「守破離」の守が固まった3年間
今年(2023年)のGWが明けるタイミングで、キャリア3年目が終わりました。記事を書くのはだいぶ久しぶりになりましたが、①社会人の3年間を棚卸しすること、②自分と似たようなキャリアパスを歩もうと思っている人向けに、自分が得たスキルと必要だと思われるスキルセットを整理するためにこの記事を書いています。
自己紹介
まず簡単に自己紹介。2020年3月に経営学科を卒業し、事業開発として5月にワープスペースに入社しました。営業、PR広報、マーケ、採用、R&Dの調査、GR(Government Relations)など、事業を作っていく上で必要な機能や役割は一通り経験させてもらいました。(財務や総務等は除く。)
そもそもなぜ文系新卒が宇宙スタートアップに入ったのかと聞かれますが、この辺りの記事を読んでいただくと嬉しいです。
端的にいうと、ディープテック x 社会課題の解決に挑戦してみたいと思ったからです。
大学3年生の1年間を休学して東アフリカに滞在し、テクノロジーを活用した新しい経済圏ができているのを目の当たりにしました。一方で、まだその経済圏にアクセスできない農村部の人々には、教育・医療といった基幹インフラすら行き届いていないことがあります。
よく、アフリカ諸国や新興国の人々の暮らしを見て「幸せそうだよね」という人がいます。大自然の中、屈託のない笑顔で写真に映る人を見ればそう思ってしまうのもわかりますが、それは一面的な見方です。
なにを幸せとするかは個人が決めるものだと僕は思っています。
でも、生まれた瞬間から選択肢が限られてしまっている人々がいることを知り、選ぶ自由がないことこそが解決されるべき課題なのだと考えるようになりました。
帰国後、いろいろなことを勉強するうちに、テクノロジーの普及がかえって経済格差を助長してしまう事実に対して、誰かを取り残すことなく社会の役にたつテクノロジーとは何かを問いながら、ディープテック事業の実践にトライしてみたいと思いました。4年生の夏から、ドローンのスタートアップでインターンしつつ、卒業する3月ごろにワープスペースを紹介いただき入社が決まりました。
自己紹介が長くなりましたが、ここから棚卸し編に入っていきます。
棚卸しと言いつつ、この辺りの基礎ができているとかなり早く活躍の場を作れるのではないかと思うので、宇宙事業に挑戦したい方々にとってなにかしらお役に立てると嬉しいです。
ソフトスキル
ここでは、専門性などに関わらず、さまざまな業務を遂行する上で必要になる基礎的な能力全般を指します。他の業界と同様、サービスやプロダクトを開発し買ってもらうという一連の流れは宇宙事業でも変わらないので、ソフトスキルはものすごく重要だと個人的には思っています。
が、当時の役員を除き事業開発としては一人目だったので正直かなり苦労しました。苦笑
1. パッション
社内外の事業環境が変わる速度は速く、政府や投資家、サプライヤー、自社の直接の顧客だけでなくそのエンドユーザなど、ステークホルダーが多岐に渡るため、スタートアップ特有のリソース不足と相まって、非常にカオスです。また言語は基本英語なので、求められるベースラインが一般的なスタートアップよりもちょっと高いのかなと思います。
カオスを楽しめる、あるいは乗り超えられるだけのモチベーションやパッションが何よりも大切だと思っているので、一番先頭に書きました。
大事なのでもう一度言いますが、とにかく事業環境がカオスです。笑
2. コミュニケーション・関係構築能力
仕事におけるコミュニケーション能力は、伝えたいことを適切な方法で伝えられる、あるいは相手の言っていることを正しく理解できる力だと思います。相手との期待値に大きなズレを発生させず、業務を効率的に進める力ともいえるかもしれません。
どんな仕事でも、誰になにを伝えたいかを意識してコミュニケーションをとることは欠かせませんが、専門性の高い分野ほどそこの工夫が求められると思います。前提となる知識レベル、相手が求めていること=期待値を正しく理解し、それに合わせた最適なコミュニケーションを取れるかどうか。
アプローチしたい対象はメディアなのか、顧客候補なのか、事業連携候補なのか、またその中でも、相手は技術者なのか事業開発系なのかでも変わってきます。「基本のき」ではありますが、どんな仕事であれ他者との関係のなかで進めていくものなので、場に合わせた適切なコミュニケーションを取れる能力はかなり重要です。(当たり前ですが、意外とできない人多い。。。)
