MICE(スタジアムやアリーナ)とまちづくり~長崎ピーススタジアム、神戸アリーナ、豊橋市新アリーナなど〜
(1)はじめに
MICE(Meeting, Incentive, Conference, Exhibition)施設は、地域経済の活性化や国際的な競争力強化を目的に、自治体や民間企業から建設が提案さるケースがあります。
しかし、提案されたMICE施設が、地域住民の反対や建設費高騰等もあり採算性の懸念から中止に追い込まれるケースも少なくありません。
本記事では、MICE施設が中止される背景や問題点を考えます。
(2)MICE施設建設の提案と公共性の課題
MICE施設は一般的に公共性が高く、地域社会に対する経済波及効果が期待される一方で、運営採算性に課題が残ります。
採算が合わない現実
MICE施設は大規模な会議や展示会などを開催するための設備が必要であり、建設費・維持費が高額になる傾向があります。
施設稼働率が低いと運営コストを賄えず、結果的に税金で赤字を補填する「箱物行政」として批判されることがあります。
需要が先か、供給が先か?
MICE施設の建設は「需要を見込んで供給を作る」ことが一般的ですが、特に人口流動が限られる地方都市では、十分な需要が見込めないまま建設が進むことがあります。
結果として施設が十分に活用されず、維持費が地域経済の重荷となるリスクが生じます。
柔軟性のある施設の必要性
今後のMICE施設は多様なイベントに対応できる柔軟性が求められます。例えば、会議、展示会、スポーツイベント、文化イベントなど複数の用途に活用できる設計であれば稼働率向上が期待できます。
(3)豊橋新アリーナ 住民投票条例案提出(課題事例)
計画の経緯
新アリーナの構想は、先々代の佐原市長時代に地域活性化の一環として提案されました。その後、浅井前市長が候補地の再検討を行い、豊橋公園内に建設することを決定し、PFI方式での事業者選定が進められました。そして、2024年9月には、事業契約(約230億円)が締結されました。
市長選挙と計画中止の動き
2024年11月10日の市長選挙で、「新アリーナ計画の即時契約解除」を公約に掲げた長坂氏が当選しました。当選後、長坂市長は速やかに契約解除の手続きを指示し、事業者に解除協議を申し入れました。
住民投票条例案
愛知県豊橋市の多目的屋内施設(新アリーナ)と豊橋公園東側エリア整備運営事業を巡り、12月19日、計画継続の賛否を問う住民投票条例案を提出する方針を議会運営委員会で示されました。
※12月26日に、豊橋市の新アリーナ計画について賛否を問う住民投票の実施は見送られることとなりました。
(4)沖縄マリンタウン(課題事例)
沖縄県(西原町)「沖縄県マリンタウン国際会議・大型展示場整備運営等事業」(2024年6月公告)では、MICE施設建設の計画が進められたものの、最終的に中止に追い込まれました。
概要
沖縄県は与那原町と西原町にまたがる中城湾港マリンタウン地区にMICE施設の建設を計画し、国際会議の誘致や観光需要の拡大を目指しました。
当初の計画は総事業費約500億円規模で、観光産業との連携による経済効果が期待されていました(その後、約350億円へ減額)。
失敗の要因
需要の不確実性
MICE誘致に必要な具体的な需要予測が不足しており、施設の稼働率への懸念が指摘されました。
地元経済への影響
観光業界からは「既存の宿泊・観光施設への影響」や経済波及効果への不透明さが反対意見として挙げられました。
規模の縮小案
当初、展示場は30,000㎡以上、多目的ホールは7,500㎡以上の規模で、DBO(設計・施工・運営)方式で事業者を募集していました。
今回の6月の公告では、展示場の規模を1万㎡以上に縮小し、事業手法をPFI(建設・譲渡)方式に変更されました。
(5)長崎「ピーススタジアム」の事例
国際会議などが主体の施設ではありませんが、Eventを中心に催事が行われる民間投資の事例として、長崎の「ピーススタジアム(長崎スタジアムシティ)」が注目されています。民間都市再生事業計画として国から認定を受け、ジャパネットたかたが主導するプロジェクトです。
事業概要
民間企業(ジャパネットたかた)が中心となり、MICE機能を備えたスタジアムやホテル、商業施設を一体化して建設。
多目的な活用が可能な設計により、稼働率を最大化。
特徴
約1,000億円の民間投資により公共負担を抑え、経済効果を最大化するビジネスモデルを構築。
サッカー観戦や大規模イベントなど複数の用途を想定し、安定した集客を確保。
この事例は、これまで公共事業として実施されることが多かったMICE施設に対する新たな方向性を示しています。民間の投資や運営ノウハウを取り入れることで、採算性の向上も可能となります。
(6)神戸アリーナプロジェクト(ウォーターフロント)の事例
神戸のアリーナも、民間都市再生事業計画 として国から認定を受け、NTT西日本が主導するプロジェクトです。
概要
神戸市とNTTが連携し、民間主導で多目的アリーナを建設予定。
アリーナにはMICE機能が備わり、スポーツやコンサート、展示会など幅広い用途で活用される計画です。
(7)PPP・PFI(民間資金)の活用と課題
MICE施設建設においては、公共資金に頼らないPPP(公民連携)やPFI(民間資金活用)による手法が注目されています。
PPP・PFIのメリット
民間の資金やノウハウを活用することで、公共負担を軽減できる。
効率的な運営が期待でき、採算性向上の可能性が高まる。
課題
民間企業が利益を重視するあまり、地域貢献や公共性が軽視されるリスクがある。
初期投資の回収が難しい場合、一定期間後の撤退リスクがある。
地域住民の合意形成が不十分だと、事業そのものへの反発が強まる可能性がある。
(8)まとめ
MICE施設は、地域経済を活性化し、国際的なビジネスイベントの開催地としての地位向上に寄与する可能性を秘めています。しかし、需要と供給のバランスを欠いた施設建設は、採算性の低さや地域住民の反対を招きやすくなります。
長崎「ピーススタジアム」や、神戸ウォーターフロントのような民間都市再生事業認定の活用、PPP・PFIを導入した柔軟な資金調達と運営モデルは、今後のMICE施設計画の重要な指針となります。
計画段階から需要を見極め、公共性と採算性を両立させながら地域住民の合意を得ることが、持続可能なMICE施設運営の鍵となるでしょう。
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