見出し画像

30周年に感謝を込めて

『2022年5月10日 今日は私のミスチル記念日。』

 スマートフォンのメモアプリに、こんな記載が残っている。東京ドームからの帰り道、感動でいっぱいになった身体から、言葉が溢れ出してきて、私はスマートフォンに話しかけていた。
 2022年5月10日 Mr. Children のデビュー30周年のその当日 人生で初めて、ミスチルのライブに参加した。

 Mr. Children についてコアなファンの方々に比べたら自分はホコリ程度の存在だと思っている。全部を追っている訳ではないから、語れることがほぼない。ファンを名乗るなんて烏滸がましいとさえ思う。
 それなのに、私はMr. Childrenが大好きだ。
 20代に出会ってからずっと、驚くほどミスチルしか聴いていなかったし、(BUMP  OF CHICKENに出会うまでは)音楽はミスチルだけあればいいと思っていたくらい、どっぷりだった。
 家に居る時間、車を運転しながら、常にミスチルの曲を流し続け、アルバムが出れば購入し、付録のミュージックビデオを観てボロ泣きし、出演する音楽番組は録画してDVDに保存して、繰り返し鑑賞した。
 そのせいで、3人いる子どものうち特に上の二人は、どの曲も耳に馴染んでしまっていて、メディアから流れてくると、ほぼ歌えてしまうようになった。そりゃそうでしょ、生まれる前から聞かせていたからね。
 ちなみに一番下の息子だけは、BUMP OF CHICKEN の楽曲が魂に浸透しているらしく、誰の曲かも自覚していないのに、隠しトラックも鼻歌で歌えてしまう。母親の影響って恐ろしい。
 おっと、話がそれた。

 年数だけは重ねているのに、‘にわか'と言ってもいいくらいの自分だが、数年前からこっそりと、ツアーのお知らせの度に、申し込みはしていた。
 家庭の事情と仕事の事情から、ライブコンサートに行くことを、想像することもできなかった時期に、心の拠り所になっていたのがMr.Children だったから、一度はライブに行きたいと、大好きな音に生で触れてみたいと、小さく細く無意識レベルで願い続けていた。

 2022年2月、ファンクラブでもなかなか当たらない記念日のチケットが当選した瞬間
「おめでとう、私!!」と叫んだのを覚えている。
 ライブや推し活にあまり肯定的ではない家族もいるけど、その時は、なぜかみんながお祝いしてくれた。
 感染症が猛威をふるい、職場でも対応に追われ続けていた時だったから、ライブに行けるかどうかも分からず、当選したことは、家族以外には誰にも言えなかった。
 4月、新しい職場に転勤になり、遠方への出張が、ライブの次の日に入った時は、ヒヤッとした。日程が被らなくてよかったけど、出張の準備・打ち合わせなどがあり、ライブの日のお休みを取ることは不可能となった。

 職場からライブ会場へ‘直行コース‘は初めてだけど、それもなんだかミスチルと私の距離感に合っているような気がする。早朝からグッズを買うために並んだり、会場で写真を撮ったり、友達に会ったりするライブも大好きだけど、仕事先からスーツで駆けつけるのも、なんかカッコイイとさえ思う。
 開演には絶対に間に合いたいけど。

 ライブグッズは事前に購入して会場で受け取ることができる。これなら、ギリギリに行っても大丈夫かな。どのグッズ買おうかな?とワクワクしながらサイトを眺めていた。
 公演日が近づいてきたので、そろそろグッズを申し込まねば・・・とサイトにアクセスしたら、会場受け取りの枠がもう埋まっていて、さらにお目当てのグッズも売り切れ(´;Д;`)
 初めてのミスチル記念に、会場ごとに違った色の、日付入りタオルとか、チケット型のキーホルダー(これも会場と日付入り)は絶対に欲しいと思っていたから、もう、本当に絶望しかない気持ちになった。
 甘かった。大御所の規模の大きさをもっと理解しておくべきだった。
 当日早朝から並べば買える可能性もあったようだが、がっつり仕事がある平日なので、もう諦めるしかない。
 この案件は、思い出すたびに、激しい後悔に襲われるから、ここに明記して供養しておく。  
 もう二度とこんな失敗したらはしないぞ。
 分かったか?私。

