父のコピー機
仕事仲間にカードを見せた。これ、いくらくらいだと思う?そう聞くと、返ってきたのは「うーん、500円くらいかな。これだけもらってもどうしようもないし」という言葉。
父は全て手作りのカードを1200円で売っていた。手の込んだものは2000円くらいしたような記憶がある。「手作りの価値を分かってねえんだよ」みたいなことを時々言っていた。もしかしたら、高いとか、紙なのに、とか言われていたのかも知れない。
500円という評価へのショックが隠し切れない私を見て彼女は、「インスタグラムとかに載せてみたら」というアドバイスをくれた。とりあえずやってみよう。
父の作ったカードに、後ろから光をあてて写真を撮った。やはりきれいだ。インスタグラムにアップすると、さっそく姉から反応があった。「見たよ、きれいだね!」。他にも友人から「お父さんのカード?なつかしい」とか「そういえば長崎に行ったときに、お父さんからもらったよ」というメッセージがあり、うれしくなった。そうなると、続けて投稿したくなる。こうやってSNSにはまっていくのか。
父が作ったカードはあまり残っておらず、それだけではすぐに投稿できる写真がなくなってしまう。こうなって初めて、私は父のカードを新たに作ってみようと思った。図案はたくさんある。何枚あるか数えたことはないけれど、色違いのファイル3冊にまとめられた方眼紙があるのは分かっている。あれが図案。あれを、紙にコピーして、切ればいい。紙ならたくさんある。
でも、コピー機ないな。
紙に裏表があるって言っていたけど、どっちが裏か表か、見ても分からないな。
そういえば父は小さなコピー機を持っていた。店をたたんでからも他の紙の道具と一緒に押し入れに保管していた。あれはいつの間になくなったのだろう。以前私がコピー機を持っていた時、父から使い方を聞かれたことが何度かあった。父は、カードの図案を紙にコピーしたかったようだ。よく聞いてね、と私はぶっきらぼうに使い方を説明した。父は苦笑いしながら「よく分かんないなあ」と言った。分からないならメモすればいいでしょ、説明書読めばいいでしょ。私は本気でそう思っていた。1度だけ、父のためにコピーをしてあげた記憶がある。コピー機はいつでも使える場所にあったけれど、父はその後ちゃんと使えたのだろうか。
父が保管していた小さなコピー機は、荷物を整理する時に捨てさせたのだった。うちには新しいコピー機があるのだから、古いのはもういらないでしょ。そう言って、父のコピー機を捨てさせたのは私だった。
父の古いコピー機は、コピー以外の機能が無くて、小さくて、シンプルだった。きっと父は店で愛用していて、使い慣れていたのだろう。きっと父はそのコピー機を捨てたくなかっただろう。この記憶と共に浮かぶ父の顔は、ちょっと困ったような、苦笑い。晩年の父はよくそんな顔をしていた。