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たぬきの釣り見学

ここは深山の渓

勾配の激しい流れを釣り歩きつつ
ここぞという場所で立ち止まる。

砂利が掘れて僅かな谷になっているような地形
魚のポジションを予測ながら集中してルアーを動かす。

流して…

流して…

ここでターン…

!!!?
強い獣臭!かなり近い

完全に油断していた。
目の前に集中しすぎてこの時だけ周囲への警戒を怠っていた

この臭いの強さは… すぐ背後にいるなぁ。

この山奥でわざわざ人間に近づいてくるということは、おそらく熊だろう。

終わったかもしれない。
獣臭を感じた瞬間にもう詰んでいると悟る

半ば諦めつつ、ここからの対応を考えながら
恐る恐る振り向く…





ちょこん


「なんだあー、君か〜」

獣臭の正体は1匹のタヌキくんだった。
安心感ですぐに緊張の糸が解ける

ホッとしているボクを不思議そうに見ているタヌキくん

しかも、ボクの背後で普通に座り込んでいる。
その間、約3m

なんだコイツ!!!

どうして!めったに見ない人間でしょ?
もっとさー、怖がるとか警戒するとかないわけ??

ああ、そういうことか

川で掘れたところに立っている人間
いま、ボクとタヌキくんの目線の高さは同じ

タヌキくんからしたらボクは肩から上しか見えてない

きっとマネキンみたいな、自分と同じくらいの大きさの、こういう生き物だと思ってるんだろうな。

とはいえ、見たことない生き物がいるなら、野生動物として少しは警戒しなさい。

鈍臭いタヌキくんに呆れつつも
レアなシーンのため、あまり刺激しないように我関せずなフリして釣りを続けてみる。

タヌキくんは座り込んで頭を掻いている…

タヌキくんは「なにしてるの?」とでも言いたげな瞳でボクを見ている…

タヌキくんは釣竿の動きに合わせて顔が左右に動く笑

タヌキくんはボクを見ながら大あくびする…

いくらなんでもリラックスしすぎな気がする。
いいのかそれで

そんなほのぼの空間が10分ほど続き
タヌキくんはおもむろに立ち上がる。

タヌキくんは少し前に出てきて川を眺める…

またあくび…

そろそろ去りそうだな。
そんな雰囲気を感じてタヌキくんに目を向けると

少し口を開けながら正対してボクをみている。

「ハッ、ハッ」

何か言ってるような感じ

それが何かはわからないけど、
なんとなくフレンドリーな意思だけは伝わってくる。

背を向けてノソノソと歩き出すタヌキくん。

「じゃあね〜👋」
別れの声をかけると、チラッと振り向きまた歩き出す。

本来、野生動物とこの距離感での交流はあまり良い事ではないのだが

また会えるかな。
ノソノソ遠ざかっていくタヌキくんを見ながら、そう思ってしまった。

やっぱりボクって、かわいいものに弱いんだな…

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