<ひととてまnaヒト vol.04>セルフビルドという選択。“自分でつくる”ことでたどり着く、究極の自己満足の景色(えんがわ商店/セルフビルドパートナー 渡辺正寿さん)
こんにちは!
【ひととてまnaヒト】担当のマイコです。
みなさんは、自分の”理想の家”を妄想したことはありますか?
今回登場するのは、長野県で活動するセルフビルドパートナーの渡辺正寿さん。自ら”セルフビルドパートナー”という職業をつくり、セルフビルドをしたい人、自分の家づくりに関わりたい人のサポートをしています。紆余曲折を経て自らの「役割」を見つけ、ていねいに固めてきた渡辺さん。つい相談して頼りたくなる優しい雰囲気の中に、ぶれない芯の強さを感じました。「セルフビルドのサポートを仕事にするってどういうこと?」という素朴な疑問から、活動に込めた想いやこれから目指す未来まで、「自分でつくる」に少しでも引っかかる方、必読です。
それではどうぞ!
セルフビルドという選択。“自分でつくる”ことでたどり着く、究極の自己満足の景色(えんがわ商店/セルフビルドパートナー 渡辺正寿さん)
「住まい手」を「つくり手」にする、自らの役割を見つけて
マイコ(以下、M):
今日はよろしくお願いします!
さっそくですが、渡辺さんは「えんがわ商店」を立ち上げて、セルフビルドパートナーとして活動されていますが、どのようなことをしているんですか?
渡辺正寿さん(以下、渡辺):
セルフビルドパートナーというのは、自分でつくって名乗っているんですが、セルフビルドやDIYをしたい人のサポートを仕事にしようと始めました。「自分でつくりたい」と思ったときに、相談できるところがないと感じていて。わかりやすい表現を探す中で、この言葉にたどり着きました。
2015年に「えんがわ商店」を立ち上げた当初は、いわゆる工務店のように、自分でつくりたい方と請負契約(※)を結び、セルフビルドのサポートとして大小含め100案件以上に携わってきました。
その後、請負契約の形式に窮屈さを感じるようになり、3年ほど前からは、セルフビルドやDIYをやりたい人の会員制のオンラインコミュニティ「えんがわラボ」をつくり、そこを中心に活動しています。
M:
オンラインコミュニティがメインの活動になるんですね。
渡辺:
今はそうですね。道具の選び方や基本的なつくり方の情報提供、相談や質問のやり取りをしたり、オンライン交流会や対面でのワークショップを行ったりしています。任意ですが、メンバーには、自分の取り組みたいことをマイプロジェクトとして立ち上げてもらい、進捗を共有し、メンバー同士でアドバイスしあう場にもなっています。コミュニティにすることで、より「自分でつくる」ことのサポートに特化できるようになりました。
M:
現場で渡辺さんがセルフビルドの作業を手伝うこともありますか?
渡辺:
それもあります。別途費用をいただく形ですが、実際現場に入って作業をお手伝いしたり、職人さんとつないだりということもしていますし、毎週打ち合わせをするような集中的なサポートプランもあります。
“手作り感”のある家、にならなかった原体験
M:
「セルフビルドをサポートしたい」という想いには、何かきっかけがあったんですか?
渡辺:
もともと、ハウスメーカーや工務店で営業として8年ほど働いていたんですが、ハウスメーカー時代のある原体験がありました。新築案件のお客さんが、「“手作り感”のある家をつくりたいんです」と、DIYの雑誌を見せてくれて計画がスタートしたことがあって。僕自身もそういう雑誌を見るのが好きだったので、「ぜひやりましょう!」と一緒にわくわくしたんですよね。ただ、僕の役割は営業で、お客さんの想いは伝えながらも、計画が進んだところで、現場に渡して手が離れていく。完成して引き渡しのタイミングで会ったときに、そのお客さんは「いい家ができた」と喜んでくださったんですが、「ただ、ちょっときれいすぎちゃいました」と一言おっしゃったんです。笑顔ではあったけれど、その言葉がショックでした。プロの仕事として、きれいで良い家ができた。けれど、たくさんの人が関わる中で”手作り感”を出したいという住まい手の想いからは離れていってしまったと感じて、苦い記憶が残りました。
その後、工務店を辞めて建築から離れていた時期に、長野の自宅の庭に自分で薪小屋をつくってみたんです。これまで営業職で現場のことはわかっていなかったので、つくり方から調べて、見よう見まねでつくったらすっかりハマってしまって。そのとき当時のことを思い出して、“手作り感”のある家をつくりたいなら、自分でつくってもらったらいいんじゃないかと思ったんです。そのお手伝いを自分の仕事にしたいと思いました。
セルフビルドは、自分で考えて自分で選ぶプロセス
M:
うちも家を建てた経験がありますが、たくさんのプロが関わってくると、自分たちの住む家なのに、どこか手放してしまって、自分たちで何かつくるという発想には至らなかったです。セルフビルドという関わり方が新鮮でおもしろいと思いました。とはいえ、住む家となると、安全性や強度など、プロでないと不安な面もありますが、そのあたりセルフビルドパートナーに寄り添ってもらうことで解決できますか?
