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コンドゥクシオン:2023 J1 第5節 浦和レッズ×アルビレックス新潟

戦術と戦術が噛み合ったナイスゲームだった前半。本当にもったいない2失点だったが耐えきれないのは今の新潟の限界でもある。

後半は本当に酷い試合運びであんまり思い出したくないというのが正直なところ。サリーダした島田が悪いのか、上がりすぎの星が悪いのか、そうなるように仕向けた浦和がいるのか、後半の状況は意図的に発生させたものなのかなどなど考察ばかりがグルグル頭の中を回ってしまう。

駒場の浦和に勝てたとは言わないけど間違いなく新潟のサッカーは戦えてるという実感はある。あとは経験値貯めて試合運びを洗練させていくしかないのでしょう。

コンドゥクシオンとは

この試合で光ったプレイの解説をしてみようと思う。コンドゥクシオン(Conducción)という本間至恩みたいな名前のプレイだが、俺たちのトーマス・デンと舞行龍ジェームズ、浦和のショルツなど両チームのセンターバックが幾度となく効果的に繰り返していた。

コンドゥクシオン。ドリブルで前進するプレイのことがそう呼ばれており、センターバックが後方から運ぶドリブルのことを指すことが多い。ちなみに一般的なドリブルのイメージであるだろう仕掛けたり抜いたりするドリブルはレガテ(Regate)と呼ばれている。両方ともスペイン語。科学の超電導はスーペルコンドゥクシオン(superconducción)と言ったりする豆知識。

では、実際のプレイで確認していこう。コンドゥクシオンには「運ぶ」「引きつける」「割る」の3種類が存在する。

前進するコンドゥクシオン

前半5:30のシーン。ボールを自陣で回収して小島に預けてビルドアップをスタートする新潟。小島が中央の島田にボールを預けて左ハーフスペースに陣取るデンにボールを預ける。

この時点で島田が浦和のフォワード2人をピン留めして外せているで、ここからデンはドリブルでピッチ1/3ほどを持ち上がる。それに連動して中盤と前線も押し上げて高い位置を取り、最後は右サイドバックの新井がアーリークロスでチャンスメイクを狙うという形を作る。

デンがドリブルで運ぶことにより全体を押し上げる効果が発動したシーンとなるが、この流れで三戸→伊藤と経由して右サイド大外を爆上がりしてくる新井にボールを渡してアーリークロスという良い形が生まれた。

センターバックのトーマス・デンがボールを運ぶことでボールを保持したまま全体を押し上げることができる。

前半7:00のシーン。マイケルが右ハーフスペースでボールを受けるとスルスル10mほど持ち上がってから鈴木孝司に楔のパスを出す。

パスは距離が短ければ短いほど正確性が上がるのは言うまでもない。確実性の高い正確なパスをアタッカーに預けることができれば決定機創出に繋がりやすい。

確実に通せる距離まで運んでからパスを出すマイケル。より確実に機会を作るために必要なドリブル。

前半12:30のシーン。小島からフリーでボールを預かるマイケルは迷いなく縦にドリブルスタート。途中で後ろから寄せてくる大久保の気配を感じたのかロングフィードを蹴るモーションをちょっとだけ入れながら大久保の動きを操ってさらに前進する。

最終的にはペナルティエリアからハーフウェイラインまで約40mを一人で運んでからハーフスペースに陣取る太田に優しくボールを預ける。運ぶコンドゥクシオンことConducción para progresar(プログレサール)である。

これ以上ない低リスクな状況でアタッカーへ、しかも比較的高い位置のハーフスペースでアタッカーに預けることができた地味ながら効果的なプレイとなる。

この状況となれば当然相手陣内には新潟の選手が多く配置されている攻撃モード。その後は2分以上新潟が波状攻撃を仕掛ける良い展開となる。

自陣深くからドリブルで持ち上がるマイケル。並走する大久保は追いつくことができない。低リスクな状況でアタッカーにボールを確実に預けることができる。

前半16:35のシーン。ショルツがボールを持つと三戸がプレスに来ないことを確認してからハーフスペースでドリブルスタート。寄せてくる三戸からボールを隠す体の使い方でハーフウェイラインまで持ち上げてから右サイド大外に上がっている酒井宏樹へ預けて決定機を狙う。

442ブロックの1列目スペースをドリブルで持ち上がって浦和のストロングである酒井宏樹にボールを預けるショルツ。三戸が後から走っても追いつけない。

前半21:30のシーン。最後方フリーでボールを受けたショルツは涼太郎からプレスを受けてもボールを奪われない体の使い方とスピードコントロールでボールを上手く隠してハーフウェイラインまでの40mを運ぶコンドゥクシオンことConducción para progresar(プログレサール)で一人持ち上がる。

なぜか追いつけない涼太郎なのだが、追いつけないというよりはアタックできない状況を作り出しているショルツの凄さである。下手にアタックをしようものなら切り返されるか急停止でドフリーの状態になってしまうのではないだろうか。そういう雰囲気を緩急つけで出すショルツ。

