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<ひととてまnaヒト vol.03>ぬくもりとエッジの共存。「モノを大事にすることは、自分の生活を大事にすること」(家具デザイナー 渡辺陽さん)

こんにちは!
【ひととてまnaヒト】担当のマイコです。

みなさんはお気に入りの家具というと、何を思い浮かべますか?
今回登場するのは、木材の魅力を生かしたテーブルやなめらかなフォルムのイスなど、魅力的な家具を手がけている家具デザイナーの渡辺陽さん。ひととてま代表の平野智子さんと埼玉県狭山市内の工房におじゃまして、実際に工具や模型を見せていただきながら、着想の源やものづくりへの想いを伺いました。「大事に使ってもらえるモノをつくりたい」という渡辺さんの温かさとエッジが同居する家具づくりの魅力に迫ります。
それではどうぞ!


ぬくもりとエッジの共存。「モノを大事にすることは、自分の生活を大事にすること」(家具デザイナー 渡辺陽さん)

渡辺陽|家具デザイナー
1993年3月 武蔵野美術大学・空間デザイン学科卒業
1993年4月 ウッドカンパニーに参加 木工修行を始める
2000年4月 『家具のワタナベ』設立
2002年3月 朝日新聞社主催『第3回 暮らしの中の木の椅子展』入選
2004年3月 朝日新聞社主催『第4回 暮らしの中の木の椅子展』入選
http://kaguwatanabe.minibird.jp

プラモデルより、答えがないほうに惹かれる


マイコ(以下、M):

今日はよろしくお願いします!
工房を初めて見せていただくんですが、いろいろな工具があるんですね。

渡辺陽さん(以下、渡辺)
数種類のカンナや、ルーターという機械などがあって、デザインした家具をこの工房で製作しています。

電動カンナの説明をしてくれる渡辺さん。木材をカットしたり表面の凸凹をきれいにしたりする際、数種類のカンナを用途によって使い分けているそう。

平野智子さん(以下、平野)
(渡辺)陽さんには、「CafeBarひととてま」のすべての家具をつくってもらいました。 デザイン事務所「ひととてまDesign」で家具の製作をお願いする際は、わたしも工房を訪れて、最終着地までイメージをすり合わせていくことが多いです。

M:
「CafeBarひととてま」の入口のテーブルは木の形を生かしてとても個性的でした!

(左)吉祥寺「CafeBarひととてま」のインパクト大のテーブルと、(右)平野さんより、3本脚で、座り心地よく、コンパクトに収納ができる点をオーダーしたというスツールの試作品。

渡辺:
たまたま良い材をたくさん譲っていただくことがあって、その一部を「cafebarひととてま」に入れています。個性が強くて、ほかの店には入らないものが収まるべきところに収まったというか!

平野:
(渡辺)陽さん、わたしの店だからって、いろいろ遊んでいるし、実験していますよね(笑)

イスの座面の型(左)を使って、板をその形に切っていく作業の様子(左)。型と板をクランプ(留め具)で動かないように固定し、ルーターという機械を使って型に合わせて切っていく。

M:
さっそくいろいろ伺いたいのですが、「こういうモノにしよう」というアイデアは、場所を見て考えるのか、先にモノをイメージするのか、みたいなところでいうと、どうですか?

渡辺:
場所を見るところからが多いですね。空間の大きさや”何を大事にしているか”、個人宅だったら全体のインテリアスタイルだったり。いろいろなことを聞いて、その状況で判断します。
大体まずスケッチをして、それから簡単な図面を引き、3D にする場合もあるし、1/5とか1/3サイズの模型を作って検証するという流れです。

基本的には「マイナスしたい」という欲求が強いんです。なるべく少ないパーツで、最小限で構成したい。何でもそうだと思うんですけど、足して成立させようとしているときはうまくいっていないですね。

M:
渡辺さんは、デザインから製作までやられていますが、実際形にしていく過程では、どんなむずかしさがありますか?
 
