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インバウンド(訪日外国人旅客者)と日本観光の未来〜国立公園に高級リゾートホテルの誘致〜

2024年7月、国立公園に高級リゾートホテルを誘致し、外国人観光客を地方へ誘導するという政府方針が発表されました。
環境保全を並行して進め、地域の理解を得ながら2031年までに実現を目指すとされています。この方針は、日本の観光業の新たな展開を示唆するものであり、地方創生の一環としても注目されています。


(1)高級リゾートホテルを誘致の背景と目的

日本の観光業は長年、都市部への観光客集中が課題とされてきました。
東京、大阪、京都といった都市に外国人観光客が集中する一方で、地方にはその恩恵が波及せず、地域経済は停滞しています。
この課題を解消し、地方経済を活性化するためには、地方への観光需要の分散が不可欠です。

出典:環境省リーフレット

国立公園は、美しい自然環境が特徴であり、観光資源として高いポテンシャルを秘めています。しかし、現状では宿泊施設が不足しているため、観光客が立ち寄るだけに留まり、地域内での消費が十分に生まれていない課題があります。宿泊施設の整備により、滞在型観光を促進し、地域経済の活性化が期待されます。

(2)国立公園宿舎等整備の歴史的背景

国立公園における宿泊施設整備の歴史を振り返ると、以下のような変遷があります;

  • 1960年代まで
    国際観光ホテルや国民休暇村など、政策的に宿舎設置が進められる

  • 1970年代~
    自然公園法により民間の過剰な開発が抑制される一方で、観光需要に十分応えられない側面も

  • 1990年代~
    バブル崩壊以降、地方観光地の衰退が顕著に。商店街や宿舎老朽化が進む

  • 2000年代後半~
    訪日外国人の急増など国立公園の利用者が多様化し、現在のニーズに合った国立公園の利用計画が必要

出典:国立公園の宿舎事業のあり方について(案)(環境省)

こうした歴史的背景を踏まえ、国立公園における高級リゾートホテル誘致は、時代に即した宿泊施設の整備を進めるための重要なステップと位置づけられています。

(3)高級リゾートホテル誘致の効果

高級リゾートホテルの誘致は、以下のような具体的効果が期待されます;

  • 地方経済の活性化
    宿泊を伴う滞在型観光により、地元飲食店や特産品販売、アクティビティ提供など多方面での消費が促進されます。

  • 新たな観光体験の提供
    高級リゾートホテルでは、自然環境を活かしたエコツーリズムや特別な宿泊体験が提供され、観光客の満足度向上に寄与することが期待されます。

  • 外国人観光客の地方誘導
    富裕層をターゲットにすることで、地方への観光客誘致が進み、観光市場の多様化を図れます。

(4)既存施設のM&Aや廃屋問題

■既存施設のM&A

既存の宿泊施設は老朽化が進み、現代の観光客のニーズに応えられていない場合もあります。この場合、エリア内の既存施設の改装やM&Aも加速するものと考えられます。

出典:国立公園の宿舎事業のあり方について(案)(環境省)

■既存の国立公園における廃屋問題

国は、既存の国立公園における廃屋問題にも言及しています。
国立公園への投資が加速することで、このような廃屋の解消も期待されます。

出典:国立公園の宿舎事業のあり方について(案)(環境省)

(5)実現に向けた課題と解決策~サステイナビリティの重要性~

プロジェクトを成功させるためには、環境保護、地域社会との連携、そして明確なターゲット設定といった課題を克服する必要があります。
しかし、これらを進める上でまず重要なのは、「そもそも、どんなまちを目指したいのか?」という視点を念頭に置くことです。
この問いに向き合わなければ、サステイナブルな取り組みも地域のための施策も形骸化してしまう恐れがあります。

  • 環境保護との両立
    自然環境への影響を最小限に抑えつつ、地域の魅力を活かした開発を進める必要があります。ただし、これを実現するには、単に環境保護を遵守するだけではなく、「この地域ならではの自然の価値を未来にどう残していくのか?」というビジョンが求められます。エネルギー効率の高い施設設計や、地域の文化や自然を尊重した観光プログラムがその具体例です。

  • 地域社会との連携
    「リゾートホテル単体が儲かるだけの仕組み」では、持続可能性は確保できません。地域全体が観光産業の恩恵を受けられるような仕組みを整える必要があります。そのためには、地域の宿泊施設や観光業者とのパートナーシップを築き、共存共栄を図ることが重要です。
    加えて、「この地域はどんなまちでありたいのか?」という大きな方向性を共有することで、リゾートホテルの運営が地域社会に根ざしたものとなり、地元の住民にとっても意義ある存在となります。特に、国内の企業やコンソーシアムが参画し、地域産業全体の高度化を担える仕組みを構築することが必要です。

  • ターゲット観光客層の明確化
    ターゲット観光客層の明確化も欠かせません。富裕層や自然愛好者といった層に絞ったマーケティングは、新規需要を創出するうえで有効です。
    ただし、この際にも「どんなまちを目指すか?」が基盤となります。富裕層の集客だけを目指すのか、地域全体の観光産業を活性化する多様な観光客層を受け入れるのか。これらのビジョンが明確でなければ、施策が迷走する可能性があります。

(6)まとめ

国立公園への高級リゾートホテル誘致は、地方経済の活性化や新たな観光市場の創出に大きな可能性を秘めています。
しかし、その実現には「そもそも、どんなまちを目指したいのか?」という問いに向き合うことが不可欠です。
この問いを軸に、環境保護と観光振興を両立し、地域社会と連携して進めることが重要です。

また、単なる施設整備ではなく、地域全体が恩恵を受ける仕組みを構築することが観光業の持続可能性につながります。
リゾートホテル単体が利益を得るだけでなく、地元の宿泊施設や観光業者との共存共栄を目指すことで、観光地としての価値が深まります。

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公認会計士 / 藤田崇紘
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