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DXにおける飲食店の「ジコチュー化現象」を考える

トレタの代表の中村です。

今回は飲食店のDXにおける最大の落とし穴の一つである、飲食店の「ジコチュー化」について考えてみたいと思います。
ジコチューとはご想像の通り、自己中心的であることを指します。
本来は圧倒的な顧客志向を持っているはずの飲食店が、なぜかDXのときにはジコチューになってしまう。そういう現象を目にする機会が増えているように感じているので、それを本稿では「飲食店のジコチュー化」と呼びます。

オンライン予約ができなかった身近な事例

さて、先日のことです。
僕の母(もうすぐ80歳)が、あるお寿司屋さんのオンライン予約をしようとしたところ、予約画面が難しすぎて途中で挫折するという出来事がありました。

曰く、オンライン予約の画面には入力しなければいけない項目があまりにも多く、 どれを入力しなければならないのかがわからなかった、と。それでもがんばって全部入力したら、今度は予期しないページ(ユーザー登録でした)に飛ばされてしまったりと、迷いに迷って結局予約完了にたどり着けなかったというのです。

僕の母は70歳になるまで、とある大手上場企業の会長の秘書をしていましたから、パソコンは普通に扱えます。今も、iPhoneはもちろんAppleWatchだって使っていますし、日常的にPayPayやハチペイで決済をし、アマゾンで買い物をし、ひまつぶしに麻雀ゲームやパズルをやっているような人です。おそらく世間的に見てもそれなりにリテラシーの高い高齢者ではないでしょうか。
しかしその母が、オンライン予約が完了できなかったと困っているのです。

仕方がないので、代わりに僕がそのオンライン予約ページから予約をしたわけですが、 改めて母の目線で予約をしようとすると、確かにあちこちにトラップがたくさんあることに気づきます。

なぜこのようなことが起きるのでしょう。今回はこの問題について掘り下げてみます。

飲食店の顧客接点はどんどん拡張している

まず状況を整理するために、飲食店とそのお店を利用するお客さまとの接点、いわゆる顧客接点を4象限でまとめてみましょう。軸はそれぞれ店内と店外、アナログとデジタルです。

①アナログ時代の顧客接点

飲食店の歴史を振り返ってみると、まだデジタルツールが登場する以前、1970-2000年ごろの飲食店にとって、お客さまとの接点は「店内 ✕ アナログ」、つまり対面接客が全てでした。店の外に目を向けると、雑誌やチラシなどの接点もありましたが、しかし、アナログゆえの効率の悪さもあり、それほどの存在感はありませんでした。

②インターネットとスマホ登場による新たな顧客接点

その後、2000年あたりから飲食店の顧客接点は急速に広がっていきます。インターネットの登場によって「店外 ✕ デジタル」の接点が生まれたのです。その筆頭がグルメサイトでした。

それまでは「店内 ✕ アナログ」の接客だけを考えていればよかった飲食店に、新しく「店外 ✕ デジタル」の接点が生まれました。
店内でなく店外。アナログでなくデジタル。それまでの飲食店が得意としていた顧客接点とは真逆の性質をもつ顧客接点ですので、全く勝手が違います。理解できず、対応に苦慮するお店が続出しました。 飲食店におけるデジタルアレルギーは、おそらくこの時点で生まれたと考えられます。

その後、クラウドやスマホの普及により、デジタルの接点は爆発的に広がっていきます。例えばSNS、LINE、公式アプリなど、お店の中で対面の接客だけしていればよかった飲食店からすると、わけのわからない接点がどんどん増えていきました。でも、とりあえずやらないわけにもいかない。それがデジタル時代に入ってから飲食店が置かれてきた状況です。

③コロナ後に進んだ店内のデジタル化

さらに、2020年のコロナ禍を契機としてデジタルの顧客接点は店内にも広がっていきます。その筆頭がテーブルトップオーダーやモバイルオーダー、あるいはQR決済です。配膳ロボットなどもそうでしょう。
「店内 ✕ デジタル」というまた新しい接点が生まれたのです。

店内は長らくアナログの聖地だったのだけれど、人手不足やコロナにおける非接触ニーズなどによって店内のデジタル化が急速に進みました。それによって、現在は店内においてもデジタルの顧客接点が広がりつつあります。
もはやファストフードでは、カウンター越しの店員さんへの注文はどんどん減っていて、大きなタッチパネルを使ったオーダーKioskが主流になりつつあると言っても過言ではないでしょう。

デジタルな顧客接点の落とし穴

さて、このような状況を俯瞰して考えると、今や飲食店にとってデジタルの顧客接点はなくてはならないものになりつつあることがわかります。
「店内 ✕ アナログ」時代では、せいぜいが月に1回の来店、2時間くらいしか接点を持てなかったお客さまでも、「店外 ✕ デジタル」であれば24/365で接点を持つことができます。「店内 ✕ デジタル」であれば、お客さまの行動もデータで把握できるようになります。
僕が10年以上前、Twitterで四苦八苦しながら試みていた「お客さまとパーソナルな信頼関係を築く」ことが、今なら誰でも簡単にできるようになりました。
これは飲食店にとって革命的なことです。

