バベルの塔
カーン、カーン、カーンーー。
彼は硬いベットから重たい体を起こした。カーテンの隙間から光が漏れている。昨日の重労働はさすがに堪えた。身体中の筋肉が鉄のようだ。若い頃は、どれだけ働いても次の日にはそんなことを感じなかった。歳のせいか。物心ついた時からすでにここで働いており、これからもその事実が変わることはないと考えるとどうも気が滅入って仕方がない。
くたびれたタオルを手に取り決まったように顔を洗い白髪頭の髪を整えながら使い古しの作業着に袖を通す。朝食は配給されたパンとゆで卵とコーヒーだけ。
ジリリリー
夜勤と交代の時間だ。仕事を終えてすれ違う同僚たちは疲れきった表情でそれぞれの部屋に戻って行く。帰ったら、泥のように眠るのだろう。
仕事は、煉瓦を運び積み上げて壁を作る。ただそれだけ。
「おい、聞いたか。あと少しでこの塔も完成するらしいぞ」若い男が話しかけてきた。
「またその話か。そんな話なんていつものことじゃないか。もし、これまでのそういう類の話が本当だったら、こんな白髪頭になるまで働くこったぁなかったよ。」
「今度は本当なんだって。あそこにいるやつらが陰で話してるのを俺は聞いたんだ。ここもあともう少しで終わるってさ。」
「バカ言え。ここっていうのはきっとこの持ち場ってことだろ。しかも、あいつらはここを取り仕切ってるだけで俺らに対して偉そうにしているが、所詮は下の下だ。そんな奴らの言ってることなんて戯言に過ぎん。」
「その下で働いてる俺らは、下の下の下ってことか?笑うしかねえや。」
そう言って若い男は持ち場に戻っていった。
—続く—
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