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忘れられない笑顔

今年の夏の帰省では、父方の祖母に会った。
もう長らく施設に入っていて、父からはもう孫のことは覚えていないかもしれないと伝えられていた。

声をかけても何の反応も無いかもしれないけれど、努めて明るく話しかけようと覚悟を決めて施設へ向かった。

お盆で多くの人が訪れたことで、面会はガラス越しで行われることになった。ガラスは分厚いから受話器を使って話さなければいけないし、外のいい天気が反射してしまい、おばあちゃんが見づらい。

残念だけれど仕方ないから、気を取り直して
「おばあちゃん」
と受話器に向かって言った。

そしたら、「あー」と返事をしながら、昔よく見た優しい笑顔を見せてくれた。
その瞬間、もうだめだった。涙がこぼれた。

私が話し続ける間、たまに意識が飛んでしまうこともあったけれど、返事をしてくれて、笑顔を見せ続けけてくれた。

父も不思議そうだった。俺が話しても反応しないことがあるのに、と。

都合のいい話かもしれないけれど、私の発した「おばあちゃん」の声が昔から変わらなくて、それを覚えててくれたのかなと思った。

90歳を超えて、人生で色んなことが起きただろうに、末の孫のひと声を覚えててくれるだなんて、なんて嬉しいことだろうか。ガラスを突き破って抱きしめたかった。

感動の再会を終えて悔やまれることは、おばあちゃんとの写真を撮れなかったことだ。そもそもガラス越しだから反射でうまく撮れなかっただろうけど、写真撮っていいですか?のひと言が言えなかった。
今しかできないことは今やろうと決めていたのに。

おばあちゃんは記憶や反応は薄れてしまっているけれど、顔色はよく、ほっぺがふっくらしていた。施設の方によると、ご飯をよく食べているらしい。

私の持論で、よく食べる人は長生きするというものがあるから、おばあちゃんはきっと来年も私と会ってくれるだろう。
その時には絶対におばあちゃんと写真を撮る。
おばあちゃんと私の約束。

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