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家族にしか見せない顔がある『次郎と正子娘が語る素顔の白洲家』を読んで
はじめまして。
本好きWebライターのwakkaです。
読書メモを公開しています。
2025年2月7日、東京都町田市にある旧白洲邸「武相荘」に行ってきました。
白洲家が実際に暮らしていた家を一般公開している施設です。
「武相荘」という名前は「武蔵の国と相模の国の境にある家」であることと「不愛想」を掛け合わせたものだとか。
古い農家を改装した、茅葺屋根の家と手入れの行き届いた庭が、何とも言えず素敵でした。
囲炉裏がある室内には、白洲次郎氏の遺言状や、正子夫人が使っていたアクセサリー、著名人からの手紙などが展示されています。
今回紹介するのは、そんな武相荘を訪れた後に読んだ、牧山桂子著『次郎と正子 娘が語る素顔の白洲家』です。
『次郎と正子 娘が語る素顔の白洲家』を手に取ったわけ
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「武相荘」のなかでも特に私の心を捉えたのは、書斎です。
板の間に置かれたシンプルな文机、そして周囲を埋め尽くす本棚。
全集や辞書など、重そうな本がぎゅうぎゅうに詰め込まれ、棚板がわずかに歪んでいる様子に、そこで過ごされた年月と生活の息遣いを感じました。
「ああ、ここで白洲一家は、どんな暮らしをしていたのだろう?」
古い建物や古民家が好きで「武相荘」を訪れたものの、実は白洲家に関する知識はほとんどありませんでした。
まるで順番が逆ですが、武相荘を訪ねたことがきっかけで、白洲家に興味をもったわけです。
そして手にしたのが『次郎と正子 娘が語る素顔の白洲家』
読みやすく、興味深いいエピソード満載で、あっという間に読了しました。
『次郎と正子 娘が語る素顔の白洲家』を読んで
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著者は白洲家の長女である、桂子(かつらこ)さんです。
名家のお嬢様として、幼少期から何不自由ない暮らしをしていたのかと思いきや、その実態はまったく違っていたようです。
本書は、以下のような一文から始まります。
「なにかが変だ」
それは、私が何歳の頃からか、自分を取り巻くまわりの世界を意識するようになった時に感じ始めたことです。
「かつらこ」と読む珍しい名前を始め、周りの子供たちとの違いを徐々に感じ始めた桂子さん。
母は、良く言えば、独立心を養うためという名目のもとに子供と一歩距離を置く、悪く言えば、自分の世界だけに生きている、という風な人でした。
学校の入学式、運動会などに来てくれたことはありません。入学式のために、娘に新しい洋服を拵えるという意識もありません。遠足や運動会にも、特別なお弁当などありませんでした。
生涯一度も料理をしなかった、という正子さん。
幼い桂子さんにとって、それは少し寂しいことだったでしょう。
さらに、正子さんは負けず嫌いな性格だったようで、娘と何かと張り合う様子が、ユーモラスに描かれています。
桂子さんは大人になるにつれて、両親の性格を把握して、まるで親子の立場が逆転したように見えます。
プロ野球観戦が好きだった正子さんは、テレビの前で球場の応援に合わせて太鼓や笛を鳴らしていたそうです。
そのシーンが可笑しくて、思わず吹き出してしまいました。
しかし手は二本しかなく、太鼓を叩けば笛が吹けず、太鼓のほうがお好みだった母は、嫌がる父に笛を渡して、合奏を強要していました。しかし音痴の気があった父はうまく笛が吹けず、そうと見ると、母はその笛を引ったくって太鼓を彼に与え、応援の大合奏が始まるのでした。二人で太鼓を叩き、笛を吹くさまは、子どものように可愛いものでした。
まるでコントのような光景が、ありありと目に浮かぶ素晴らしい描写ですね。
一歩引いて両親を見ている桂子さんの冷静な観察眼に、とにかく敬服します。
子供のような次郎さんと正子さんの姿が、娘である桂子さんの視点を通して明らかになる本書。
型破りな両親の姿に、驚きを隠せません。
あとがきで、桂子さんは以下のように綴っています。
両親の事が色々な雑誌の記事になったり、NHKのドラマになったりした事からでしょうか、未だにたくさんの方達が訪れて下さいます。
それらのせいでしょうか、武相荘と共に彼等は独り歩きをしはじめ、最近では私にとって自分の両親というより、メディアで見かける人達になりつつあります。
この部分から、メディアを通して作られたイメージとは違う、両親の本当の姿を少しでも伝えたいという思いで、桂子さんはこの本を執筆したのではないかと感じました。
実業家・骨董の目利き・文筆家など、さまざまな顔を持つ白洲次郎氏と正子夫人ですが、家族にしか見せなかった顔こそが、彼らの本当の魅力なのかもしれませんね。
『次郎と正子 娘が語る素顔の白洲家』読書記録まとめ
読んだ本:『次郎と正子 娘が語る素顔の白洲家』
著者:牧山桂子
読了日:2025年2月15日
手にした経路:図書館
正子さんが武相荘での暮らしを綴った『鶴川日記』も、読んでみたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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