なぜビールのテレビCMはどのメーカーも似ているのか~芸能人が「うまい!」と言うだけのCMについて~
一度気になってしまうと、ずーっと気になってしまうもの。ありますよね。机の隅のほこりとか、小指のささくれとか、友達のヘンな癖とか。
自分が最近、ついつい気になってしまったのは「ビールのCM」です。
「何を気にすることがあるのか」とお思いでしょうが、めちゃくちゃ乱暴に言えば、どのCMも同じなんですよ。作り(構成)が。
どのCMも芸能人が「うまい!」と言うだけ。
厳密に言えばビールだけではなく、発泡酒や第三のビール、ノンアルコールビールもそうです。ワインやクラフトジンなんかは趣向を凝らしたCMもありますが、一般大衆がビール類として認識している飲料のCMはほとんど同じ作りです。
普段、テレビを観ていない方もいると思うので、いちおう参考にCM動画のリンクを張っておきます。
このように、アサヒ、キリン、サントリー、サッポロと、国内シェアのほとんどを占める4大ビールメーカー各社が、判を押したみたいによく似たCMを世に送り出し続けているのです。
だいたいこの流れですね。
「新しくなった」が「変わりました」「さらに、おいしく」などになる場合もありますが、大まかな構成は同じです。
ちなみに、どう変わった(新しくなった)のかは説明してくれません。
さて、テレビCMは商業用広告という性格を持ちながらも、立派な映像作品です。
なので……
あえてチープにしてみたり、
社名を連呼してみたり、
アニメーションにしてみたり、
ミステリアスに仕立てたり、
映画のように作ったりすることもできるのです。
それぞれユニークな出来で、良いですよね。
かたやビールのCMは、
ずっとこんな調子なんですよ。
どのメーカーも、どの銘柄も、どの俳優も。
冒頭にも書きましたが、一度気になるとずっと気になってしまうもので、僕はビールのCMを見るたびに「なんで?」「どうして?」が頭の片隅に蓄積されていきました。
もっと面白く、個性的に作れるんじゃないか?と。
そして、その「なんで」「どうして」のモヤモヤが限界値を超え、「ビールのCMは創造性が無い人たちによって作られているのだ」という暴論を持論に加えかけた寸前に思いとどまり、考えを整理するために書いているのがこの記事なのです。
ただ、この問題は少し考えるだけであっさりと解決しました。
僕は広告関係の仕事をしているわけでもないタダの一般人ですが、以下、しばしの素人考えにお付き合いいただければ幸いです。
そもそも、企業はなぜテレビCMを流すのか。
会社のイメージアップや社会への啓発など、理由はいくらでも挙げられそうですが、平たく言えば「商品の売り上げを伸ばす」というのが大きな目的のはずです。
では、ビールの売り上げを伸ばすためにはどうしたらいいか。ここで二つの選択肢が考えられます。
普段からビールを飲んでいる人に「毎日1缶から3缶に増やしましょう!」と呼びかける。
ビールを飲む習慣がない人に「週末は本格ビールを飲みませんか」と誘いかける。
1は個人が飲む量を増やし、2は飲む人の数を増やすという戦略です。1人が毎日3缶飲むのも、3人が毎日1缶ずつ飲むのも、トータルの消費量としては変わりません。
では、1と2、どちらがビール会社が採るべき戦略、作るべきCMとしてふさわしいでしょう。
……どう考えても、2の方が良さそうですよね。
健康面でも、倫理面でも、市場の健全さから言っても。
つまり、ビール会社は2の「ビールを飲む人自体を増やす」という戦略で広告を打っており、上に挙げたようなCMたちは、あまりビールを飲まないライト層をターゲットにしているのです。
そりゃあ、イマイチ響かないのも当然ですよね。そもそもターゲット層に入っていないんですから。
ライト層向けということであれば、15秒~30秒というわずかな時間の中で「どうおいしいのか」について技術的な説明をするより、魅力的な俳優やアーティストが「ビールっておいしい!」と連呼する方が、イメージが良いはずです。「出演者の好感度=商品の好感度」という分かりやすい図式に繋げることができるし、出演者のギャラ以外に大きな経費が掛からないという点でも合理的です。
また、「さらにおいしくなった」「新しくなった」という言葉は常飲者にも効果のある言葉です。これが耳に残っていると、スーパーでずらっと並んだビールの缶を見たときに「あ、これ新しくなったってCMでやってたな」と手に取らせることができますからね。
さて、ビール会社はライト層を開拓するためにCMを打っているということは分かりました。
けれど、それがすなわち「同じようなCMが溢れかえっている」ということの理由にはならないですよね。広告戦略が一緒だとしても、映像の作り方はいくらでも工夫できるはずです。
疑問が解消できなかった僕はさらに調べていき、ついに根本的な理由に行き当たりました。
それはアルコール飲料広告の自主規制です。
いきなり堅い話になってしまい申し訳ないですが、以下は、ビール酒造組合などアルコール飲料関連の業界団体で構成される『飲酒に関する連絡協議会』が定めた、酒類の広告・宣伝及び酒類容器の表示に関する自主基準からの抜粋です。
どうでしょう。意外と厳しいというか、それもダメなの?という規制内容も結構ありますよね。喉元アップの描写はしないとか。
あと、5時から18時はテレビCMを流さないというルール。「いや、昼間も流れてるよね」と一瞬思いましたが、注意深く見てみれば、日中に流れているのは全てノンアルコールビールのCMでした。
また、
という決まりもあるようです。
つまり、この自主規制のもとでは「新成人を迎えたばかりの若手俳優たちで飲み会をするCM」とか、「半身浴をしながらよく冷えたビールを飲むCM」なんかは軒並みアウトということになります。
あるいは、映画「ショーシャンクの空に」で、屋上でビールを飲む名シーンがありますが、そのシーンを流用するのも「危険な場所など不適切な状況での飲酒を誘発する表現」としてアウトです。
そして何より、最初の三つ。
一気飲みをした(させられた)若者が急性アルコール中毒で亡くなるという痛ましい事件が、ときたま報じられます。また、アルコール依存症が生む悲劇は言わずもがなでしょう。
こうした弊害を抑えるため、酒造メーカーは「お酒は適量で」という強いメッセージを発信しなければならないのです。
さて、そんな事情を踏まえ、あらためてCMを見てみましょう。
「十分なオトナ」が「適量」を「旨そうに飲む」。
ビール会社のイメージ戦略と業界の自主規制を考えれば、これがビールCMの完成形だという気がしてきます。もし、自分がこれ以上のものを作れと言われても、いまいちアイデアが思い浮かびません。
かくして、ビールのCMに(勝手に)抱きかけていた悪感情はすっかり解消しました。結局、どのような製作物も関係者たちが苦心の末、何とか世に送り出しているものなのです。
「ビールのCMは創造性が無い人たちによって作られているのだ」
なんと恥ずかしい言葉を吐いたものでしょう。
謹んで撤回させていただきます。
ちなみに、ビールとひと口に言っても、発酵方法の違いなどによってさまざまな種類に分けることができます。日本を含め世界的に主流となっているビールは、ほとんどがラガービールのピルスナースタイルというもので、大量生産のしやすさと、のど越しの良さで人気を得ています。
個人的には苦いエールビールが好きなので、もっと色々なビールがスーパーの酒類棚に並ぶようになればいいなと思います。
それでは、皆様もよいお酒ライフを。
自己投資します……!なんて書くと嘘っぽいので、正直に言うと好きなだけアポロチョコを買います!!食べさせてください!!