【短編】タコイカ貝議
「『タコ殴り』という言葉があるなら『イカ蹴り』という言葉があってもいいはずだ。」
イカは不満そうな顔でタコに言った。
「そんなにも美しい流線型に生まれたのにも関わらず、なんて愚かな。」とタコは少し呆れながら答えた。
「そもそも、これは良い言葉ではありませんよ。なぜそんなにも執着するのですか。」
「タコにだけ言葉が与えられてるのがずるい。」
「我々にはそれぞれ役割がある。決まっているのです。どちらも役割を全うしなければ。自分の役割を理解もできていないくせに、権利だけ要求するなど言語道断です。」
そう言われたイカは不満そうに頬を膨らませたが、タコの膨らみ具合には遠く及ばなかった。
「とにかく羨ましい。」
イカがそのようにいうとタコはまた呆れ、うなだれた。タコには骨がないので、項垂れたタコはまるでスライムのようにぐにゃぐにゃだった。
「その態度はなんだ!おちょくってるのか?」
「あなたと違って骨がないから力が抜けたらこうなるのです!」
「今はイカの未来と権利に関する大事な話をしているのに力も入れていられないのか!なんて態度だ!」
ますますイカは激昂し、顔を真っ赤に染めたが、またもやタコのそれには遠く及ばなかった。
タコは呆れ、イカは怒る。
ほとんど同じようなものなのに。貝はその様子を見ながら、こんな奴らに食べられた仲間たちのことを哀れに思った。
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