渡辺:
セルフビルドというと、ストイックに「全部自分で」と考えるかもしれませんが、頼るところは頼って、やりたいところをやる形でいいと思っています。僕の中では、セルフビルドを大きく捉えていて、「何でも自分で考える」「自分でこうしたいと意思を持つ」ことも含めてセルフビルド。つくるモノも家一棟でなくても、「自分でつくることがセルフビルド」という考え方です。DIYの方が言葉として浸透していますが、僕自身はセルフビルドという言葉が好きで、“自分自身をつくる”という意味でもあると思うんです。
M:
実際にコミュニティに参加する人は、どういう人が多いですか?
渡辺:
割と女性が多くて、半分以上ですかね。全体として、自分がちゃんと関わって家をつくりたいという人が多いです。セルフビルドがしたいからというより、自分のこだわりもあるし、全部任せてしまうことに違和感を感じて、声をかけてきてくださっている気がします。
M:
女性が多いんですね! さきほど請負契約を卒業したという話がありましたが、セルフビルドに伴走するときに意識していることはありますか?
対立関係をうまない、共創し伴走するしくみ
渡辺:
やはり「セルフビルド」、自分でつくることが大前提なんで、住まい手さんにオーナーシップを持っていてほしいと思います。
請負契約だと、契約の性質上、依頼する側は「お金を払うんだから責任持ってやって」と投げてしまい、受ける側は「もうそれ以上言わないで」という対立構造に陥りがちです。そうではなくて、「自分でつくる」意識をまずは根本に持ってもらいたい。
今も契約書が必要な場合はありますが、「住まい手さんの責任でつくることのお手伝いです」というスタンスをとっています。オンラインコミュニティでも、「考えてくれるんですよね?」「やってくれるんですよね?」と頼られることもありますが、「自分で」という部分がなくなりそうなときは、その度に少し立ち止まって、「そこは自分で考えるんですよ」と整理するようにしています。
あとは、やりたいことに対して、基本的にはダメとはいわないようにしていて、メリットとデメリットを伝えた上で、自分で判断してもらっていますね。
M:
自分で責任を取る分、チャレンジもできるし、得られる満足も大きいということですね。
渡辺さんのブログの中で、セルフビルドをした人の共通点として、「苦笑い」の表情、と書いてあったのが印象的でした(笑)
渡辺:
そうなんです(笑)。笑うけど、大変なので、ちょっとツラさの入った笑いで。やってよかったかどうかはその人が決めることなので、僕は「やった方がいいですよ」とは言わない。「自分でつくる」とはどういうことかを伝える役だと思っています。
同じ土俵でやっている仲間がいるので、コミュニティの存在は大事です。情報交換をしたり、メンバーの作業が発生するときには、他のメンバーにも声をかけて、お互いに手伝いにかけつけることもあります。
M:
つくり合う関係があるのはいいですね!
渡辺:
まさにそれが理想で、セルフビルドの“結(ゆい)”を作りたいと思っていて。屋根のふき替えを村の中で順番にやるような、共同体の中で力を貸しあう仕組みを目指しています。セルフビルドできる人が5~6人チームになって、順番にやりたいことをやったら、結構たくさんのことをやれるんじゃないかと思うんです。
今は、メンバーは長野県が中心ですが、他県の方もいらっしゃるので、全国的にそういうつながりを作りたいと思っています。
プロのセルフビルドパートナーを増やしたい
M:
家づくりを請け負うより、寄り添ってサポートする方が手間がかかって大変そうな印象があります。渡辺さんがセルフビルドパートナーという役割を担えるのは、想いが強いからですか?
