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インバウンドと日本観光の未来~MICE戦略の成功都市〜



(1)はじめに

MICE(Meeting, Incentive, Conference, Exhibition)は、観光産業を活性化し、地域経済に多大な影響を与える重要な分野です。
世界中で成功を収めたMICE戦略の事例は数多く存在し、その中には他地域が学ぶべきポイントが詰まっています。
本記事では、シンガポールの成功事例と東京の事例を紹介し、それらの要因を考察します。また、日本のMICE誘致支援策における課題についても考察します。

(2)国際会議の件数(ICCA基準)

2023年の国際会議の件数(ICCA基準)は、アジア太平洋地域においてシンガポールが1位、東京が3位という結果でした。
日本が今後さらなる地位向上を目指すためには、課題を明確化し、その解決に向けた戦略の強化が不可欠です。

出典:JNTO公表資料

(3)シンガポールのMICE成功事例

シンガポールは、アジア太平洋地域で最も成功したMICE都市の一つとして知られています。その成功の背景には、次のような要因があります。

  1. インフラの充実

    • マリーナベイ・サンズやサンテック・シンガポール国際会議展示場など、世界クラスのMICE施設を整備。

    • 最新技術を駆使し、同時通訳やバーチャル参加をサポートする先進的なサービスを提供。

  2. アクセスの良さ

    • チャンギ国際空港は、アジアと欧米を結ぶハブ空港として機能し、MICE参加者の移動を容易にしています。

    • 空港から市内へのアクセスも非常に便利(タクシーで約30分)。

  3. 政府の積極的な支援

    • シンガポール観光局(STB)は、財政的支援やプロモーションサポートを提供。

    • 国際団体への加盟やプロモーションイベントの実施を通じて、シンガポールを強くアピール。

  4. 多文化共存と国際性

    • 英語を含む多言語対応が可能で、多様な文化圏からの参加者を受け入れる体制を整備。

    • 先進的な観光地も、MICE参加者の滞在体験を向上させています。

これらの要因により、世界的なイベントの開催実績を有し、シンガポールは「選ばれるMICE都市」としての地位を確立しました。

■シンガポールにおけるMICE支援体制
シンガポールにおけるMICE支援体制は以下の通りです。

出典:MICE向け満足度の高い支援 プログラム等海外事例調査(観光庁)

■シンガポールの代表的なMICE施設規模
東京23区程度の国土に、質の高い大規模な施設が存在します。

出典:MICE向け満足度の高い支援 プログラム等海外事例調査(観光庁)

■MICE施設設置の効果
マリーナベイサンズとリゾートワールドセントーサにおける質の高い大規模MICE施設の設置以降、国際会議の件数やそれに伴う高い観光効果が創出されていることが分かります。

出典:特定複合観光施設区域整備法に係る説明会 説明資料

(4)東京

東京は、国際都市としての強みを活かし、多様なMICEイベントの開催に成功しています。

  1. 世界クラスの施設整備

    • 東京国際フォーラムやビッグサイト(東京国際展示場)など、大規模かつ先進的なMICE施設を整備。

    • 東京国際フォーラムは5,000人級収容のホール、東京ビッグサイトは12万㎡級の展示規模を誇ります。

  2. アクセスの利便性

    • 成田空港や羽田空港を通じて海外からのアクセスが非常に良好。

    • 都内の公共交通機関も発達しており、移動の利便性が高い。

  3. 観光資源との連携

    • 浅草寺や明治神宮など、近代都市と伝統的観光資源を有しています。

    • 会議後の観光ツアーや文化体験プログラムを提供し、参加者満足度を向上。

  4. 官民一体の誘致活動

    • 東京都と東京観光財団(TCVB)が連携し、国際会議や展示会の誘致を積極的に展開。

これらの要因により、東京はアジアを代表するMICE開催地としての地位を確立しています。

(5)MICE誘致支援策の日本の課題(観光庁資料より)

観光庁資料より、日本のMICE産業の競争力を強化するポイントが掲げられています。「ワンチーム」、「国際化」、「ユニークな体験プログラム」、「専門人材」の4つが、今後のMICE誘致のキーポイントになることが読み取れます。

  1. 企業パートナーとのタイアップ不足

    • 海外では企業協賛による特典サービスが充実しているが、日本では協賛企業数が少なく、特典内容も限られている。

    • 航空会社や大手交通機関との連携を強化する必要がある。

2. One Team活動の強化不足

  • 海外では政府機関と業界団体が連携した「One Team」活動が一般的だが、日本では自治体やビューロー間の役割分担や連携が不十分。

  • 人材育成やマーケティング、持続可能な発展に向けた連携が必要。

3. 国際交流活動の不足

  • 国際団体への加盟や役員ポスト獲得が遅れており、国際的なプレゼンスが低い。

  • 国際セミナーの開催や海外業界団体との交流強化が求められる。

4. MICから総合MICEへの推進不足

  • 日本ではMICE分野の所管が分断され、観光庁(MIC)と経済産業省(E)が連携不足。

  • 海外ではMICE全体を統括する専門機関があり、日本でも組織連携によるE(展示会)の振興が必要。

5. 海外向け情報発信の改善

  • コンベンションビューローのホームページでの英語情報が不十分。

  • 支援プログラムの積極的な紹介や英語コンテンツの充実が必要。

6. 体験プログラムの充実と人材連携の不足

  • 魅力的な体験コンテンツの発掘と専門家によるプログラム開発が重要。

(6)まとめ

シンガポールや東京の成功事例は、それぞれの地域特性を活かしたインフラ整備や国際的なプロモーション戦略、官民一体の取り組みが鍵となっています。一方、日本のMICE産業は企業連携や国際交流、情報発信の強化など、解決すべき課題が残されています。

MICEは単なるビジネスイベントの誘致にとどまらず、インバウンド観光消費を最大化する重要な手段でもあります。特に、MICE参加者の消費額は一般観光客を上回り、宿泊や飲食、地域観光への経済効果が期待されています。
今後は、これらの課題解決に向けた戦略的な取り組みを推進し、日本が「選ばれるMICE都市」として国際的な競争力を高めることが求められます。

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公認会計士 / 藤田崇紘
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