しかし、お店の外と内に広がる店内に広がるデジタル接点には、とても大きな落とし穴があります。
それは、「デジタルの接点は膨大に存在する上に、お客さまの顔が見えなくなってしまう」という落とし穴です。

飲食店はもともと、お客さまの反応に対して極めて敏感です。例えば店内でキョロキョロしながら歩いている人がいれば、トイレだと察して場所を案内するでしょう。メニューを手に周囲を見回している人がいたら、オーダーだと思ってテーブルに飛んでいくでしょう。お料理をひとくち食べた後、ちょっと怪訝な顔したら、味がおかしいのかと思ってキッチンで味見することもあるでしょう。
このように、お客さまが求めるもの、感じていることを予測して先回りしようという考え方を「Anticipation (アンティシペーション=予測)」と定義し、重要な接客技術として磨いているお店も少なくありません。

こうした「店内 ✕ アナログ」の接客においては、お客さまの一挙手一投足にとても敏感に反応できるのが飲食店の人たちです。ところが接点がデジタルになり、お客さまが目の前からいなくなると、途端にお客さまの反応に無頓着になってしまうのです。

DXでジコチュー化すると何が起きるのか

実際、DXツールの導入を進めるとどんどん「ジコチュー」になっていくお店は少なくありません。
もちろん、お店が実現したいことを追求するのは決して間違っていません。しかし、それはあくまでも顧客目線を失わないという大前提があってこそ。顧客不在になって、自分たちのわがままばかりを押し通すことになったら、お客さまの体験はどんどん損なわれ、気持ちも離れていってしまいます。

例えば、お客さまとの信頼関係をもっと深めたいと考えて公式アプリを提供するお店も増えています。しかしお客さまにアプリをインストールしてもらったとき、お客さまの本名から性別、生年月日、住所、電話番号などありとあらゆる個人情報の入力を求めるケースが少なくありません。もちろん、営業において必要不可欠な情報なら登録を求めてもいいでしょう。しかし、そのような個人情報がお客さまとの信頼関係を深めるのに必要でしょうか?これが店内での対面接客だったら、お客さまに同じことを求めることができるでしょうか。
個人情報の提供が面倒だったり、あまり快く思わないお客さまだったら、これによってむしろ気持ちが離れてしまう逆効果になる可能性もあります。

あるいは、利用時にお店の公式LINEアカウントへの友だち登録を求めるモバイルオーダーサービスも、最近は普及が進みつつあります。「友だちが増える」「顧客のデータが取れる」「販促メッセージが送りやすくなる」と飲食店の評判は非常に良いようですし、実際、こうして飲食店がお客さまとつながることができるのはとても画期的なことです。しかし一方で、それを利用するお客さまの違和感や戸惑いについては無頓着なお店が多いように思います。
モバイルオーダーで注文が便利になるのはいいでしょう。しかし、そのときにお店との友だち登録を求められ、後日、LINEというパーソナルな空間で販促メッセージが届くことを快く思わないお客さまは少なくありません。
最近は4人で外食しても、オーダーするのは誰か一人だけに限定し、できるだけ友だち登録をしなくてすむように自衛するお客さまもいるとのことで、どんなに優れたツールでも、それをどう活用するかによっては、お客さまにマイナスな印象を抱かせてしまうリスクがあるということなのでしょう。

僕の母がオンライン予約で困ったのも、構造としては同様です。
店内では接客も素晴らしく、とても居心地の良いおもてなしをしてくれるお店なのにもかかわらず、オンライン予約になると、途端にジコチューになってしまうわけです。
膨大な注意書き、入力欄や選択肢、チェックボックスがたくさん並び、それに全て入力をしなければ予約すらさせてもらえません。電話予約なら席のみ予約でも受け付けてくれたお店が、オンライン予約になるとなぜか「コース選択必須」になったりすることもあります。
複雑化し難解な予約ページにお客さまは戸惑い、最悪のケースでは予約の成立にたどり着けなくなってしまいます。

もともとは、このお寿司屋さんも良かれと思ってオンライン予約を導入しているはずです。 電話と異なり、オンライン予約であれば24/365、いつでも気楽に予約をすることが可能です。これはお客さまにとっても歓迎すべきことでしょう。
しかし、顧客に対する想像力が少しだけ足りなかったことによって、お店が本来やりたかったこととは、まるで異なる結果になってしまうのです。

そもそも、飲食店は自分たちが使う予約台帳の使い勝手にはこだわっても、お客さまが触れるオンライン予約ページの使い勝手には無頓着なお店が多いように思います。
オンライン予約に対応しているお店の中はたくさんありますが、その中でお客さま向けの予約ページを自分たちで実際に触ってみるなど、お客さまの予約体験の質にこだわってサービスを選んでいるお店はどれほどあるでしょうか。

