"Múa rối nước" - 人は何を信じるのか
ハノイと日本の食文化
私はベトナムのハノイの文化が好きです。どことなく日本と似ている部分がありつつも、全く違った様相を持つのがハノイの文化だと感じます。例えば、米を主食としたハノイの食文化は日本と似ているところもありますが、少し異なります。日本の場合、茶碗に米を盛り、焼き魚や豆料理等のおかずを添えて食します。
しかし、ハノイでは一般的な家庭ではお米をそのまま食しますが、外食をするとBúnやPhởといった米を麺状に変形させたものが供されます。忘れてはならないのは葉野菜であり、BúnやPhởが供される屋台では、ハーブを中心とした葉野菜も添えられます。稲作を中心としたお米を主体とした食文化は共通しつつも、食べる際の米の形状、一緒に添えられるものは日本とベトナムとでは異なります。
ヨーロッパチックなハノイ
ハノイには非常にたくさんの観光客が来ます。正確な数は不明ですが、ハノイに住んでいると、東京よりもハノイの方が観光客の数が多い印象を受けます。ヨーロッパ系の人もいますが、インド人も多く見かけます。ハノイは、東南アジアの国ですが、フランス統治時代の名残からどことなく建物がヨーロッパチックな部分を持っているのも、ヨーロッパの観光客が多い一因なのかもしれません。黄色をベースにした建物が多かったり、石造りの建物が多いのはフランス統治時代の名残でしょう。そんなハノイですが、観光でよく挙げられる一つに、Múa rối nước(水上人形劇)があります。歴史が好きな私も、このMúa rối nướcが大好きです。
"Múa rối nước"(水上人形劇)
水上人形劇は、稲作の文明から生まれたものであり、伝統体な演劇芸術の一つです。10世紀以上前に紅河デルタで生まれたとされています。人形劇は、世界中の様々な国にも存在しますし、私が生まれた日本にも存在します。しかし、水上人形劇は現在ベトナムでの見行われており、ベトナム人特有の文化的特徴であると考えられています。私はこの水上人形劇をホアンキエム湖近くにある"Nhà Hát Múa Rối Thăng Long"で見ました。
"Nhà Hát Múa Rối Thăng Long"
言葉としては、「タンロンの水上人形劇」という意味ですが、タンロンとは昔のハノイの名前です。かつて、この地に黄金の龍が現れたことから都をタンロン(昇龍)と名付けたのが由来です。その名前を残し、今でもタンロン水上人形劇という劇場名になっています。
このタンロン水上人形劇は、毎日昼から夜まで水上人形劇を行っています。一年間、365日の間休まず劇を行っていることにまず驚きます。劇は、伝統的な脱気の独奏と合奏から始まります。劇場内に、ベトナムの伝統的な楽器から流れるサウンドが耳障りよく響き、劇の中に吸い込まれるように始まります。人形は水上をコミカルに動くため、子供も大人も楽しめます。
水は少し緑色に濁っており、これは人形の操る糸を隠すためでもありますが、その色はホアンキエム湖の色と全く同じような色をしています。また、劇の中でもかつて明の侵略を防いだLê Lợiが出てきたり、黄金の亀に剣を返す場面が出てきたりと、ベトナムの昔話を再現する場面が多いため、ベトナムの歴史が好きな方にはすごく面白い内容になっています。
歴史や文化はどのように生まれるのか
この人形水上劇では、それ以外にも稲作をせっせと行うシーンや龍や獅子が登場してダンスをするシーンなど様々あります。稲作は日本でも昔から現在にかけても行っていますし、ベトナムでも行われています。日本でもベトナムでも間違いなく食文化に影響を与えています。稲作が行われているのは劇の中だけでなく、現実世界においても事実です。
一方、ベトナムは昔から龍や黄金の亀は神様の分身や神様の遣いとして崇められる存在であり、言わば伝説です。普通に考えれば黄金の亀が湖から現れて話しかけた後に「剣を返してくれ」と言ったというのは事実だったとは考えにくいところがあります。しかし、伝説とはそういったものであり、本当にあったことなのかどうかはさておき、そういったことがあったと語り継がれることで、現在にも影響を与えています。
事実であってもそうでなかったとしても、人にとっては「どう信じられてきたのか」が大切なのかもしれません。"Nhà Hát Múa Rối Thăng Long"を見て、ベトナム人が何を大事に生きてきたのか、何を信じてきたのか、それが彼らの生き方や慣習にどう影響を与えたのか、そういったことを考えさせられたような気がしました。
人は何を信じるのか
少し話はそれますが、以前とあるYouTubeを見ていた時、メキシコでコカ・コーラを崇める地域があり、そこは世界一のコカ・コーラの消費地域であり、一日平均して2Lコカ・コーラを飲むというのです。科学的にはコカ・コーラをはじめとした炭酸飲料を飲みすぎると糖尿病になると言われていますが、この地域の人は違います。糖尿病の背景にはコカ・コーラの悪い魔女が取り憑いていて、コカ・コーラは全く関係がないというのです。彼らにとってコカ・コーラは生活の一部であり、人生そのもののようでした。
「人は何を信じるのか」ということが、その地域や国の文化を作っていくように感じました。同時に、「人は何を信じるのか」が操作される場面も多いにあることに恐怖を感じました。
そのメキシコの地域には、コカ・コーラの看板が無数にあり、コカ・コーラが提供したバスケットコートやサッカーコートがあり、コカ・コーラのロゴを目にしながら子供たちは育ちます。そういった刷り込みにより、コカ・コーラ漬けにされてしまうのも事実です。しかしそこで忘れてはならないのは、彼らは決してコカ・コーラを悪く思っておらず、自分たちの生活の一部だと考えていることです。視聴者側からするとコカ・コーラって恐ろしいなと感じるかもしれません。ですが、その地域の人々はコカ・コーラのおかげで自分がいると感じているのです。内と外とでは物事の解釈が大きく変わるわけです。
やはり大事なことは、その地域に住む人、その国に住む人が「何を正しいと信じるのか」なのでしょう。
最後にタンロン水上人形劇のいくつかの写真をまとめておきます。行く機会があればぜひ、一度行ってみて下さい。おすすめです。
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