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サッカーの構造:2024 J1 第30節 アルビレックス新潟×湘南ベルマーレ

ビッグスワンで圧倒的なスタイルと強さと見事な勝利を見せてくれた俺たちの新潟。ルヴァンもリーグも残り負けなしで走りきれそうな予感さえする強さと美しさを兼ね備えたサッカーをしている。誇らしい。

対戦相手である湘南は532プレスというあまり見かけない守備をする印象があって以前書いたことがあるのだが、この試合の前半序盤は532ブロックを敷いて対応してくることになる。

湘南の基本フォーメーションはいわゆる3バックと呼ばれるもので、攻撃時は3バック、守備時は5バックと表現される。俺たちの新潟は突発的な何かが無ければ昔も今も4バックである。

サッカー中継の解説やSNSで噛み合わせとか構造とかいうキーワードが出てくる頻度はそこそこあると思うが、4バックと3バックの対戦だとこのキーワードで語ることが多くなるのもまた事実。

そういった「構造」という視点でこの試合を記録しておこうと思う。

サッカーにおける構造というキーワード

サッカーにおける構造というキーワード、実はなかなかに厄介である。というのも構造というキーワードが戦術盤の上の噛み合わせの絵で語られることもあればピッチの中で絶えず繰り広げられる4局面の話で語られることもあるからだ。ちなみに4局面とは「保持(攻撃)、ネガティブトランジション(攻撃→守備)、非保持(守備)、ポジティブトランジション(守→攻)」のことであり、サッカーというゲームを成り立たせる要素のことでもある。

更にに加えてどの状態でもないルーズボールというのもあり、カタールW杯ではルーズボールの割合も割り出したがその後のサッカー中継で定着することはなかった。長すぎるアディショナルタイムも含めてあれは一体なんだったんだろうか。

とりあえず盤面での話を見てみよう。理屈で言えばこうなるというだけの話なので常にこういう形になっているわけではない。新潟攻撃時(保持)の盤面は秋山が最終ラインに落ちてボールを捌く役割となっている。

新潟攻撃時における湘南の532ブロック守備

この形であればボールを中央に通すことはできず、ボールを出せる場所はサイドの低い位置だけとなる。単純化すれば新潟保持のボールは湘南の網を潜り抜けることはできない陣形になり、サイドにボールを動かしてからタッチライン際で追い込み漁の網に引っ掛けるという守備を敷くのが湘南のサッカーである。

サイドに追い込んで複数人で刈り取る湘南の守備

とはいえ、湘南はこの形でボールを奪ったとしても前方にはルキアン一人に対して秋山とセンターバック二人である。結果として非保持→ポジトラの繋がりにはならない。

湘南のサッカーを見続けているわけではないので湘南の攻撃の形がどういうものかは特に語れないのだが、この試合では非保持からボールを奪ったとしてもポジトラに繋げることができていない湘南だった。これはこれでポジトラに繋げられないという構造的欠陥(ボールを奪っても攻撃に転じられない)みたいな表現にすることもできる。

一方の新潟は532ブロックの仕組みを逆手に取ってピッチ中央に長い縦パスを何度も通すことに成功する。縦パスを通すのは大学生特別指定の稲村である。まだ正式にプロになっていないのに本当に色々おかしい稲村のパフォーマンス。

湘南の532ブロックの2列目は横一直線に並ぶのではなく弧を描くように並んでいたので新潟のサイドを高い位置から牽制する狙いがあったのだろう。その陣形で配置した場合、二列目中央のアンカー田中の周りにスペースが生まれることになる。湘南の意図としてはサイドを牽制しつつ中央を塞げばボールの出しどころが無くなるといったところだろう。

しかしながらセンターバックでボールを持っていたのは稲村であり、僅かな隙間があればピンポイントでグラウンダーの縦パスをズバズバ通してしまう。湘南からしたらこれは予想外というか予想を超える状況を目の当たりにしたというところではないだろうか。

湘南の守備の構造を見極めて配置と個人のスキルで破壊した見事な新潟式フットボールである。監督選手コメントを読むとスカウティングの成果らしいのだが、それを遂行できる稲村の技術と小野や長倉との滑らかな連携が本当に素晴らしい。

パス通されたらヤバいけどそこに通ることはないだろうという状況でしっかりとパスを通す稲村

湘南の532ブロックが緩かった訳ではなく、「そこに通されたらピンチだけどまさか狙わないよね?狙ってミスしたら中央レーンで刈り取ってショートカウンターという非保持→ポジトラ→保持→決定機の4局面基本構造が発動できるしね!」というのが湘南の考え方だったのではないだろうか。

従って、湘南としてもリスクはあるがそれを上回るリターンもあるという守備の構造で挑んでいたのだろう。しかしながら稲村&長倉である。湘南守備の構造的リスク&リターンをはるかに上回るリスク&リターンでずっと保持の状態を続けていたし、なんなら4局面という構造を無視して前半ずっと保持し続けていた俺たちの新潟。保持こそが新潟のサッカーである。

