私の不登校の話②
高校1年生の夏休みが明けたあたりから、私は学校を休みがちになった。
いじめられてはいなかった。高校に入ってからできた友達もいて、勉強も好きだった。部活には入らず、学校に行けばそれなりに楽しかった。でも、なんとなく学校へは行かずに過ごすことが多くなった。
普段通りに朝家を出て、そのまま書店へ行き、本を買って、近くの公園で読む。
家を出ると仲の良い野良犬が待っているので、空き地へ行き一緒に弁当を食べる。
そもそも朝、学校へ行かずに家で絵を描いたりして過ごす。
そんな感じで、学校へ行かない1日は過ぎた。公園で本を読んでいると、たまたま通りかかった幼馴染のお母さんが話しかけてきたことがある。おばちゃんは私の隣のブランコに座ると「うちの子も、バカだけどね、頑張って学校行ってるよ。だから、こんちゃんも、頑張って」と泣いてくれた。私は普通に学校に行ってないだけなのに、なんだか申し訳ない気がして、それ後その公園へは行かないようにした。
昼過ぎから登校することもあった。登校時間じゃないときに登校するのは、さすがにちょっと気が引けた。それでも時々昼から登校していたのは、なるべく学校へは行った方がいいと思っていたからなのか。今となっては分からない。
昼からふらーっと登校しても、クラスの子たちは何も言わなかった。一応県内の進学校で、見るからに悪そうな子や荒れている子はいない。いたりいなかったりの私にイヤミを言う子もいない。平和な世界。昼休みに登校してきた私に、みんなは「あ、今来たんだ」という反応だった。
でも、先生は違った。ある日、古典の先生に呼ばれた。
「あなた、このままだと出席日数足りないわよ。どうするの」
出席日数。初めて聞いた気がした。そういうことに気を付けないといけないのかと思った。でも、どうしたものか、分からない。なぜ自分が学校に来ないのかも分からないのだから。
そんな、なんとなく学校に来ているような、来ていないような、自分でもよく分からない日々を過ごすうちに冬になった。
それは試験の日だった。1時間目の試験が始まる教室に座っていた。
「はい、では試験を始めるから、荷物は全部廊下に出してください」
先生の言葉で、教室内にいた子たちはみんな、ばたばたと荷物を廊下へと運びだし始めた。私も、直前まで読んでいた教科書をかばんにしまい、廊下へ出ると、教室に戻る友達の間を抜けて、そのまま階段を下りて、靴を履いて家に帰ってきてしまった。誰にも止められなかった。
家に帰ると父がいた。突然帰ってきた私を見て驚いた様子だったが、私はとても疲れていたので、何も言わずに制服のままコタツに入って、寝た。
どのくらい寝たか分からない。目を覚ますと、まだ父がいた。さすがに質問は免れない。
「いじめられてるのか」首を振った。
「勉強がいやか」首を振った。
「学校に行きたくないのか」頷いた。
コタツに入ったまま、父も私もしばらく話さなかった。コタツで寝た後ののどが渇いた感じと、制服のゴワゴワした感じがとにかく不快だった。寝起きのぼーっとした頭が少し動いてくると、今頃学校ではみんなが試験を受けているなと思った。私はこれからどうなるんだろう。自分が引き起こしたこの状況がどこへ向かうのか全く分からなかった。
「1年学校休めよ。東京の知り合いに、その間バイトさせてもらえるように頼んでみるから」
父の提案はあまり理解できなかったけれど、なんだか楽しそうに思えた。それに、学校に行きたくないという私の気持ちが、親にも学校にも公になったという事実は確実に私の心を軽くしていた。