【ひととてまnaヒト】はじめます! <vol.01>ひととてま代表/建築デザイナー 平野智子
こんにちは。はじめまして。
今月から、「ひととてま」に関わる人たちを紹介する連載【ひととてま na ヒト 】(全10回予定)をスタートすることになりました。連載を担当するマイコです。どうぞよろしくお願いします!
はじめに
みなさんは、“人と手間(ひととてま)”というとどんなことをイメージしますか?
より効率的に、より楽ちんに、と求めてしまう中で、”手間“というとちょっと敬遠しがちでしょうか?
一方で、ものをつくり出す“人”の魅力や“手間”の温かさは失いたくない、と感じる人も多いのではと思います。
ひととてま代表の平野智子さん、こと“ともちゃん”とわたしは、かつてNPOに勤めていたときの同僚。当時から、丁寧なものづくりの印象があった”ともちゃん”の「ひととてま」の取り組みに、とても納得するとともに、そのコンセプトに興味が湧きました。今回この機会をいただき、「ひととてま」が大切にする、人が生み出す“手間”の価値について考えを深めてみたいと思っています。
というわけで、初回は、ひととてま代表/建築デザイナーの平野智子さんのインタビューから。
どうぞよろしくおつきあいください!
<ひととてまnaヒト vol.01>暮らしをカスタマイズできるともっと自由になれる
(ひととてま代表/建築デザイナー 平野智子)
マイコ(以下、M):
第1回、よろしくお願いします!
これからこの企画を始めていくにあたり、あらためて「ひととてま」の取り組みについて教えてください。
平野智子さん(以下、平野):
「ひととてま」は、“人”が生み出す“手間”の良さについてとらえ直したり、触れたりする場をつくりたくて始めた活動です。そういう想いは以前から漠然とあったけど、いい表現がないかなと思っていて、「ひととてま」ということばに思い至ったのは、2020年から。
具体的には、「ひととてま」というコンセプトを核に、デザイン事務所の「ひととてまデザイン」や、曜日ごとに店主の違う「CafeBar ひととてま」、さらに、今年2月からはコワーキングや学び場としての「ひととてまStudio」もオープンして活動しています。
M:「ひととてま」というコンセプトを聞いたとき、とてもすてきだし、ともちゃんらしいなと思いました。そういう活動をしたいと思ったのには、どんな背景やきっかけがあったの?
平野:ふだん、家やお店をつくる建築やデザインの仕事をしているので、ものづくりに関わっていて、いろいろな手仕事に触れる機会が多いんだよね。職人さんや専門家の仕事に魅せられる一方で、消えそうな技術や文化がたくさんあることに気付いて。そういう”手間“を残したいし、必要としている人につなげる役目ができないかな、と思ったのが初めのきっかけです。
たとえば、大工さんの仕事でいうと、鉋(かんな)がけができる人が減っていたり、無垢材を使うことが少なくなったり。コストや時間、効率など、優先順位の中で選ばれなくなっていくもの、意識しないと残らないものがあって、それがいろいろな分野で起きていると感じました。
同時に、使う側、消費する側にとっては、つくり方や選び方の分からないものが増えているよね。実はカスタマイズできたり、選択肢もいろいろあったりするのに、気付いていないことも多い。社会の中で、提供する側と消費する側が分断されてしまうことにも問題意識がありました。
M:たしかに。普段使っているけど、つくり方や仕組みがわからないものがたくさんあって、それってちょっと不安だなと思うときがある。
平野:たとえば、味噌づくりのワークショップをしているんだけど、味噌にしても、スーパーで買う、という選択肢以外も知っていたらいいなと思っていて。つくってみると、味噌と大豆と麹と塩があれば、あとは混ぜて寝かせばできる。時間はかかるけれど難しいことではないんだよね。
実際につくってみると違う観点に気付けたり、自分でもできると知れたり、そういうきっかけになったらと思っています。
選びたいときに、“手間”を選べる世の中にしたい
M:話を聞いていて、“手間”をかけるかどうか、ということ以上に、生活の中で、いろんな選択肢をもつきっかけづくりをしているのかなと感じました。
平野:そうそう。選べるカードを増やしたいと思っていて。
そのときその人にあった選択肢があると思う。時間軸も変わってくるから、今は子どもが小さいとか、家族の関係性にもよるし、自分の気持ちや状態にもよるし、そのときどきにおいて一番いいやり方を選んでもらえるといい。自分にあった“手間”のかけ方を見つけるきっかけになれたらいいなと思っています。
M:“手間”って、ポジティブな意味でもネガティブな意味でも使うことば。「これ“手間”だな」「“手間”をかけなきゃ」だと苦しくなるけれど、たとえば何かをじっくりつくりたいときに、その方法を知っていると思うと心強いね。
ただ日々の生活では、どうしても効率よく、なるべく時短にと考えて、雑になるところもたくさんあって......