渡辺:
そうですね、実際つくりはじめて「これはあかんな」とわかっちゃったときは苦しい(笑)。
どうしても3次元にしてみないとわからないことがあります。小さいサイズの模型でもディテールまではわからないので、最終的に、実寸の模型で試作を繰り返して調整します。そこが難しくて、でもおもしろいところでもあります。

M:
デザイン上で成り立っていても、実寸にするとうまくいかないこともあるんですね。

渡辺:
そうそう。わからないからおもしろいんでしょうね。たとえば、プラモデルは答えがわかっているから、つくろうとはならないんです。完成写真を見て満足しちゃう(笑)

M:
たしかに、仕上がりがわかってます……!(笑)

”構造的な意味づけ”からデザインを考える

M:
家具をつくる際は、どういうことを意識されていますか?

渡辺:
家具の中でも、僕の場合は脚モノ(イスやテーブルなど)がおもしろくて好きなんですが、考えているのは、素材、構造、施工、強度、フォルム。特に、”人が考えないような構造”について常に考えていて、そこから入ることが多いです。 自転車こぎながら、「こういう構造はまだ無いよな」とか(笑)
イスに関しては、どのイスの影響を受けているとか、あのイスとあのイスのどの部分を組み合わせたとか、見たら言えますね。

楽しそうに話してくれる渡辺さん。
工房には、試作品のイスや家具のパーツがたくさん並んでいました。

M:
すごいですね! 頭に入ってる。
”構造”というのは、物理的な形・つくりのことですか?

渡辺:
そうです。イスの脚が4本あって、4方向で支える必要があるときに、座面の裏には何もないようにしたい。無くしてどうやって持たせるのかっていうことから考えます。

「このイスは全部横で脚を受けていて、この形ができたときは”きた!”と思いました」
と渡辺さん。

たとえば、耳付きの板(※)がありますと。そこから丸太がイメージできるので、「生命力の表現として枝みたいな脚があるとかわいいよね」という発想だと、僕の場合は身体が動かないんです。「構造的に意味があるから、枝の形にする」という意味付けがないと惹かれない。そういう意味で、作家ではないんだと思います。作品ではなくて、使う人がいる製作物。「自分の表現です」っていう感覚とはちょっと違いますね。
※耳付きの板:丸太の一番外側の樹皮が付いていたデコボコした部分を残している板

平野:
以前、個人宅用のダイニングテーブルの制作をした際も、”構造”から考えて3パターンを最初にデザインしてもらいましたよね。そこから脚の形や見た目と合わせて最終的な形を決めました。

渡辺:
重たいテーブルだと基本的に脚が太いほど安定するけれど、太いと見た目が野暮ったくなる。そこで、脚の上部分の支点を2か所にして、力を分散させることで脚の下部分を細くしました。

個人宅のダイニングテーブルの模型(左上)と、2か所で支える脚の試作品(左下)、実物の木材(右)。家主の好みの板を木材屋さんで選ぶところから「ひととてまDesign」が伴走し、打ち合わせを重ねて渡辺さんが製作した一点モノ(写真提供:ひととてま)

平野:
試作を見せてもらって、さらに脚を細くしてほしいとお願いして。

渡辺:
最終的に、50㎜だったところから38㎜まで削った。さらに、真鍮のゴールドのプレートもつけて支えるようにしました。

完成し、大事に使われているダイニングテーブル(写真提供:河野家)

平野:
すごくかわいいのができましたね!

渡辺:
あれはかわいかった!

工夫してちょっとずつ新しさを足していく

M:
プロダクトデザイナーだったりインテリアデザイナーだったり、いろいろなデザインがあると思うんですけど、渡辺さんは「家具」に思い入れが強いですか?

