「お笑い」を食わず嫌いしていた自分がYouTubeでラーメンズのコントをひたすら観るようになってしまった話
2020年も半分が過ぎようとしているが、僕の「今年発見した素晴らしいコンテンツランキング」で1位を突っ走っているのが、「ラーメンズ」というお笑いコンビだ。
僕は小さい頃から「お笑い」というものにほとんど触れてこなかった。
今でも、芸人の名前くらいは聞いたことがあっても、どんな芸をするのかはさっぱり分からない。
「コントなんて勢いだけで笑わせてるだけじゃないの」「芸人とか言いながら、テレビでただ喋ってるだけじゃん」などと斜に構えて、なんとなくずーっと触れることを避けてきていたのだ。
そんな折、僕はラーメンズのコントを観てしまった。
YouTubeで別の動画を見ていたところ「あなたにおすすめの動画」的なところに表示されて、気まぐれにクリックしたのが全ての始まりだった。
え、めちゃくちゃ面白いじゃないか……!!!!
心の中で思っただけじゃなく、声が出た。
「すばらしい!」「テクニカル!」「なるほどなあ!」「すごい!」「天才だ!」「頭がいいんだなあ!」などと語彙力のない激賞の言葉もつらつらと出た。
練り込まれた言葉遊び、絶妙な間の取り方、長ゼリフをすらすらと言ってのける記憶力、声帯模写にパントマイムによる見事な演じ分け、「ボケ」「ツッコミ」の区別なく、流れるように変わっていくコンビの役回り。
シンプルな衣装で、小道具もほとんど使わずにひたすら内容の面白さで勝負しているラーメンズのコントは、僕が抱いていたこれまでのコント像を粉々に砕いたのだ。
あまりの完成度に、コントと舞台演劇って何が違うんだっけ?と、良い意味でワケが分からなくなってしまった。
かくして、僕はラーメンズ沼にハマった。
なんせ、ラーメンズのコントはYouTubeで100本も公式公開されているのだ。
しかも広告収入は日本赤十字社に寄付するとのことである。
ケラケラと笑いながら社会貢献できるのだ。
まあ100本もあれば、全部観るのには相当時間が掛かるな……と思いきや、一週間も経たずにすべて観てしまった。
そして今は、とくに気に入ったコントを二度、三度と見返している。
これは大発見だった。
「お笑い」というものに全く興味がなかった自分が、コントを心底面白いと思ってリピートしているのだ。
そんな自分にちょっと驚き、そして、まだまだ未知の「面白いこと」があるんだな…!なんて思って、未来への希望すらもらった気分だ。
また、コンビを組む小林賢太郎・片桐仁(記事内敬称略)の二人が、非常に仲が良さそうなのもラーメンズの好きなところだ。
”人を傷つけない笑いであること”を信条とするだけあって、とにかく安心して見ていられるのがいい。
まあ、百聞はなんとやらだ。
もし少しでも興味を持ってくれたなら、まずはこの2つを観てもらいたい。
いま音を出せない方は、後で観てみてね。
「不透明な会話」
「青は進め、赤は止まれ」という信号の常識を「赤は進め、青は止まれ」にしてみせる、という会話から始まる言葉遊びコント。
詭弁の掛け合いが見事で、めちゃくちゃなことを言っているのに妙な説得力があって面白い。
真っ黒な服を着て座って話しているだけというシンプルさだけど、それが逆に声の抑揚や体や顔の細かい動き、会話の作り込みの素晴らしさを際立たせている傑作。
「条例」
上に挙げた「不透明な会話」と同じ『TEXT』という公演で上演されたコント。
ラーメンズのコントは公演内の作品で微妙に繋がりがあるので、続けて観るとなお面白くなる。
「不透明な会話」が会話劇なら、この『条例』は演劇。
歌やパントマイム、セリフ回しが非常に多彩で、とにかくこのコンビのセンスと才能を感じられる名作。
ちなみにサムネは「エロい姉」と絶唱しているシーンです。
今挙げた二つのコントは特に気に入っていて、勝手にインスピレーションを貰ったりしている。
他人の才能に触れることで、自分も頑張ろうって気になれるよね。ね。
さて、先ほども書いたが、ラーメンズのコントはYouTubeでプレイリストになっていて、第17回公演『TOWER』の「タワーズ 1」から順番に観れば、100本すべてを観ることができる。
とは言え、100本となるとやはり大ボリュームなので、プレイリストに載っているのが早い順に、好きなコントをいくつか紹介したいと思う。