このショルツの持ち上がりを起点に新潟陣内で押し込み続ける浦和。両チームともコンドゥクシオンから押し込む時間を作るというセンターバックの個人戦術にスポットライトを当てたくなるナイスゲーム。

前方にスペースがあればドリブルで持ち上がるのがファーストチョイスなショルツ。伊藤涼太郎が体を寄せても奪うことができない。

前半40:35のシーン。新潟陣内で押し込む浦和、ショルツがボールを受けるとハーフウェイラインからペナルティエリア手前まで新潟のブロックの外側の轍に沿うようにドリブルでモリモリ運び出す。

ペナルティエリア手前では関根らとのコンビネーションでボールを動かし、決定機がなければ自ら後ろに戻してやり直しをする。これが年棒1億円プレイヤーのクオリティかと唸らずにはいられない。

押し込んだ状態において前線まで持ち上がり、ピン留めや裏抜けなど複数の局所的優位を作り出すショルツ。

引きつけるコンドゥクシオン

前半9:25のシーン。最初のシーンと同じ形でボールを預かったデンは小刻みなタッチで浦和大久保をギリギリまで引きつけておいてから中央レーンにフリーで構える島田へボールを渡す。

大久保がデンに寄せないとそのままデンを爆上げさせてしまうので寄せるしかない大久保。寄せると中央で島田がフリーで浮くという二択を押し付けることができるコンドゥクシオン。

一人の動きだけで数的優位を作り出すコンドゥクシオン。引きつけるコンドゥクシオンことConducción para fijar(フィファール)である。そして、この直後に炸裂した太田のニア上ブチ抜きのゴラッソ。最高。

トーマス・デンが持ち上がることで生まれる中央島田のスペース。この流れから見事なゲットゴールとなる。

前半15:00のシーン。これはコンドゥクシオンというよりはレガテになるのだが、浦和のパスミスをデンが中盤で拾うとダブルタッチとボディフェイントを繰り出して浦和の守備を3人抜き去ってからセンターサークルの支配者こと伊藤涼太郎へボールを預ける。前向きフリーで受けた涼太郎がタクトを振って以降1分半はずっと新潟のターン。

いやこれマジで神プレイなのだが公式は動画切り抜きでアップしてくれないだろうか。凄すぎるので絵を描いても凄さが伝わらない。

割るコンドゥクシオン

前半18:45のシーン。デンがコンドゥクシオンのお手本みたいなプレイを披露する。

最終ラインに落ちた星からボールを預かったデンは垂直方向からアタックしてくる興梠のベクトルを外して縦にドリブルで抜け出す。ベクトルを外されて追いつけない興梠を振り切りながら20mの長さをドリブルで運んで大外の三戸にボールを繋ぐ。

このプレイで浦和のグリッドを大きく歪ませることができたので、三戸がボールを後ろに戻さずパス&ゴーしているデンにワンツーで返しておけば違う結果もあったのではないかと思うほどのプレイ。デンが一人で浦和の守備を破壊しかけた圧巻のプレイである。

この日の浦和は442のブロックだったのでわかりやすい形にはならなかったが、これは割るコンドゥクシオンことConducción para dividir(ディビディール)となる。

このプレイが成功するとピッチ全体で圧倒的な数的優位を作り出すことが可能で、相手の守備が433だったりするとセンターバック一人で相手守備3人を一気に置き去りにすることができる。個人的に一番気持ちいいのは割るコンドゥクシオンだったりする。

守備ラインを割るコンドゥクシオン。守備が433ブロックなら一気に3人を置き去りにして盤面上で数的優位を作ることができる。

一見わかりにくいが非常に効果的な個人戦術であるコンドゥクシオン。少年サッカーからキッチリ教えなくてはいけないコンドゥクシオン。

コンドゥクシオンを意識しながら観戦すると新潟のサッカーがより面白くなるはずです。

試合雑感

ターンオーバーかと思うほどの布陣でヤン藤原不在な俺たちの新潟。

浦和の守備は442のはずなのでシステムの噛み合わせだけならセレッソ戦と同じ展開を作れるが浦和は個人の質が高いので質的優位を数的優位や位置的優位で攻略できるか?という試合なる予感。広島札幌のようなマンマークは無いはず。

川崎戦ではレイオフと自陣のサイドでオーバーロードを発生させて中央にボールを逃してからのカウンターという形が多く刺さったけど浦和がどこまで前に出てボールを奪いに来てくれるか、新潟は自陣サイドてオーバーロードを発生させてパスを繋いでセンターサークルの伊藤にボールを逃して太田で爆走が嵌るだろうかとか思っていたらこじ開けられて2失点。辛い。

