすいのか?

この「平均への回帰」は、投資の世界でも見逃せないポイントです。特にS&P500などのインデックス投資は、極端なリターンが出ても数年以内には平均的な水準に戻りやすい傾向があります。

たとえば、過去数十年にわたりS&P500は年間平均で約7%ほどのリターンを示してきました。もし、ある年にS&P500が30%という高いリターンを記録したとしても、その後数年は低いリターンに落ち着く可能性が高いのです。

逆に、リーマンショックやコロナ禍などの大きなショックが原因で低いリターンが記録される場合もあります。しかし、こういったショックがあっても長期的には市場全体の成績が再び平均的な軌道に戻る動きが観察されています。

「平均への回帰」は本来の実力への回帰

以上で見てきたように、「平均への回帰」という現象が示すのは、極端な結果が出た後に、本来の実力に近い結果に戻る傾向がある、ということです。

ただし、ここで重要なのは「本来の実力」が異なる場合があるという点です。そのため、平均への回帰が起きても、高い結果を維持するケースも十分あり得ます。

たとえば、普段はテストで50点を取る生徒が80点を取ったとします。この場合、彼の本来の実力は50点前後である可能性が高いと言えます。逆に、普段はテストで80点を取る生徒が50点を取ったとしても、彼の本来の実力は80点前後である可能性が高いです。

つまり、それぞれの「平均」への回帰が起きても、絶対的には後者の生徒の実力が高いのです。このように「平均への回帰」は、あくまでその人固有の平均への動きであり、絶対的な評価はその平均の高さによって決まります

重要なのは「平均への回帰」という現象を理解することで短期的な成績に惑わされず、長期的な実力を見極めることです。また、運が左右するようなランダムな要素が強く作用する事象なのかどうかを判断することも重要です。

まとめ

「平均への回帰」は、偶然が影響する出来事も多いことを教えてくれます。この現象を知ることで、私たちは成功や失敗に過剰な感情を抱かず、冷静に物事を見られるようになります。

特に投資では、短期的な成績に惑わされることなく、長期的な視点を持つことが重要です。

次に成功や失敗を見たとき、それが本当に努力や原因によるものなのか、それとも偶然なのかを少し考えてみてください。視点が変わると、世界の見え方がきっと違ってくるはずです。


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