渡辺:
もちろん想いもありますが、片手間でなく、仕事として腹をくくるかどうかだと思います。
大工なり、建築なり、本職を持ちながら、好意で副業的に相談に乗るのは、そんなに力も入らないし、限界がある。「いいよ、やっちゃうよ」と手を出してしまったり、手間をかければかけるほど大変になったりして、割に合わなくなってしまう面もあります。
そもそも「つくり手」はできるだけ費用を抑えようと発想をするのに対して、「住まい手」側とキャッシュポイントが違う点もちょっと無理がある。
僕自身、実際やりながら見えてきたところですが、お互い気持ちいい関係を保つために、料金設定をきちんとして、仕事として専門にやる人が必要なんだと思います。「あなたがやるんですよ」と割り切って、サポートに徹せられるかがポイント。僕の次のステップとしては、プロのセルフビルドパートナーを増やしていきたいと思っています。
M:
各地にそういう人がいると心強いし、「住まい手」と「つくり手」の垣根がなくなっていくのもおもしろいですね。
渡辺:
たとえば、職人さんだと、プライドや経験がある分、突拍子もないことに対しては「それはダメ」となってしまうこともあります。間をつないで通訳するのもセルフビルドパートナーの役割だと思っています。
「誰が何と言おうが、よくできた俺!」
M:
渡辺さんご自身もそうですが、実際セルフビルドをやってみた人たちは、どんな気づきや変化があると感じますか?
渡辺:
それは僕の中では明確にあって、セルフビルドの本質は自己満足。自分でつくったところを、一日の作業終わりにビールを飲みながらいつまででも眺めていられる。「ここすごい削ったな」とか、自分にしかわからない細かい部分を見ている時間が大好きですね。この実感がもう究極だと思う。要は、すごい満たされるんですよ。自己満足というとネガティブな印象があるかもしれないですが、自分で自分を満たしてあげるのは、すごく幸せなこと。それはウェルビーイングの究極だと思っていて、ぜひ体感してほしいです。「誰が何と言おうが、よくできた俺!」っていう(笑)。
M:
自分でやってみないとたどり着けない満足感ですね!
渡辺:
「家は3回建てないと満足しない」と言われるんですが、何回建てても何かしら不満は出るんじゃないかと思うんです。プロに任せて失敗していたら許せないですよね。でも、誰かのせいだと満足しないけれど、自分でつくってうまく出来なかったところは、「逆にいい感じ!」と受け止められたりする。そういう意味で、セルフビルドはすごく自己責任で、トータルで考えると、自分の納得感につながると思います。
M:
家だけでなく他の部分も自分でつくりたいことが出てきそうです。
渡辺:
そうそう、建築だけじゃなくて、何でもセルフビルドできたらおもしろいですよね。それって”生きる力”で、自信がついていくと思うんです。僕もサラリーマン時代に苦しんで自信を失っていた中、自分でつくることで自信を取り戻せたところがあって。セルフビルドは、「こんなこともやれる」と自分を認めてあげるプロセスでもあります。
M:
生きる力、自分でできるという自信が幸福感につながるんですね。
渡辺:
だから、そのときの自分みたいな人の背中を押したい、何かのきっかけになれたら、という気持ちがあります。
家の場合、住宅ローンを組んで家を建てるか、賃貸で住むかの2択みたいになっていますが、ほかにセルフビルドという選択肢があってもいい。セルフビルドで、「週末の時間に自分の家づくりをやって、生きがいにしませんか?」というメッセージも込めています。
インタビュー終わりのご飯会では、ゼロから始めて試行錯誤してきた渡辺さんを、温かく応援してきたご家族の話も聞けたのが印象的でした。自分で徹底的に考え抜いて、セルフビルドパートナーという「役割」を整え、仲間を増やしてきた渡辺さん。まさに自分の人生を”セルフビルド”してきたからこそ、穏やかな語り口の中に、確かな説得力を感じて、これからさらに活動が広がっていく未来が見えました。
次回のインタビューもお楽しみに!
【企画・写真:平野智子】
【聞き手・文・構成:片岡麻衣子】
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