どれか気に入ってもらえるものがあれば幸いだ。
「名は体を表す」
「知らない物でも、語感でどういう物かが分かる」という仮説について小林が片桐に説くというパターンは「不透明な会話」に似ているが、途中から片桐が暴走してハチャメチャな展開になる。
後半の10分間を一人で暴れまわる片桐も凄いが、120文字以上もあるバンコクの正式名称をスラスラと言ってのける小林も凄い。
こんな無軌道なプロットを思いつくのも、完璧にこなすのも人間離れしているなと思いました。
ほんと。
「やめさせないと」
日本中のタワーの名前を言い合ったり、タワーに行ったり、タワーの真似をしたりするのが大好きな”タワーマニア”の二人。
ある日、つるちゃん(片桐)が友達とキャンプに行くことになり、それを阻止しようとした小林が変装して代わりにキャンプに行こうとするが……。
13:20のところの人が入れ替わるシーンが非常に滑らかで、何度もリピートして見ちゃう。
「50 on 5」
教材用五十音ポスターの改訂をする話。
社長、部長、平社員、バイトを二人で演じ分けながら、小芝居をいくつも挟みつつ進行していく小気味いい会話劇。
動画は貼らなかったが、この次の「同音異義の交錯」もめちゃくちゃ面白い。コント一本ごとに、短編小説を書きあげるレベルの労力が掛かっているんじゃなかろうか。
「風と桶に関する幾つかの考察」
「風が吹いた」から始まり「桶屋が儲かる」で終わるショートコント集。
一方がステージ上を動き回り、一方がアテレコをするのだが、口の動きと声が完璧に合っていて、相当練習したのかなとか思ってしまう。
「桶」が予測不能なタイミングで飛び出してくるのだが、その切れ味の良さと、何より芸の幅広さが素晴らしい。
「バニー部」
ウサミミを付けた小林が好き勝手に暴れまわるコント。
「バニー部」への入部希望者である片桐はじっと座ったまま動くことも話すこともないが、バニー部主将・小林のナンセンスなギャグ攻勢に耐えきれずに噴き出しちゃったりもする。
台本があるならどうかしてるし、台本がなければそれもそれでどうかしている傑作。
小林の猫の鳴きまねが異様に上手い。
「不思議の国のニポン」
懐かしのおもしろフラッシュ倉庫にあった「千葉!滋賀!佐賀!」と似たテイストのコント。
というか元ネタがラーメンズだと最近知りました。
このコントはプレイリストの中でも特に再生数が多く、他のコントが20〜30万再生なのに対して170万再生を超えているが、それも納得のシンプルな面白さ。
小林が都道府県を北から南までカタコトで言っていき、片桐が復唱するだけなのだが、ふんだんに盛り込まれた小ネタで20分以上ゴリ押す。
かと言って勢いだけでもなく、「この謎はおよそ14分後に解けます」と宣言して本当に14分後に答えを持ってくるなど、ネタの作り込みに舌を巻く名作。
「study」
打って変わって、ヘリクツが楽しい会話劇。
片桐の「鉛筆もノートも、使い切ったことがないまま大人になりました」という独白から始まり、哲学者然とした小林が人生の意味を諭していく……のだが、開始から3分でどういう状況なのかが分かり、妙なカタルシスがある。
でもそれを安易にオチに持ってくるわけじゃなく、そこから10分以上、噛み合わないシュールな押し問答が続いていくのが面白い。
「ホコサキ」
ある疑いを掛けられた片桐がひたすら言い訳をして、ホコサキさん(小林)が「要するに彼が何を言いたいのかと言うと!」と代弁していくコント。
片桐がひたすら墓穴を掘りまくり、ホコサキさんの言うことがまるで本筋から外れていて(でも一つ一つは共感できる)、二人が次に何を言うのかが楽しみになってくる。
くだらないことを熱演する、彼らの真骨頂が見られるコント。
「科学の子」
科学者(小林)が「楽しい科学の質問箱」に寄せられた子どもの質問に丁寧に答えていくのだが、サイエンスくん(片桐)が横やりを入れてぶっ潰していくというコント。
小林が演じる人物の「それっぽさ」と、片桐の怪演が光る。
「金部」
「金部(かねぶ)」に所属する二人の大学生が、交通量調査をしながら金儲けの手段を考えていくコント。
喜劇という形を取りながらも、消えた1ドルのトリックなどの詭弁をふんだんに盛り込んでいて、不条理な論理に唸らされるのは先に挙げた「不透明な会話」に近いところがある。
