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「こっち側。」 店主

8年前。

音楽に護られている中学生だった。
世界との緩衝材として、暇があればイヤホンをしていた。

そんな僕も、健全な中学生らしく、恋をしていた。
そして、その彼女も健全に恋をしていた。別の人に。

僕は、ある曲に救いを求めた。
溢れそうな気持ちを言葉にしてくれるその曲で、崩れそうな自分を護った。

思い出されるのは、駅から家までの15分。
夕焼け、踏切、居酒屋、歩道のない道、道路のくぼみ、
膝をくすぐる猫じゃらし。
そして、彼氏の愚痴が書かれた彼女からのメール。

ありふれた片思いだったけれど、必死だった。

彼女に、片思いのそばにあったその曲のことを話したのか、
よく覚えていない。
けれど、その曲が片思いのテーマソングだったのは僕が先だったはず。

8年経ったいまでも、隣にいるその人は時たまその曲を聴く。

積み重ねた時間と今ここにある幸せとで、その度、顔が綻ぶ。

本と散歩が好きなひとです。最近、web古本屋をはじめました。

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