やめておけば、よかった10
10 君に新しい未来を
「初めまして、私はカッコウの家の篠原って言います。あなたがレイくんね?」
出会った時と同じように、薄暗い階段に座り込んだレイくんに声を掛けた。初対面の人に怯えているみたいに感じたが、すぐに打ち解けたように見えた。
保護の流れに父親との親権喪失請求など、しないといけないことが沢山あると教えてくれた。けどどれも現実的じゃなくて、いまいち実感がない。特に私は自分自身の事じゃないから。でも、彼との別れが近づいてることだけは寂しく感じる。
本の数日前にここで出会って、千円を強請られて。今思えば変な関係。
少し離れたところで待っていると、レイくんがこっちに向かって歩いてきた。
「大丈夫?話、難しくない?」
「何となくは分かる。父さんから離れる為に、色々してくれるって。俺がどんなに頑張っても出来なかったことを、こんなにアッサリ…ちょっと変な気分」
それは仕方ない。私にはスマホというって便利な武器があるけど、君にはなかった。武器と知識と差し伸べる人がいたら、きっと君でも出来たよ。何にせよレイくんに明るい未来が待っているなら良かった。
喜ばしいことなのに、彼は少し複雑な表情で真っ直ぐに私を見てくれない。何で?最後かもしれないんだから、その綺麗な顔を見せてよ。
「…いや、昨日のことがあったから、もう会ってくれないかと思った」
「あぁ、それね。あれは良くないことだから、人にしたらダメだよ」
首絞めなんて、された方は驚いて引くわ。
君は今まで当たり前を知らないで生きてきたんだ。これからは好きな子と、手を繋いだり、キスをしたり、たくさんの楽しいを作ればいい。
「あの時、レイくんが顔を殴られても手に出来なかった皺だらけの千円…。君はこれからたくさんのお金を稼げるようになるから」
手を添えて、ゆっくりを指を撫でた。傷だらけで細い。けどこれからは大丈夫。
「けど、真っ直ぐに生きて。悪いことはしたらダメ。悪いことをしたら因果応報で罰が下るよ」
「いんがおうほう?」
そう、君のお父さんや私や藤原みたいなこと。私も結局、自主退職することに決めた。スマホの連絡先も変えて、引っ越しもして、心機一転で頑張ろうと決めていた。
「君を助けられて良かったよ」
「こちらこそありがとう…。俺…あの時声を掛けたのが佐藤さんで良かったよ」
最後に嬉しそうに笑って…。あぁ、それだよ、それ。やっぱ美青年にはその笑顔が似合う。そして篠原さんとレイくんとサヨナラをして、私は家に向かって歩き出した。
清々しい気分……グッと背伸びをして夜の町を歩き出した。シャッター街の寂れた商店街。煙草の吸殻がそこらへんに転がっている薄汚れた町。
バイバイ、私の好きだった町。
バイバイ、傷だらけの美青年…。
もう私には何も残っていないけど、それはそれで気持ちがいいもんだ。次こそは良い男と出会って、僅かな希望と夢のために歩きたい。
……end.
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