真夏の長倉祭り(長倉幹樹):2023 J1 第24節 アビスパ福岡×アルビレックス新潟
ミキティィィィィ!!!!!!!
夏の移籍でやってきた長倉が凄すぎる。去年夏まで関東一部リーグ(実質5部リーグ)にいたというのがおかしいし、Jに連れてきた恩師大槻組長が偉すぎる。いやいや、こういう逸材がどこかに眠ってるのは本当に面白い。とにかくスタッツが圧倒的な長倉。
長倉にとって新潟はキャリアの通過点にしかならないと思うのだが、このスペシャルなフットボーラーの活躍を記録に残しておきたい。
この試合、福岡戦のボールタッチを確認してみよう。
基本的なタスクは偽9番
長倉の基本的なタスクは偽9番となる。落ちて受けて守備を動かしながらボールを捌く。
前半3:00のシーン。センターサークル手前まで落ちてきてボールを受ける長倉。そのままボールをキープすると守備のプレスに全く動じずにドリブルで動きながらキープして後ろから上がってくる秋山に優しく預ける。寄せられてもボールを失わない長倉が凄い。
前半17:30には屈強な福岡の442ブロックの前にビルドアップできない新潟というシーンだったが、長倉は新潟の教科書通りにセンターサークルまで落ちてきてボランチの位置でマイケルからボールを引き出す。
この時、長倉を慌てて捕まえに追いかけてきたボランチ井手口の存在があったのだが、井手口をここまで飛び出させることができればブロックに隙間も生まれるというものだろう。
試合を通して落ちて受けて守備を揺さぶって、というのが基本の動きになってくる長倉。孝司が2人に増えたようなものでこれは助かる孝司の兄貴。後半80:00のシーンでは長倉と孝司の両方がハーフウェイラインまで落ちてきて長倉が受けてフリックしたボールを孝司がレイオフしてという超絶オシャレ偽9番プレイを披露する。ダブル偽9番。
背後から奪うステルスタックル
長倉の守備にも注目しておきたい。長倉の守備はガッツリ当たりにいくファイタータックルではなく、相手の死角から忍び寄ってサクッと奪うステルスタックルになる。
前半4:10のシーン。福岡がポジティブ・トランジションで攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、ボールホルダーの後ろ死角から猛然とダッシュしてそのまま奪ってしまう長倉が凄い。後ろからなのにクリーンなタックルでジャッジも文句なしのノーファウル。
似たようなシーンとして前半14:25に新潟ペナルティエリア前中央で横からのボールを受ける井手口に対して後ろからステルスタックルを狙う長倉。前半24:25にもステルスな動きで井手口の出すパスをインターセプトしようと試みる。後半70:55には最前線でスライディングタックルをかましてボールを奪ってカウンター発動というダイナミックな守備も見せてくれたというか自分で吹っ飛ばしたボールに超スピードで追いついて奪い切るという桜木花道みたいなことする長倉のアスリート能力が高すぎる。
こういった奪い方を常に狙っている長倉なので観戦時には是非チェックしてもらいたいし、この動きが長倉の走行距離に影響しているだろうし、それを試合終了まで繰り返せるスタミナお化けの長倉なのである。
スペースハンターとしての長倉
長倉の最たる特徴はスペースの見つけ方と使い方になるだろう。この能力がとにかく凄い長倉である。
前半9:20のシーン。ゆっくりと後方でボールを回して隙を窺う俺たちの新潟、攻撃のスイッチとして30mのインサイドキックを蹴り込むマイケル。その先には福岡442ブロックのグリッドの隙間となっていたハーフスペースで待機していた長倉がいた。マイケルから出るボールを横向きで受けることで守備を背負う形を作りボールを絶対失わないという体の使い方をする長倉が凄い。後ろに目が付いているのか?というくらいに守備をいなしてボールをキープする長倉である。
前半17:50のシーン。相手陣内まで押し込んで左サイドの新井がボールを持つとゴール前中央にスタンバイする長倉。福岡サイドバックの湯澤が新井にアタックに行った際に死角となる背後をダイアゴナル(斜め)に抜けてスペースへパスを出すようにめっちゃアピールする長倉。
長倉が指差した先には美味しそうなスペースが広がっており、ここに飛び込んでしまえば福岡センターバックの奈良は持ち場を離れる訳にいかないので守備ステイ確定となり、長倉には一番近くにいるサイドハーフの佐藤凌我がスクランブル的にアタックせざるを得なくなる。
こうなってしまえば佐藤が空けたポジションにスペースが生まれるのでそこに誰かが飛び込んで… とゴール前で守備をずらしてゴール期待値を上げることができる。名古屋戦でデンがサイドに釣り出されて失点したのは記憶に新しい。このシーンでは特に何も起きなかったがこういう形を作るためのスペースを見つけて使うのが本当に上手い長倉なのである。
前半18:00のシーン。ペナルティエリア内でボールを受けて眼前には守備3人が立ち塞がっているが果敢にドリブルを仕掛ける長倉。
強気に突破しとけば抜けるかPKか引っ掛かっても味方がセカンドボール拾ってくれるだろうという信頼とか、そういうの全部ひっくるめてドリブル仕掛けとけ!という強気の判断だったのだろう。これが最高の結果をもたらすこととなる。
スペースを見つけてダイアゴナルに走ったオフ・ザ・ボールをトリガーに守備をメタメタに崩してのゴールという長倉が全てを支配した衝撃のゴールは巧のゴールシーンでもある。長谷川巧のゴールである。只今のゴールはアルビレックス新潟背番号32番長谷川巧のゴールである。バリヤバイ!
