【あんま師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法違反事件】
【営利的言論の自由】に関する、本邦唯一の最高裁判例とされる。
滋賀県の灸師であった被告人が、近隣の町村に配布した広告ビラに「あんま師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法第7条」に違反する広告内容を記載していたというもの。
あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法
具体的に何がいけなかったのかというと、適応症つまり「灸は何の病気に効くのか」という病名の紹介が含まれていたという事案である。病名の記載は第7条の各号に含まれておらず、したがって実際にその病気に効くかどうかにかかわらず違法という法律であった。
そんなことが違法なのかと思われるだろうが、この法律は按摩や鍼灸、整体といった東洋の伝統医術を信じなかったGHQが、これらを禁止しようとしたところ激しい反対に遭い、妥協案としてこのような異様な法律ができたという経緯がある。当時のアメリカ人にしてみれば東洋医学は「アジア人の迷信」に過ぎず、現在の反ワクチン民間療法のようなものに思われたのだろう。このあたりの事情は、日本鍼灸師会のHP「日本鍼灸師会50年の歩み」に詳しい。
最高裁は次のように判示した。
最終的な判決はこうなっているのだが、しかし現在、本当に疑似科学的な民間療法を含めた玉石混交の医療情報が氾濫し、少なからぬ「医療系【トンデモ本】」が流布しているにもかかわらず、それらの出版は当然に【表現の自由】のもとに許されている。
その一方で、鍼灸のようなある程度定評のある伝統医学の広告が、それも適応症の記載すら許されないというのはいかにもバランスを失していると考えざるを得ない。実際、本判決には参加した裁判官さえ、2名の補足意見と3名の少数意見という形で異論がついている。
なお、「あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法」は、その後の改正で「柔道整復師法」が分かれて「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」と2つの法律になったが、同趣旨の規定は現在も両方の法律に残っている。
参考リンク・資料:
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