バベルの塔②

黙々と与えられた作業をこなす。

壁面を作るための手元の煉瓦が残り少なくなってきたため,資材置き場へ資材を取りに行く。資材は,相当な重量があるため必ず2人で運ばなければならない。

誰に声をかけようかとあたりを見回すと,今朝しゃべりかけてきたやつと目が合った。奴はこちらの状況を察したらしく,小走りで駆け寄ってきた。この現場で,アイコンタクトだけで成り立つ会話ができるのはこいつぐらいだ。

「資材取りに行くんだろ,ビル。手伝うよ。俺のもちょうどなくなりかけてたし。」

「ああ,すまんな。サム。」

そういって,2人は歩き出した。

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機材をよけることに注意を払いながら,少し歩いたところでサムが口を開く。

「んで,今朝の話のことなんだが。」

「またその話か。その話は,ここで働いている間に何度も聞いたさ。そのたびに嬉しそうに騒ぐ奴がいたよ。ちょうどお前みたいにな。そんでもって,誰もそいつの相手なんかしない。耳障りなだけだからな。」

それでも,負けじとサムは反論する。

「今回は,あながち間違いでもなさそうなんだ。確証がある。」

「それは,さっき言ってた下っ端の話だろ。そんなもんじゃ信用できないね。どうせ,下っ端が気まぐれ程度のうわさを俺らに流して,根拠もない情報に踊らされて落胆するお前みたいなやつをみて楽しんでるんだよ。そんなことするのも,奴らは自分が生きているうちに完成しないことをわかりきっているからな。そんなことするしか,楽しむ方法を知らねえのさ。」

「あんたがそこまで疑うのも無理はない。なんせ,この塔は人類の無謀な挑戦だからな。だが,それをわかってこの作業をしている奴が俺らの周りにどれだけいると思う?正直,俺はそんな奴と会ったことないね。口を開けば,明日の飯の心配ばかりしてる。配給なんだからほぼ決まってるっていうのに。」

あきれ顔のサムは,またこう続ける。

「社会という仕組みを持つ人類は,上の決めたことに対して下は盲目的に従わざるを得ないという暗黙の了解の中に生きている。上がどういう意向でこの挑戦をしているのかは,下にとってはどうでもいい。ただ,生きていければそれでいい。考えることをやめた人間は,こうして下の下の下で生きていくんだ。わかるか。それをよしとするのもいかんともしがたいと行動するのも,個人次第。」

少し興奮気味に話すサムに,この話がいつまでも続くのかと飽き飽きしたビルは苛立ち気に,

「そうかい,そうかい。んで,お前は結局何が言いたいんだ。今日は,いつにも増して回りくどい。うっとうしいから言いたいことがあるなら早く言え。」

はっとした様子で,サムは我に返る。そして,こういった。

「悪い,悪い。じゃあ,単刀直入に言う。俺がこの社会の上の人間って言ったら信じるか?」


続く



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