4バックと3バックの対戦で生まれる構造

当たり前のようにスーパープレイをサクサクやってしまう稲村がどのチームでも見れる訳ではないので4バックと3バックの対戦で頻発する構造的欠陥についても触れておこう。

前半6:30のシーン、湘南はゴールキックから思いっきり蹴飛ばして全員で攻撃を仕掛けようと目論むがボールは稲村があっさり弾き返して長倉の足元へ。

この時、湘南のウィングバックは攻撃参加で高い位置に上がっているので守備に戻ることができず、結果として誰もいないサイド深い位置に谷口が走り込んでガラ空きのスペースでボールを受けるという形となる。その後はゴールこそ決まらなかったが新潟の決定機となったシーン。

湘南保持でウィングバックが上がるとサイド深い位置に広大なスペースが生まれる

これは4バックと3バックの対戦で非常に多く発生する形だし、4バック側としては当然この形を狙いに来るし、3バック側はこの形にならないようにウィングバックの上がるタイミングを入念に設計したりする。

まさに「ウィングバックが戻れない時の3バック守備はサイドが薄い」という構造的欠陥を突く4バック側の攻撃だし、新潟視点で言えば「非保持→ポジトラ→保持→決定機」というサッカー4局面の基本的構造を愚直に遂行したシーンでもある。

ちなみに、このサッカー4局面の基本的構造を高速で回すといわゆるカウンターと呼ばれるものになり、モダンフットボールでは擬似カウンターとか誘引カウンターと呼ばれる流行の戦術になっていたりもする。高い位置からマンツーマンプレスしてくる相手に対して新潟が良くやる形でもある。

SNSなんかで良く聞く「構造」というキーワード、サッカー4局面の話とフォーメーションの噛み合わせの話が混ざってイマイチ良くわからない感じになってしまうのだが、炎タイプのポケモンは水タイプや地面タイプのポケモンに弱いがダブルバトルで隣に草タイプを置いておけば駆け引きが成り立つみたいな話である。更にわからない話になっているんだが稲村をポケモンに例えたらゴリランダーである。なんでもできる強くて凄い奴。マジで稲村が凄すぎて稲村の縦パスはグラススライダーと呼ぶしかない。

試合雑感

太田復帰戦。谷口が右というのも考えにくいので太田は右での爆走となることだろう。

湘南はこの試合もおそらく532プレスという少々特殊な守備をしてくるはず。川井監督時代の鳥栖のファイヤープレスとか湘南の532プレスなんかの捨て身プレスに勝てない印象がある俺たちの新潟なのだが、今日は新潟のサッカーでコロコロ転がしてもらいたい。マリノスとか福岡とか町田とかのプレスには対応できるんだが湘南みたいな守備にはなんか慌てたり急いだりしてしまうところがあるのだが今日はキチンと勝てるところを見せてもらいたい。

前半終了した感想。これは強すぎる俺たちの新潟。福岡戦の時のような圧倒的な強さを見せていて湘南が実質何もできていない。

湘南の守備はスタート時532ミドルブロックで新潟左サイドに誘導して絡め取るということをやっていたが12分以降はいつものプレスで突っ込んできてくれた。10分くらいで先制されたから切り替えたのか最初から15分くらい経ったらプレスに切り替えというものだったのかはわからないがブロックからプレスに切り替わったのは間違いない。

湘南プレスがどこかで発動するであろうことは当然予習済みなので全員の心とボールを繋ぎまくる新潟である。稲村からの中央差し込みがエグい。飲水タイム後は太田にボールが入る回数も増えてDAZNのハームタイム集計だけ見れば右サイドからのアタックが多かったという結果に。

特筆するとしたら橋本→長倉のゴールが完璧すぎた。橋本の斜め楔はこの夏最高のピンポイント補強となっているのだが、後半は橋本アーリークロスからのゴールも生まれてほしい。

あとは新潟の守備。今日もゴール前守備が超集中できていて怖いのはルキアンへの放り込みくらいだろうかとか思っていたら前半終了間際にスクランブル交代で出てきた畑がやっぱり凄い。後半は畑をどう抑えるかというのも見どころになってくる。

これはスタイル全開で強い新潟のサッカーである。

後半の展開、失点シーン以外は湘南に何もさせなかったと言いたいところではあるのだが湘南右サイドからポケット侵入されまくりなのはどういう仕組みなのか改めて確認してみたい。湘南が何か上手い仕組みで攻略しているのか新潟の守備の不備なのかリアルタイムで見ていても良くわからなかった。たぶん両方なんだと思う。

何度も訪れた決定機は決めないといけないのだが谷口の3点目は完璧すぎる谷口だったし稲村のキックも凄すぎた。パーフェクトゴールとして認定するしかない。谷口はJ3/J2/J1すべてのカテゴリーで2桁得点した唯一の日本人選手なのか。日本人じゃないとしたらもしかしてレオナルドとかなんだろうか。たぶんレオナルドだと思う。新潟在籍時にJ2で28ゴールとか本当にどうかしてたな。

なお、ルキアンの報復は試合の後味を悪くしてくれた一方で畑が本当にすごくて素晴らしいフットボーラーだ。今後のキャリアで成功してほしい。

この試合の新潟はバルサが中位下位相手にやっている試合を見ているようだった。このままルヴァンも含めて残り全部勝てるんじゃないだろうかとさえ思えてきた。これは強い。


「これでわかった!サッカーのしくみ」をコンセプトにアルビレックス新潟の試合雑感を中心に書いています。