このような顧客体験にまつわる問題は、単にお客さまの印象を損なうだけでは終わりません。使いづらい、面倒、分かりづらいなどの不満は、お客さまの購買行動にも大きな影響を及ぼすことは調査でも明らかになっています。
たとえば、カスタマーサポートにおいてお客さまに少しでも面倒な思いをさせてしまうと、そのお客さまの96%は、二度とその会社の商品を買わないという衝撃の結果も出ています。

お客さまの体験価値を損なうことは、お客さまを失うことに直結しているのです。予約が分かりづらかったら、料理のオーダーで不快な気分になったら、アプリの登録が面倒だったら、お客さまは黙って他のお店に行くだけです。
ただ、そうやって離脱している人は目に見えませんので、お店はそれに気づいていないだけなのです。

機能と顧客体験のジレンマ

この問題は、トレタも全く人ごとではありません。
これまで、トレタのオンライン予約は可能な限りシンプルな状態を保ってきました。これはひとえに、顧客体験をできるだけ快適な状態に保ちたいと考えてきたから。
しかしその結果、機能不足があったのも事実で、飲食店の方からは厳しいご指摘をいただくこともあります。とはいえ、機能は放っておけばどんどん膨れ上がるもので、複雑化すればするほど、それと反比例してユーザーの使い勝手は著しく損なわれてしまいます。
その結果、何より大切な「予約成約率」が下がってしまう危険性があるのです。(実際、僕の母に起きたのはそういうことでした)
高機能化と使いやすさは常にトレードオフですので、機能強化については可能な限り慎重でありたいと思ってきました。

しかし最近は、No Show(無断キャンセル)の問題が大きくなり、僕らも「キャンセルプロテクション」という機能の提供を始めました。
これは予約時にお客さまにクレジットカードの登録を求めるという機能です。おかげさまで、No Showに苦しんでいるお店の方々からはとても好評を頂いています。

とはいえ、僕らはこれが理想の解だとは思っていません。1%くらいしか存在しないNo Show予約のために、残りの99%のお客さま全員がクレジットカードの登録を強いられ、予約が面倒になるという状況は、決して美しくないと思うのです。
この機能は、確かに飲食店にとっては便利なものです。それによって救われるお店があるのも事実です。しかし一方で、大半を占める善意のお客さまの体験価値を大きく毀損していることには、僕ら自身も自覚的であるべきだと思っています。
ですから、この機能をどう活用すべきかは、慎重な検討が必要です。僕らもできるだけ丁寧にお店ごとに運用方法を提案していますし、クレジットカードの登録が不要な予約ページをご用意し、そのページとの併用での運用をご提案することもあります。
あるいは、お店によってはこの機能を使うのではなく、No Showが発生したときにキャンセル料を徴収してくれるサービスをおすすめすることもあります。

DXこそ「おもてなしの心」で

デジタルの接点は対面の接客と違い、目の前にお客さまがいません。目の前でお客さまの顔が見えなくなった途端に、自分たちの都合がどんどん噴出してしまうのは、飲食店に限らず、人間の自然な反応とも言えます。

だからこそ、私たちはもっともっと想像力を働かせながらDXに取り組まねばなりません
デジタルツールを導入するととても便利になるのは紛れもない事実です。うまく使えば、お店の方にとっても、そしてお店を利用するお客さまにとっても、より良い体験や環境が実現できることも間違いありません。
しかし顧客目線を失い、無意識のうちにジコチューなDXを追求してしまったら、 自分たちでも気づかないうちに顧客体験を大きく損なってしまう危険性があります。

ベンダーである僕ら自身も反省すべきことは多いでしょう。
実際、営業の現場ではどうしても「あれもできます」「これもできます」という機能の話になりがちです。複数のサービスを比較検討する際には、より多機能なサービスが選ばれがちであり、そこで「お客さまがどう感じるか」「お客さまの体験がどう変わるか」が問われることは極めて稀です。
そのような商談や価値提案にしてしまっているのはひとえに僕らベンダーの側の責任です。飲食店のジコチューDXを進めている張本人は、むしろベンダーの僕らだと言ってもいいでしょう。
しかしお店の便益のためにお客さまが不利益をこうむるような状態を許してしまっていては、お店とお客さまがハッピーになれる理想のDXは永遠に実現できません。
僕らベンダー自身ももっと成長し、飲食店さまにとってのメリットだけでなく、お店のお客さまにとっての体験価値という観点でも、飲食店さまに有益な提案をできるようになっていかねばなりません。

DXでこそ求められるのが「おもてなしの心」であり「Anticipation」です。飲食店もベンダーも、眼の前にいないお客さまの気持ちをどれだけ想像し、そのお客さまに寄り添うことができるかが問われているのではないでしょうか。

最後に宣伝のようになってしまいますが、ここまで述べたような考え方を出発点に、「顧客体験に徹底的にこだわってモバイルオーダーを作ったらどうなるか」に挑戦したのがトレタO/Xというサービスです。もしお店で見かけたら、ぜひ皆さんで試してみて、感想を教えて下さい!

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