がしかし、サッカーというゲームとしては非常に良質な試合。浦和は選手の質も高くて組織として非常にロジカルで良いサッカーをしている。これは強い。

試合の特徴としては自陣左サイド奥でオーバーロード(密集)を発生させて中央に空いたスペースへボールを逃すという川崎戦と同じ仕組みを使っているが、浦和はボールを逃した先で奪い切るアタックをしてくる。涼太郎にボールが渡るか浦和が潰すかというバトルポイント。この方法を確実に遂行する泰基の成長が嬉しい限り。基本的に自陣オーバーロードなので今日は鈴木孝司が完全空気。

そして注目は両チームのキーパーとセンターバック、小島と西川、デンとショルツ。

これぞモダンサッカーというキーパーとセンターバック。キーパーはキックの精度が高すぎるしセンターバックはファーストチョイスがドリブルで前進。キーパーのキックは低くて速くて美しいし、センターバックの持ち上がりは守備のグリッドを歪ませる。

良いモダンサッカーとして噛み合っていてサッカーファンとしてメチャクチャ楽しかったのにどうしてこうなった酷い後半。星が本当に酷くて一人で新潟の配置を壊してしまった。

島田がサリーダで落ちてボールを扱うので星はボランチで受けなきゃいけないのに本人が好きなのか高い位置から動かないので繋げない。

星が島田の近くにいないので島田からのパスコースの選択肢が減り、それは浦和に守備をやりやすくすることでもある。中央かサイドか悩まずにサイドだけ潰しに行けばOKな浦和。簡単なお仕事です。サイドにボールが出たとしても高い位置に星がいるとトライアングルが作れずに縦しか出しどころがないし、星と涼太郎と被って渋滞発生。

途中から涼太郎が落ちて受けるをやりはじめたけど時すでに遅し。守備も空回りというクオリティの星。

陣平を出さずに星が最後までいたことを考えると何らかの信頼があったのだとは思うが、いやこれ弁明出来ないレベルでは?という星。

今日の三戸は明らかに積極性に欠けていて、いつもなら振り抜いているシーンで何もせずにターンエンドという場面が多数。意図的なものなのかどうかは知らないがU22代表ではノリノリでプレイしてほしい。と思ったら怪我で帰国。どうして!

まぁ、三戸のパワーダウン感はJ1とJ2の強度の違いでしかないのでこの壁を破れば一気に伸びるはず。怪我が大きくないことを祈る。

なんか星のプレイが本当に納得いかないので記録しておく。

ボランチだけど高い位置を取る星。

島田星のユニットの星はヤン島田ユニットの島田よりもかなり高い配置を取る。これが星の特徴だしストロングでもあるのだが、ボールは引き出しにくくなる。

特に後半のビルド3人体制(島田サリーダ)を敷いた時にボールを引き出すアイデアに乏しく、涼太郎が単品で落ちて受けるということをするしかない状況を引き起こす。

せめて涼太郎と連動してパスコースを増やすなどのアイデアが欲しかったのだが、星は前線に陣取りがちでなので中央レーンでボールを動かせない。結果としてマイケルデン新井泰基に預けるしかなくなり酒井明本に質で負けてボールロストです。

星にはこんな感じでボールを引き出すアイデアが欲しかった。

自分のやりたいこと優先でチームを機能させる行動が取れていなかったという評価をせざるを得ない星。星は攻め上がって涼太郎にビルド兼中央からギア上げということだった可能性はあるかもしれないし事実どうだったのかはピッチの選手にしか知らないことなので想像考察でしかないが、星が利己的に上がりすぎた結果の機能不全。

まぁ星だけが悪かった訳ではないのだが、ヤン秋山藤原ゴメスはビルドアップのアイデアが豊富なんだなと実感した試合となった。

セレッソ戦や川崎戦と同じことをやれば良かったのに上がりたがる星雄次です。島田はヤンの役割としてクオリティが出せず、星は島田の役割を遂行出来なかった。遂行しない理由が上がることがストロングという星の特徴で、それらが全部マイナス方向に働いてしまった。うまく嵌れば爆発したんだろうか。リードしていればボールを奪いに行く必要がないのでブロックセットしてればOKで、だからこそ442ブロックを破壊することに最適な新潟式ビルドアップが有効だったはずなのにやらなかったし出来なかった。

島田が落ちたのが悪いのか、星が上がりがちなのが悪かったのか、浦和がそうなるような試合運びをしたのか、単純に戦術遂行出来るスペックが無かったのか。

要因はひとつでは無く複数が絡んで結果的にうまく行かなかったというだけなんだろうけど、そんな状況でも大崩れしなかったのはポジティブな要素として捉えておきたい。

秋山がいれば違っただろうし、去年の水戸戦の陣平も落ち気味だったので、ヤンや秋山が当たり前のようにやっている位置取りは難易度が高いんだろうなと思う。ガチのサッカー経験無いのでテキトーなこと言ってるけど。

秋山も去年満を持して出場した時は散々でしたのでそういうことなのでしょう。

おしまい。

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hitoshi
「これでわかった!サッカーのしくみ」をコンセプトにアルビレックス新潟の試合雑感を中心に書いています。