渡辺:
家具以外にもデザインすることもあるし、できることはなんでもやれたらいいかなとは思っているんですが、道具が好きなので、やっぱり家具が好きなんだと思います。

渡辺さんの製作したイスやテーブルたち。左上は、東村山市の久米川幼稚園に納品した、五味太郎アネックス<i・mashita chair>(写真:kagunowatanabeより)

特にイスは、みんな身体のつくりが違うので、決まった正解がないのがおもしろいですね。何十万円もするイスでも、「自分には座り心地が悪い」といわれたらそれまでで。ディスカウントショップの椅子が「形も最高に好きで、座り心地も最高にいい」としたら、もうそれがその人の正解。それに、自分で座って確かめながら削るので、つくり手のらしさが出るのかもしれない。

「いろいろ試作して座ってみて、脚が折れて転んだりしてます(笑)」と渡辺さん

M:
つくり手の”らしさ”でいうと、渡辺さんのイスは、フォルムやデザインにかわいらしさやあたたかさを感じます。

渡辺:
どうなんだろうな。割とすごいエッジィな感覚を持つ人の作品が好きで。家具だけではなく、音楽や映画やクリエイティブ全般、 これつくったの嫌なヤツなんじゃないかってぐらい感覚が尖ってるものに出会うとうれしい。だから、自分もエッジを意識してつくりたいとは思ってますね。

M:
なるほど。やさしい雰囲気と、”人が考えないこと”を追求している精神が共存しているというか。さきほどの構造的な意味付けという話にもつながりますが、新しさを課していくのはハードルが高そうです。

渡辺:
RHYMESTERの『K.U.F.U.』 っていう曲があるんですけど、「ご先祖たちの探求に 一個付け足す独自のブランニュー」って歌詞があって。そうやって、僕なんかは常に工夫してやっていくしかないのかな、と思っています。

M:
おおー! そういうことですね。

渡辺:
自分の今までの積み上げてきた知識やデータの組み替えだったりする部分もあり、だからDJ的な作業というか。さらにおもしろいのは、いろいろなものを組み合わせて自分のフィルターを通すと別のモノができあがってくること。

ふつうのモノを底上げして、大事に使ってもらえるように

渡辺:
人がやらない構造のような”ふつう”じゃない要素を、ふだん使うモノの中に入れたいんですよね。日常の中でふつうに使っているけど、実はすごく工夫がある、というのがいい。

洋服でいうと、ブランド物の服やドレスももちろんいいんですけど、普段着の中にあるイメージ。構造の新しさをふつうに使うものに入れたい。ふつうのモノを底上げして、日常で大事に使ってもらえるモノにしたいですね。

M:
大切につくられているモノは大切にしたくなりますね。

渡辺:
ああ、言っちゃったな(笑)。のちに自分にブーメランで返ってきそう……。

平野:
わかる。私もよくあります。返ってきますよね、自分に(笑)

渡辺:
まあでも、ちょっとカッコつけましたけど(笑)、モノを大事にするって、 自分や自分の生活を大事にすることなので。自分を大切にすると人も大切にするし、そうやっていると周りのものが変わるかな、ということも思いながら、モノづくりをしています。

20年来の友人という渡辺さんとひととてま代表の平野さん。

音楽や映画にも詳しい渡辺さん。家具づくりについて、いろいろな例えを用いながらわかりやすく説明してくれました。中でも、ご自身のモノづくりのスタイルを、”ジャズのインタープレイ型"と表現していたのが印象的。他の演者のプレイに反応して、即興的に瞬間のカッコよさを生み出していくセッションのイメージが、家具づくりのイメージと重なってみえてきたから不思議です。
使う側としても、作り手が”ふつう”の中に紛れ込ませた斬新さや工夫を感じとりたいし、作り手からのバトンを受け取りたい、と新しい視点をもらいました。

次回は、セルフビルドのサポートをする「えんがわ商店」の渡辺正寿さんにお話を伺います。(モノづくりの渡辺さんが続きます…!)
お楽しみに!

【企画・写真:平野智子】
【聞き手・文:片岡麻衣子】

【連載担当】片岡麻衣子(KORU works/フリーランスライター・広報)
香川生まれ、四国と関東で育ち東京在住。大学時代はイギリスで平和学を学ぶ。PR会社、NPOや舞台制作会社の広報を経て、フリーに。ダンス大好きの姉とおしゃべりの止まらない妹の2児の母。好きなことは、旅、花、水泳、娘と遊ぶプランづくり、おまつりごとの高揚感。
https://greenz.jp/author/kataokamaiko/
https://www.facebook.com/maiko.kataoka.52/

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