「採集」
田舎に帰ってきた男(小林)が、今は中学教師の旧友(片桐)と話をするコント。
なんと26分もある。
これもまた伏線の多い傑作で、「一度観たら、もう一度最初から観たくなる」という言葉をまさかコントに使うとは思わなかった。
というかコントなのかこれ。
説明するのは無粋だから何も言わないが、ショートショートが好きなら気に入るはずなので、ぜひ観てもらいたい。
「小説家らしき存在」
出版社に勤める片桐は、原稿をもらうために小説家(小林)の元を訪れるのだが、ついつい眠くなってしまい……。
コメディ&スリラーなコントで、いつオチが来るのかが分からず、肩透かしを食らっているうちに崖際に追い詰められているような感覚になる。
僕が初めて観たラーメンズのコントで、ここからラーメンズ沼にグイっと引き込まれてしまった名作。
「プレオープン」
小林の「某テーマパークのお兄さん感」が凄い。
そんな小林の声帯模写はもちろん、片桐の天然の面白い動きが素晴らしい。
6分くらいなのでサクッと観られる。
「バースデー」
誕生日の男(小林)の家を、突然、同僚の片桐が訪れる。
片桐は荷物を置いて外に電話をしに行ってしまうのだが、小林はその荷物が自分へのプレゼントではないかと思い始めて……。
「心の声」を表現するために、録音された音声に合わせて動くというプレスコ的なコント。
内容もさることながら、練習量を思って感嘆。
「男女の気持ち」
女にフラれた男(小林)を慰めるため、友人の男(片桐)は「俺が女やるから、ちょっとフッてみろ!」と小芝居を持ちかけるが……。
「俺ンとこじゃないっしょ」「内臓を買ってください!」などのパワーワードが飛び出すとともに、二人の仲の良さが滲み出ている良いコント。
「棒」
当たり前のように殺陣をやったりもするんだよなあ。
「透明人間」
勉強に励む中学生(小林)に、医者をしている父親(片桐)が夜食を差し入れるのだが、それにはある秘密があって……。
ちょっと怖さもあるコント。
やはり片桐の怪演、そして小林のパントマイム技術が光る。
「ファン」
「カリフォルニアヒヤシンスバンド」というバンドのライブに行くため、二人(片桐・小林)は友人を待っているのだが、その間に違うバンドのライブに行かないかという誘いが入って……。
13分くらいの「あーそう!!前から行きたかったの!!!」と勝ち誇る小林がツボで、そこばっかり何度も観ちゃう。
とりあえずここまで。
ああ、いくつか、なんて言って18個も紹介してしまった。
まあでも、本当はすべて紹介したいくらいだ。
まったく疎くて申し訳ないが(今さらラーメンズを知ったのか!という非難も覚悟している)、この愛すべきコントたちを発見できて、僕のくらしは相当豊かになったと思う。
ラーメンズとしての公演は2009年の「TOWER」を最後に行われておらず、事実上の活動休止状態のようだが、解散をする気はないようで、いつか二人のコントを舞台で観られないかな、なんて淡い期待を抱いている。
とは言え、二人ともそれぞれソロで精力的に活動をしていて、小林さんは「コント集団カジャラ」を結成するなどして、今でも舞台で縦横無尽にコントをしているようだ。
この夏の公演は残念ながら中止になってしまったようだが、ぜひ観に行ってみたいと思っている。きっと絶対間違いなく面白いから……。
あと、東京五輪音頭‐2020‐のMVにめちゃくちゃバッチリ出ている。
知識がなさ過ぎて恥ずかしい。
また、片桐さんはテレビドラマや映画で俳優として活躍しているほか、粘土作品の制作も精力的に行っている。
こちらも残念ながら中止になってしまったようだが、すっかり二人のファンになってしまった僕は、きっとあらためて開催されるときには飛んでいくだろう。
それくらい、ラーメンズとは本当に良い出会いだった。
ちょっと大げさかもしれないが、僕も写真を撮ったり、モノを書いたり、切り絵をしたり、そんな創作する人間の端くれなので、彼から大いに刺激を貰うことができて感謝しているのだ。
ありがとうYouTube。そしてラーメンズ。
食わず嫌いは良くないなって、思えたよ。
自己投資します……!なんて書くと嘘っぽいので、正直に言うと好きなだけアポロチョコを買います!!食べさせてください!!