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足りなければ満たせばいい~古内一絵著『マカン・マラン』を読んで

ライターのwakkkaです。
読んだ本の感想を書いています。
なぜなら、書いておかないと忘れてしまうから。

今回読んだ本は『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』
作者は古内一絵さん。
出版は中央公論新社です。

『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』あらすじ

夜中にオープンする隠れ家カフェがあったら、行ってみたいと思いませんか?

夜食カフェ「マカン・マラン」を訪れるのは、仕事がうまくいっていなかったり、悩みを抱えていたりする元気がない人々です。
そんなお客さんたちは店主シャ―ルが作る料理で癒されて、元気を取り戻していきます。

「夜食カフェ」というだけあって、シャ―ルの料理は野菜を使ったヘルシーな一品ばかり。
食後には各人に合わせてブレンドした、ハーブティーまで出してくれるんです。

ただし、カフェの営業は不定期。
店主シャ―ルはド派手なドレスをまとった、ドラァグクイーンです。

『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』私に刺さった!名シーン

物語は「夜食カフェ マカン・マラン」を訪れる、お客さんのエピソードを中心に展開します。
なかでも私がグッとっきたのは、第三話『世界で一番女王なサラダ』の章。
あらすじを紹介します。

ライターの安武(やすたけ)さくらは、小さな編集プロダクションに所属している。
大手出版社の下請を担う仕事で、連日残業が続く激務だ。
今担当しているのは、憧れていた女性雑誌の「隠れ家カフェ特集」
取材先を探したり取材許の交渉をしたりするために、残暑厳しいなか足を棒にして歩き回る。
そこで、マカン・マランを訪れて……。

出典:古内一絵著『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』

さくらはライターになりたくて専門学校に通ったけれど、大手出版社への就職は叶いませんでした。
私はフリーランスのライターなので、さくらの境遇は身につまされる話だなと、胸が痛みます。
ライターに限らず「今やっているのは、本当にやりたかった仕事だろうか」「自分は何者にもなれなかった」と考えてしまう瞬間は、誰にでもあるのではないでしょうか。

タイミングが悪かったり、不運が重なったりしてすっかり落ち込んでしまったさくら。
ふらりと「マカン・マラン」を訪れます。

「私……。本当はあの雑誌の記者じゃないんです。ただの下請けのライターです」
「下請けだって、記事を書くのはあなたなんでしょう?それなら同じことだと思うわ」

(中略)
「私、空っぽなんです」
気づくと言葉がこぼれ落ちていた。曲がりなりにも随分文字を書いてきたのに、そのひと文字も、どこにも残っていない。日々塗り替えられる情報に上書きされ、押し流され、あっという間に消えていく。

(中略)
なぜなら、さくらには自分の言葉がないからだ。
社会に出てから六年。”仕事を回せ、数をこなせ”と発破をかけられ続け、いつの間にか、無難な文章の書き方ばかりが身についてしまっている。
忙しいばかりで、ちっとも自分の実績にならない仕事。

引用:古内一絵著『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』

あぁ、なんということ!
私にとって、胸をえぐるような描写が続く。

私は数をこなすことや仕事を回すことばかりに目がいき、無難な文章の書き方ばかりが身についてしまってはいないだろうか?
毎日毎日文字を綴りながら、この文章は「誰かに届くのだろうか」「どこかで少しでも記憶に残り、誰かの役に立っているのだろうか」と思わない日はありません。
読みながら鼻の奥がツーンとして、なんだか泣きそうになります。

ゆっくりとシャ―ルは自分の胸に手を当てた。
「足りなければ、満たせばいい。空っぽならば、埋めればいいのよ」
さくらの心の奥底に小さな灯がともる。
「さあ、召し上がれ」

(中略)
「サラダはメインになれないなんて言うけど、あたしはそうは思わないわ。最初からなにもかもそろってる人生なんて、面白くないじゃない。あたしはどう足掻いたって、本当の女性にはなれないけど、だからって、自分の人生を降りたいとは思わないわ」

引用:古内一絵著『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』

シャ―ルのごくシンプルな言葉が、私の胸に刺さりました。
「足りない、空っぽだ」と嘆くよりも、自分が持っているものを伸ばしたり、広げたり、ほかから取り入れたりして埋めればいいんだな。
スーッと、目が開いたような気がしました。

さて、さくらがこの後どうなったか?
気になる方は、ぜひ『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』を読んでみてください。
読んだ感想も、コメントしていただけたら嬉しいです。

『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』を手に取ったわけ

『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』を読み終わって、いい本に出合えて、幸せ~と思った。
この本を紹介してくれたのは、「きんじょの本棚」を主催するきんじょうみゆきさんです。

「きんじょの本棚」とは、家の前に本棚を置いて、どこで借りてどこに返してもいいという、素敵な本の循環システムです。
きんじょうさんが「きんじょの本棚」を始めたきっかけの一つが、この『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』だったというお話を聞いて、私も読んでみた次第。

私に響いたシーンと、きんじょうさんが感銘を受けた箇所は、きっとまったく違うんでしょうね。
同じ本を読んでも受け取るものは人それぞれですから。
これだから、本は面白いと思います。

まだまだ未知の出会いや感動やワクワクがあって、それをいつでも本が運んできてくれるでしょう。
2025年もたくさん本を読み、忘れないうちにnoteに書きます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。






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wakka
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