3. リーダーシップ
社会人4年目に入ったばかりのやつがなにを偉そうに、と思われるかもしれませんが、スタートアップの場合、自分で決めることを求められる回数が比較的多いと思います。ゴールや目的は何かを理解し、それに対してなにが適切なのかを考え、自分のポジションをとる。当然経験がないため間違えることも多々ありますが、ミスをして迷惑をかけたときにはちゃんと謝る。
リーダーシップを発揮する対象は、自分自身に対してと、チームに対しての二つのベクトルがあると思います。自らを引っ張り上げるセルフリーダーシップも、1のパッションに近いかもしれませんが重要な要素です。
チームに対するリーダーシップについて、最大3名のマネジメント経験を通じて学んだことは大きく2点。方向性(期待値)を明確に提示すること、メンバーのアウトプットに対する責任を自分が持つことだと考えています。詳細は後述します。
4. 情報処理力
入社から半年間は、自社事業の理解に加えて、日々の情報洪水に巻き込まれます。グローバルにみて、どことどこが提携しただとか、資金調達しただとか、政府が予算を決めただとか、誰それが⚪︎⚪︎の事業を立ち上げたといったニュースで溢れています。
最初のうちは自分がなにをわかっていないのかがわからないので、ニュースが自分の中で情報として蓄積されず、ただ飲み込まれるばかりでした。ここのキャッチアップをいかに早くできるかという観点で、高い情報処理力(言語能力+抽象化能力)が必要になると思います。
ここでいう言語能力は、情報と情報の関係性を読み解く力や、新しく入ってきた情報をしまう引き出しを整理する力です。
例えばA~Fまで上位概念となる引き出しがあったとして、新たに入ってきた情報がどこに格納されるかを判断する、つまりa, b, c, d, e, fとコード化できるかです。このあたりは、具体と抽象で考える能力とも言えると思います。
5. 巻き込み力
ゼロイチの仕事が多く発生するので、ある事業課題に対して施策を打つ場合、誰にどのようなサポートをしてもらいたいのかを的確に伝えるだけでなく、バイブスをあげることも求められます。
一方的に巻き込むだけでなく、巻き込み・巻き込まれる関係性を築くという意味では、関係構築能力ともいえます。ただ巻き込まれてもらうために、構想をしっかりと描く力や、相手のインセンティブを用意するといった工夫も必要なので、あえて切り出してみました。
6. レジリエンス
凹むことも多々あります。仕事を任せてもらえなかったり、思うように成果を出せなかったり、なにを目標にすればいいのか見失ったりと、いろいろなハードルがあります。
とにかく結果に対してシビアな環境で、僕は最初の給与改定で減給を言い渡されました。笑
それでもやり続けるしかないので、竹のようなしなやかな強さが必要だと思います。
最初の方に、カオスを楽しむマインドセットと書きましたが、それ以上に落ち込んだ時に早く立ち直れる力としてレジリエンスとしました。
折れそうになることや自分の弱さが問題なのではなく、事実と向き合い改善に向けて行動を起こしつづけることが重要なのだと思っています。苦笑
ハードスキル
ここからはある程度の専門性や訓練を必要とするハードスキルです。正直、この3年ではそこまで身についていないので、4年目以降はここを重点的に磨いていきたいなと思っています。
1. 英語
宇宙事業は最初からグローバルを見据える必要があるので、英語での交渉などが既定路線です。日常的な英語コミュニケーションであれば学生時代に独学+アフリカ滞在で身につけていましたが、入社直後に打ち上げ事業者や光通信端末サプライヤとの打ち合わせに通訳として同席した時は、常に手に汗をかきまくっていました。
とはいえ、2年もすれば自分が求められる役割の中における最低ラインはカバーできるようになったので、ここからはもう少し突っ込んだ技術的な理解や交渉能力を高めていきたいなと思います。
2. 基本的な業界知識
似たような略語や専門用語の嵐なので、最初のうちは全てが呪文のように聞こえます。2年目以降に業界の全体像と自社の位置付け、そして今後優位性を狙いにいこうとしているハイレベルな戦略部分も、最近になって大枠で理解できるようになりました。