 あまり強く、大きく期待しすぎるのは、よくないと思っている。
 叶わなかった時に、悲しすぎるから。
 軽い気持ちで、生活の一部のように、ライブやイベントに行ける、そんな精神の育った大人になりたい。
 なのに、私は、好きになると全力で、心が大きく揺れすぎる。だから、なるべくフラットな心で、いなきゃいけない。クールに、賢く、冷静に、自分をコントロールできる距離で、遠くから応援する感じがいい。

 ライブ当日も、そんな事を自分に言い聞かせながら、電車に揺られ、会場に向かった。そんな風に言い聞かせなければいけないくらい、期待が膨らんでいたんだと、今になって気がつく。不器用すぎるし、面倒臭いな、自分。

夜の東京ドーム

 職場をどうにか抜け出して、開演の1時間ほど前に会場に着いた。
 実に人生2回目の東京ドーム。1回目は前述のBUMP OF  CHICKEN TOUR 2019 aurora arc TOKYO DOME ファイナル。最高の思い出の詰まった大切な場所に、2年半ぶりに戻ってきた。
 駅から向かう通路は人で溢れている。ほとんどの人が、今回のグッズを身に纏っていて、ドームの周辺はミスチルのファンしかいない様相だ。圧倒されながら、人の流れのまま入り口に向かう。懐かしのグッズ売り場のテントは案の定まだまだ長い列が続いている。やっぱり諦めるしかないな。
 ふと見ると、少し離れた所に、誰も並んでいないテントがある。ライヴ会場に出張しているCDショップのテントだ。明日発売の30周年記念CDが並んでいる。
 いつもならネットで予約して買っているはずだったけど、今回はいろいろと立て込んでいてまだ購入していなかった。二つセットだとかなり高価だし、どこでも買えるといえば買えるけど、30周年のこの日に、この場所にいた記念に、これほど相応しいものはないのでは?
 間もなくライブがはじまってしまう。迷っている時間はない。
 そうだ、今日の自分へのおみやげにしよう。今日、ここに居た事を記憶に残すために、これは必要経費だ。

あの日購入したCD

 大変な人混みと喧騒の中、そこだけがぽっかりと光って見える特別なテントで、美しいパッケージの2種類のアルバムを手に入れた私は、CDショップの簡素なショッパーを抱え、ほくほくと暖かい気持ちで、会場に向かった。

 ライブの後、勢いのまま書きとめたメモには、具体的な事はあまり書かれていない。ただ、すごいものを見た、とだけある。

 奇跡のチケットは、スタンド席の頂上に近い所で、もちろんステージは遥か彼方。ほんの少し1塁側寄りだけど、でも、会場全体を見渡せる、自分にとっての特等席だった。

 ステージの正面に設置された巨大な装置に、映像が映し出された瞬間から、今日のライブの世界に惹き込まれる。
 今回のツアータイトルのイメージを表現したみたいな、回転扉、先ほど手に入れたCDのジャケットにあるアートワークが動き出したような美しい世界が会場いっぱいに広がって、そして、エントランスマンが叫び声をあげ、ステージに4人が登場する。

 ああ、すごい、
 そこに、
 Mr.Childrenが、いる。

 演奏が始まる。
 4人の奏でる音が、すぐそばに感じる。
 巨大な装置に映し出される映像や、音響、演出が一体となって、ドーム全体に、曲を届けてくれている。
 物理的な距離など感じさせない、まるですぐそばにいるかのような、存在感。
 次々と演奏される楽曲の、どれもが、自分の一部みたいに心に刻まれていて、どの曲が来ても、大丈夫な自分にびっくりする。

 初めて会うのに、まるでずっと前から知っていたみたいな。ふるさとに帰ってきたみたいな、懐かしい気持ちが湧き上がってくる。
 歌声が、演奏が、四人の笑顔が、やっと会えたね、会いたかったよ、また会えて、嬉しいよって、伝えてくれている。いや、私がそう思っているだけかもだけど。

 ありがとう、とか、ヤバい、とか、
 すごい、尊い、あぁぁ・・大好き。

 語彙力崩壊の感情がまぜまぜになって、声に出そうになるけど、まだ、今は、声を出すことはできないから、手が壊れるくらい精一杯拍手をして、ちぎれるくらい手を振り続けた。

 ミスチルの音楽に頼り切って、支えてもらっていた期間は、人生で一番過酷な時期でもあって、曲と連動して記憶や感情が流れ出す。
 ただ、曲が好きで、ひたすら聴くだけの、いちリスナーにすぎないくせに、イントロを聴くだけで、涙が止まらなくなる。

