「白銀の輪舞」終章「エピローグ」
終章 「エピローグ」
あれから半年以上が経った。
季節は移ろい、街路樹はすでに色づき始めている。
バス停の上を飛んでいくカラスと、その背中に乗った小さな妖精に、鋭次郎は手を振って見せた。
驚いた妖精がカラスから落ちそうになり、鋭次郎は吹き出した。
この街から鬼がいなくなった後も、彼の霊能力は日増しに強くなっていった。
瞳の色もさらに薄くなり、今ではすっかり、魅雪や華多岡と同じ琥珀色に変わっている。この半年で、鋭次郎は改めて、人の目に見えているものだけが、世界の全てではないことを知ったのだった。
警察には辞表を提出し、寮も引き払った。ボストンバッグひとつ持って、これから北国へと旅立つ。あの懐かしい、白北ヶ峰へ。
――もうすぐ魅雪が生まれ変わる。
彼の中の霊感が、そう告げている。だから鋭次郎は、彼女に会いに行く。
例え赤ん坊だとしても、ひと目見るだけで、彼には魅雪だと分かるだろう。ふたりは、運命で結ばれているからだ。
きっと彼女は、鬼狩りの過酷な宿命を負った一族のひとりとして、生まれてくる。
――ならば俺は、彼女を守ろう。全身全霊をかけて。
その覚悟は、出来ている。
命など、惜しくはない。
――いや、違うな。
鋭次郎は、どこまでも高い秋の空を見上げた。
――あの子を守る為に、これから俺は生きてゆくんだ……。
あの優しく、勝ち気で、少しばかり臆病な魂を持った、かけがえのない少女を。
眉間の古傷を触る。この傷は、魅雪と鋭次郎の絆そのものであったのだ。
空港行きの白いバスが、停留所に滑り込んで来る。新しい生命、新しいストーリーを求めて、鋭次郎は空港へ向かうバスへ飛び乗った。
<完>
これだけの長編を読んで頂き、ありがとうございました。
この物語はこれでおしまいです。
しかし鋭次郎の物語はこれがスタートとなります。
次回の更新は「あとがき」です。
またお会いしましょう。