とにかく地道なインプットの継続がものを言うので、色々ハードです(上手い!)。
メタスキル
学生の頃から考えることが大好きで、元々メタ認知能力は高かったと自覚しています。それでも、各国の政策やその背景にある社会情勢、その中で各社がどのような戦略を取ろうとしているのかといったマクロ視点から、足元どのような一手を打っていくべきかといったミクロ視点まで最低限カバーできるまでにかなり苦労したし、現在進行形で勉強中です。
中でもある程度は身についたなと思う&さらに高めていきたい2点を取り上げます。
1. マネジメント能力
すでにリーダーシップのところで書きましたが、チームに対して方向性(期待値)を明確に提示すること、メンバーのアウトプットに対する責任を自分が持つことがマネジメントの役割だと思っています。
まず一点目。理想の状態に対して、現状を正しく把握して差分(課題)をどう解消していくのか道筋を示し、その中で自分以外のチームメンバーになにを期待するのかを伝え、合意形成を図ることが主要な役割だと理解しています。
例えば半年や3ヶ月後、こういう状態まで持っていきましょうと少し高い視座を共有し、そのためにどのような取り組みをするかを一緒に考える、といった成長を促すことも役割の一つになりますが、スタートアップの場合ここで求められる成長速度がかなり速い。
二点目は日々の業務という観点です。依頼した内容に対して出てきたアウトプットの責任は依頼者が持つものと考えているので、期待値からズレた場合の原因や改善策を考える必要があります。相手の能力を超えたタスクだったのか、コミュニケーションに不備があったのか、次に同じ失敗をしないためになにができるのかなど、フォローまで含めて役割の一部だと理解しています。
つまり、自分のコントロールの範疇にないものをマネジメントすることなので、ソフトスキル(コミュニケーションやEQと呼ばれる感情的知性など)を総動員する必要があることを学びました。
ここで書いたことがマネジメントの要諦だと思いつつ、スタートアップの場合いつもチームメンバーをフォローできるわけでもないので、自走(しようとトライ)できる人が活躍できるのかなとも思います。
2. 戦略的思考能力
入社してすぐ、事業戦略を検討するための情報整理をするというお題が与えられた時、「戦略ってなんじゃー!」となってましたが、いまは「目的達成に向けた資源配分の選択」だと考えています。
目指している未来に対して、外部環境を正しく把握しながら社内のリソースを最適化させる設計こそが戦略であり、それを実行するために必要なのが戦術なので、目的 > 戦略 > 戦術というフローを踏むと理解しています。
これは全社レベルでもそうですが、個人にも当てはまると思うので生意気ながら書いています。つまり、何を持っていて何を持っていないのかを客観的に分析し、自分の優位性を理解すること。
僕の場合、宇宙開発や工学の知識は不足していても、人との関係構築能力や自社事業を社会全体という文脈に落とし込んで翻訳し、ストーリーを考えられると価値になったりするので、エキスパートでないことがかえって武器になり得ます。
最後に
いろいろと偉そうなことを書いておきながら、運がいいだけで、ずば抜けた何かを持ってるわけでもなく、何かを作る技術を持ってるわけでもないので、色んな知識や視点を身につけ、人を巻き込み、知と知を紡ぐことしかできないなと。
それでも、社内外問わずさまざまな先輩諸氏に引っ張り上げてもらい、よく言われる「守破離」の守が固まったと思います。ここからは、自分にしかできないものは何かを少しずつ突き詰めてみたいと考えています。
集合知が個人的なテーマで、目的に対して必要となる知見が多岐にわたる場合、これまでのような縦割り最適はもう機能しなくなると考えていて、宇宙開発はまさにそうです。さまざまな知見や視点を集め、関わる人たちのバイブスあげながらまだ世にないものを生み出す。そのためのビジョンや戦略が要るので、僕にできることは明るい未来を信じて目指したい世界観を構想し、巻き込んでいくことくらいだなと諦観に至っています。
その取り組みとして、宇宙業界の飲み会番長になるべく飲み会を開催したり、大学で出張授業をするといった活動を始めました。それはまた改めて記事にしたいと思います。5000字を超える大作になってしまいましたが、読んでいただきありがとうございました。