 暮れていく空、薄暗い部屋で、生まれたばかりの乳児を抱えて途方にくれていた時、テレビに映るMVに感動して泣いていたこと。
 仕事が終わらなくて、居残りをしながら、大音量で流し続けた、ベストアルバム。一緒に歌って、元気をもらったこと。
 眠気を堪えて車を走らせていた時も、理不尽な上司に腹を立てていた時も、高熱を出した子供を保育園に迎えに行く時も、ずっと曲が側にいてくれた。
 なんて、沢山の時間を、一緒に過ごしてきたんだろう。

 ライブに来て初めて、私はMr.Childrenの4人がとても仲良しで、クールでcuteなことを知った。とても楽しそうに演奏し、笑い、歌い、叫ぶ。
 ボーカルの桜井さんの歌は、CDで聴くよりももっと魅力的で、ドームの隅々まで響きわたって、すみっこの私にもすぐ側にいるみたいに届く。ステージを縦横無尽に駆け回り、ダンスをする姿が可愛くて、尊くて、目を離せない。

 詳細はほとんど覚えていないけど、桜井さんは、曲の合間にとてもたくさんお話をしてくれた。うろ覚えのMCをいくつか書き留めたい。

 今日が何の日か知ってる?そう、30年前の今日、Mr.Childrenはデビューしました。平日なのに、こんなに集まってくれてありがとう。
 まさか、こんな日が来るとは、思いもしなかった。声が出せない、一緒に歌えないライブをする日が来るなんて。でも、安心して、僕らが代わりに精一杯演奏して、歌うから。
 これほどやさしくて、力強く話しかけてくる拍手は経験がない。みんな、すごいよ、ありがとう。
 東京、もっといける?そう、心の中で叫んで。

 声を出せない状況でも、ちゃんと私たちの気持ちは伝わっていると、言葉を変えて何度も言ってくれたことが、何よりも嬉しかった。

 ライブだと、あの曲は、こんなアコースティックなアレンジになるんだ。
 とか
 ハモニカ!ハモニカ吹くんですね!!尊いです!
 とか
 そのイントロ、スクリーンのカラー、あのMVのモチーフ!
 とか
 4人で出っ張りでいちゃいちゃする会話 
 とか
 印象に残っているシーンは数えきれない。

 一番聴きたかった曲と共に、スクリーンに映し出された映像が、今の世界で起こってる争いの情景を想起させる演出で、歌声と演奏に圧倒されて泣いてしまったこと。

 ずっと会いたかった、ライブをしたかった、届けたかった気持ちを、握りしめてようやくここに来れた。そんな思いを届けます。
 と桜井さんが、こぶしを胸の前で強く握りしめて歌ってくれた、最後の曲。

 どの場面を思い出しても、今でもじんわりと涙が出そうになる。

 曲と曲のつながりが自然で、見事な構成と演出で、音楽を通して、一つの物語を体験させてもらったような
 桜井さんの歌声と、4人の奏でる音に圧倒され続けた3時間半だった。 

 初参加が自分にとってのファイナルであればいい。
 もう、一生、ここに来れなくても、私は、この記憶と感情で、生きていける。
 そんな風に思えるほど、濃密な時間を過ごすことができた。

 陳腐な言葉しか出てこないけど、やっぱり伝えたいことは、ただひとつ。
 30年続けてくれて、曲を届けてくれて、ライブをしてくれて、
 出会ってくれて、素敵な時間と思い出を、本当に、ありがとう。

 10年先も 20年先も
 君と生きられたらいいな
 2022.5.10
 Mr.Children 30th Anniversary

会場を飾るパネル 日付がうれしい
今回の記念に初めて描いた四人の絵


あとがき
この文章はライブツアーの真っ只中に書いていたので、曲名を伏せたままになっています。
好きな方は想像してくれるとうれしいな。
色々あってライブから半年も経ってしまったけど、せっかく書いたからここに置かせてください。
読んでくれてありがとうございました。

追記:この日のライブが映像作品として来年1月に発売される事が決定しました。めちゃめちゃ嬉しいです。興味持った人はぜひ買ってください。
あと、売り切れていたグッズは後日受注販売で再販されました。なんてファン想いなんだろう・・ありがとうMr.Children..大好きです。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集