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働くことで何を得るか。

 もちろん「人それぞれ」ですというのが回答になりますが、金銭的報酬が欲しい人や誰かのために役に立てる自分でいたいなど様々です。そのワークモチベーションについてお話しします。

なぜ働くのか、またなぜ長時間働くのか

 働くことのモチベーションとして、世論調査の結果で最も多かった「お金を得る」こと、つまり金銭的報酬について考えてみましょう。例えば、コンビニエンスストアで大学生Xさんがアルバイトをするケースを考え、Xさんが働くことによって受ける疲労やダメージに、その時間に別のことをやった場合に得られたはずの満足度(例えば家で漫画を読むことなどの嬉しさ)を加えたもの(=労働の機会費用)を金銭で評価します。
 具体的には、1時間働くことの機会費用が800円相当、また2 倍の2時間働いた場合の機会費用は2000円相当と換算。経済学では、労働の機会費用はこのように逓増する形だと仮定されることが多いです。そしてこのような設定は、多くの人にとって実感と一致するものだと思います。なぜなら労働時間が長くなると加速度的に疲労が増すだろうし、他のことに時間を使えなくなるダメージも大きなものになるからです。
 さてXさんが自分で何時間働くのかを自由に決められるケースを想定すると、時給が1000円のときに何時間働くでしょうか。このように考えると、より長時間働くことのモチベーションは何かというと、賃金が高いことだと言えます。

なぜ真面目に働くのか

 金銭的報酬を受けるにあたり、労働者が高い成果を上げたとしても、それが努力したからなのか、それともサボっていたのに運が良かったのかを企業側が区別できないという状況も考えられます。また反対に、 悪い結果がサボっていたからなのか、頑張ったのに運が悪かったからなのかを区別できないこともあるでしょう。
 このように努力の有無といった特定の情報を、 契約当事者の一方は知っているが他方は知らない状況を指して、経済学では「情報の非対称がある」と言います。また努力水準のように、一方の当事者が契約後に選択する行動に関しての情報に非対称がある状況を指して、モラルハザードと言います。モラルハザードの状況では、努力水準に依存させる形での契約を書くことはできません。
 そのために努力水準と不確実性の両者の影響を受けて決まる成果に依存させる形での契約が用いられることになります。そして企業が労働者に対して適切な努力水準を選択させるためには、雇用契約がインセン ティブ制約を満たさなければなりません。このインセンティブ制約とは、努力した場合とサボった場合とで平均的に受け取ることができる報酬に十分な差がなければ、適切な努力が行われないという考え方のことです。努力とサボるの差を金銭的報酬で明確に示すことで真面目に働くということになります。

金銭的報酬による刺激には上限がある

 金銭的報酬には次第に効果が薄れてしまうという意味での問題も存在します。例えば、所得水準と幸福や人生の充実度の関係を調査することで、所得が7万5000ドルまでは所得が増えると幸福度も増すのに対して、それよりも高所得の場合には関係がなくなることが明らかにされています。
 このように金銭的報酬が生活の満足度に与える効果に上限があるとき、その水準を超えて、さらにモチベーションを引き出すためには他の非金銭的なやりがいを与えることが必要となります。
 世論調査でも働くことのモチベーショ ンとして「生きがいをみつけるために働く」という回答が特に高年齢者になるほど多かったが、これは高齢者の方が生活できる水準の賃金を得ていたり、また資産があったりする可能性が高いことあると言えそうです。


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