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【長良川リンチ殺人事件報道訴訟】

 長良川事件報道訴訟ともいう。
 長良川リンチ殺人事件とは、当時19歳の少年を主犯とする10名の不良グループが3府県にまたがって殺人・強盗殺人・死体遺棄・強盗致傷・監禁・傷害・恐喝などの犯罪を繰り返したという凄惨な事件で、主犯格の3人は少年としては稀有な死刑判決を受けている。「木曽川・長良川連続リンチ殺人事件」「木曽川・長良川事件」「大阪・愛知・岐阜連続リンチ殺人事件」「3府県連続リンチ殺人事件」などとも呼ばれる。

 この事件について『週刊文春』は、1997年7月24日号に「『少年にわが子を殺されたこの親たちの悲鳴を聞け 長良川リンチ殺人・名古屋アベック殺人・山形マット殺人」、同年8月7日号に「『少年犯』残虐」の題で特集記事を掲載した。この記事に対し、同年12月、長良川リンチ殺人事件の主犯格の一人である元少年が名誉毀損とプライバシーの侵害による精神的苦痛を理由に、100万円の損害賠償を求めて名古屋地裁に提訴した。これが長良川リンチ殺人事件報道訴訟である。
 なお、『週刊文春』の上記記事は重大少年事件が報じられるたびに話題となる「実名報道」ではなく、少年たちの名前はあくまで仮名で記されていた。ただし8月7日号の記事で使われていた仮名は、ファミリーネームは2文字中1文字が同じであり、ファーストネームは本名と同じ読み方ができる別の漢字をあてたもので、明らかに本名のもじりとも呼べるものであった。
 なお当時、事件はまだ裁判中であり、被告人たちの死刑は確定していなかった。

 原告である元少年は、
7月24日号の記事について、
 ・「愛知、岐阜、大阪、高知にまたがる連続強盗殺人」という記載は、正確には連続強盗殺人事件は長良川でのものだけなので虚偽。
 ・「(被害者)さんと友人1人を鉄パイプや角材で滅多打ちにして撲殺、遺体を遺棄した。」とあるのは、自分が立ち去った時に(被害者)氏は生きていた(と原告は主張)ので虚偽。
 ・「どの被告の保護者からも謝罪の言葉ひとつない。」は、自分には最初から両親がいないので虚偽。
8月7日号の記事に
 ・「法廷で着替えて主役を気取る。」「犯人少年には全く反省がない」、「(被害者遺族)さんは彼らが反省していない証拠の一例に、少年Kから届いた手紙を紹介した。」などの記載は、自分は反省しているので虚偽。
 と主張したが、いずれも認められなかった。

 ただし「法廷で着替える」というのは、記事全文を読めば何らかの意味が通る記載なのかもしれないが、判決文を見る限りでは意味不明であり、実際に実務の常識的に考えてもおよそ考えられない。ここでは裁判所(一審)はあくまで「反省しているか」という趣旨に影響がなしとみて実際の着替えの有無を評価しなかったようである。
 
 その一方で、8月24日の記事で使われた仮名については、第一審・控訴審について少年法61条に違反するものとして違法と認められた。

(記事等の掲載の禁止)
第六十一条 家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。

少年法

 しかし上告審は「被上告人と面識等のない不特定多数の一般人が,本件記事により,被上告人が当該事件の本人であることを推知することができるとはいえない。したがって,本件記事は,少年法61条の規定に違反するものではない。」と判示した。
 これが現在も、少年法61条にいう「その者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事」の判断基準となっている。

その後の事件報道
 前述のとおり、本件の記事は被告人の死刑確定前に掲載されたものであるが、死刑確定(2011年)後はかなりの報道機関がいわゆる実名報道に踏み切っている。
 これは、少年法61条の趣旨は可塑性のある少年の更生と社会復帰を妨げないために報道に配慮を求めたもので、死刑判決が確定し、彼らが社会復帰することは事実上なくなった後ではその配慮の必要が消滅している、という理屈である。
 そもそも少年法61条は報道機関による自主的な配慮を求めるもので罰則規定はなく、かなりの報道機関が上記の判断のもと、死刑確定後は実名報道に踏み切っている。

参考リンク・資料:

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