平野:わたしもそんなに時間をかけているわけではないよ。
例えば、料理とか、お菓子づくりにしても、すごく時間をかけている人のやり方とはまた違うと思う。自分のスキルや限られた時間の中で、どうしたら嫌じゃないやり方でできるかを考えてやったり、コツを勉強したりしているかもしれない。ご飯をつくるにしても、時間がなくてもご飯とお味噌汁だけは素材もちゃんと選んでつくろうとか。時間があるときにまとめて準備しておこうとか。
自分でできる範囲の中で、工夫をして“これでいっか”を決めています。
プロの技術や知識を、翻訳して伝える役目
M:はじめに大工さんの例を出していたけど、「ひととてま」の活動はもっと身近なところでの手しごとの印象がある。“アマチュア”で楽しむ、というか。
平野:たしかに。アマチュアって表現はおもしろいね。
職人さんのすごい技術や、○○賞受賞の技とかも、もちろん大切にしたいけど、わたしとしては“何かすごいこと”でなくてよくて、普通の生活の中の工夫に興味があるのかも。
たとえば建築の世界で、専門用語が多くて一般の人に伝わりにくいことがあるけれど、それはもったいないと思っていて。専門家の技術を翻訳して、その人がどういう暮らしをしたいかに寄り添えたらと思う。だから、「ひととてま」の活動でも、翻訳をして伝える、ってことをやっているんだと思います。
M:たとえば、ともちゃんから見て、どんな人が“ひととてま”な人だなって思いますか?
平野:周りにいるひとはそうかな。Studioに関わってくれている人たちもそうだし、CafeBarの店主をやってくれている人もそうだし。自分らしさに正直な人、というのが共通していえるかもしれない。
ただ、だれが、というより、だれでもその人なりの”手間“をかけるポイントがあって、それを紐解くことに興味があるのかも。その人を知る中で、なににこだわるのかとか、どうしてこれを選んだんだろうとか、とか。
過去のイベント参加者に「わたしも“ひととてま”してみました!」と言われたことがあって、そういうふうに動詞として取り入れてもらえるのもうれしい。
M:オープンしたばかりの「ひととてまStudio」では、どんなことをやっているの?
平野:コンセプトは“暮らしの軸となるタネを蒔き、育むところ”。
紹介制会員制のクローズドな形で始めているんだけど、素材や調味料にこだわったまかないを出すコワーキングスペースであり、暮らしの学び場としてものづくりを体験ができる場所でもある。それから東洋医学をもとにした施術サロンもやる予定。
今は手狭なので、ゆくゆくは拡大移転したいと思っていて。そしたら手前ではおむすびとお味噌汁屋さんをやって、奥にStudioがある、みたいのがやりたいな。
M:いろんなことができそうだね。おむすびやさんもぜひ実現してほしい!
最後に「ひととてま」について、今後目指していきたいことはどんなことですか?
平野:「ひととてま」の思想を残していきたい。その先には、暮らしをカスタマイズしてのびのびと生きる人を増やしたい、という想いがあって。なんだか苦しそうにしている人を紐解くと、空間的なアプローチだったり、食事的なアプローチだったり、パターンはいろいろだけど、選択肢が限られているように感じるので、自分で選び取ることで、自分に丸をしてほしいと思います。
そのためにも、「ひととてま」を味わう人、体験する人を増やせるように、活動を広げていきたいと思っています。
M:今後の活動も楽しみです。ありがとうございました!
その後も話題は尽きず、同僚時代の気付きや、NVC(非暴力コミュニケーション)、片付けの話など多岐におよび......!
さまざまな分野のつくり手やそれに共感する人たちとつながり、コミュニティを広げている”ともちゃん”。暮らしの中の選択肢を、一緒に学んだり考えたりする場があることで、自分の理想の暮らし方を手に入れていけるイメージがわきました。
次回は、【だしな薬膳®️】の石丸由美子さんにインタビューさせていただく予定です。お楽しみに!
【写真:Maki Amemori】
【聞き手・文 片岡麻衣子】
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