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#3 治療方針の決め方:〈ひとり〉でできるけど『乳がんと終活』
この絵は、ゴヤの「砂に埋もれる犬」。乳がんと診断確定して、治療方針を決め治療が始まるまでの間に、徳島出張があり、大塚国際美術館で見つけて写真を撮った。今の私、こんな気分だなあ、と思い目が離せなかった。
この絵を描いた時、ゴヤは70代半ばでひとり暮らし、精神的・肉体的苦痛に苦しんでいた時に自宅の壁面に描いたひとつで、その連作は「黒い絵」と呼ばれている。現在は、マドリードのプラド美術館所蔵。ゴヤはこれらの連作を公開する意思が無かったため、この絵の本当の意味はわかっておらず、無数の解釈を生んでいるが、私はゴヤの気持ちを表現したものと素直に受け取りたいと思った。わかるよ、今の私もこんな感じです、と当時56歳の私はゴヤに話しかけていた。
治療方針を決めなければいけない。
診断は、ステージⅡa 。まず、医師も参照するという「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」(日本乳癌学会編)を入手し読み込んだ。いろんな患者さんのブログも参考にさせてもらったし、広くググってみたりもしたが、まずはエビデンスのある西洋医学の知識をしっかり持つべきだと思っている。もしこの記事を読んでいる、この記事の時の私と同じような状況の人がいたら、それを強く伝えたい。いろんな出来ることをやるのはいい。でも、標準治療ほどしっかり管理されデータ化され検証されているもの、しかも世界規模で、は他に無いのだ。標準治療は完璧では無いが、そのトライ&エラーは確実に記録され、財産となっていっている。まずはそれを知って、メリット、デメリットなどを検討して決めるべきだ。その上で、補助的にいろいろな治療法をプラスしていけば良いと思う。
主治医から提示された最初の治療方針は、【手術で一部切除→放射線→投薬】だったが、聞いてすぐに「無理だ」と思った。放射線は避けたかった。エビデンスベースにと言っておきながらお恥ずかしいが、放射線には抵抗感が大きかったし、一定期間毎日通わなければいけないというのも現実的に難しいと感じた。そのことを主治医に素直に話すと、理解してくれた。次の提案が【手術で全摘出→リンパ節に転移なければそのまま→再建手術】だった。しかも、自家組織での再建が可能で、自身のおなかの脂肪を使ってくれると言う。
私は、「え!? それって一石二鳥? いや、三鳥?」と気持ちが浮き立った。一部切除では転移の心配が残るから放射線が必要だが、全摘出してリンパ節転移が無ければひとまず安心、しかもその再建に余分で持て余しているおなかの脂肪を使ってくれるのだ。ほぼ即決し、その場で手術のスケジュールを決めた。なるべく仕事先に影響無いように、年末年始の休暇期間を上手に使うことにした。
最適解の見通しが立って、具体的に対処することが明確になったので、不安は無かった。まだわかっていなかったのだ。全摘出手術や再建手術の大変さや、〈ひとり〉で入院するということの意味を。