後半45:25のシーン。藤原&巧とのトライアングル形成からハーフスペースでボールを受ける長倉。巧のダイレクトパスが見事すぎてボールへ向かって飛び出すドウグラスとドウグラスの突っ込みを目視確認してトラップ一発で縦に抜ける長倉。圧巻すぎる。
そのまま余裕のフリーでクロスを上げるが孝司と僅かに高さが合わず。とはいえ、ゴール期待値爆上がりの形をワンプレイで創出した長倉が凄い。
後半60:30には左サイドで同じくトラップ一発で守備を外してスペース目掛けて仕掛けるというシーンもあったりする。こういうのを空間把握能力が高いと表現するんだろうか。スペースを見つけるのが本当に上手い長倉。
アタッカーとしての長倉
長倉はアタッカーとしての能力も非常に高い。ドリブルとランニングが素晴らしく仕掛けられるアタッカーとしての価値は高い。加えて、数手先を読む能力にも長けており、長倉がパスを出す際、それはゴールから逆算されたものであるというシーンは多い。長倉の存在は新潟アタッカー陣の序列が一気に変わってしまうこと必至である。
前半19:55のシーン。長倉祭りが止まらない。
ルーズボールの跳ね返しを胸トラップすると寄せてくる井手口の具合をターンしながらチラリと目視確認して一気にスピードを上げてドリブル突破してしまう。その勢いのままに最終ラインの守備2人もぶっちぎってサイドからペナルティエリア内に侵入してゴール期待値爆上がりというプレイを見せつけてくれた。完全に三笘じゃねぇか!
前半27:40のシーン。左サイドタッチライン際から繰り出される新井の縦パスをダイアゴナルに走りながら受けて三戸にフリック。この流れから孝司のクロスに合わせて中央にスタンバイする長倉。フィニッシュから逆算して起点となる行動を取る長倉が凄い。5秒後の世界を見ることができるスタンド能力とか持ってるんじゃないだろうか。
前半41:35のシーンでは泰基の差し込んだ縦パスをピッチ中央で受けると周りの状況を把握してから右サイドを駆け上がる新井へのパスを選択する長倉。パスを出したあとはスルスルと中央を駆け上がり、新井のグラウンダークロスをペナルティエリア前中央で受けるとそのままドリブル突破にチャレンジする。
結果としてはドウグラスに止められてしまうが審判と状況次第ではPKゲットとなってもおかしくない場面を創出してくれた。転げてもすぐに立ち上がってクロスに備えてゴール前に陣取る長倉が頼もしい。味方との連動が強くイメージできているからこそ可能となるプレイだが、長倉の3手先4手先を読む能力はかなり高いレベルにある。
後半46:15には全新潟歓喜の瞬間が訪れたかと思われた。
スペースが埋まっていて他に選択肢が無いなら自分で撃ってしまえ!という長倉である。
とりあえず撃っときゃ決まらなくても跳ね返りを誰か押し込めるという状況で撃ったシュートは僅かに枠の外。とはいえ、守備の間を抜きつつキーパーの手も届かないコースへ蹴り込むのは相応の技術が必要となるだろう。
ゴールという結果は出ていないが、テクニカルなシュートを決める長倉を目撃するのはそう遠く無い未来だと思われる。後半64:10にはループシュートにもチャレンジするもののボール一個分外れてしまう。これは決まってもおかしく無い軌道だった。
カウンター時のランニング
カウンター発動時にも長倉の特徴は発揮される。
前半30:30のシーン。三戸のドリブルからのカウンター発動という状況、長倉を象徴するオフ・ザ・ボールが確認できる。
自陣深くからボールを運ぶことになるのだが、三戸が中央レーンを持ち上がると長倉は左サイドを追い越す形で駆け上がる。
カウンター時のセオリーとして、「ボールホルダーの前を走る時はワイドに開く」「ボールホルダーの後ろを走る時は中央に絞る」というものがある。
前方ワイドに位置取れば中央守備を広げてゴール前の壁を薄くできるし、後方中央に位置取ればシュートの跳ね返りを押し込むことができるという理屈である。
これを踏まえて長倉のランニングを見てみよう。
スタートこそ三戸の後方だが、そのアスリート能力を活かして一気に加速して前方へと躍り出る。この状態で中央の三戸、右の孝司、左の長倉に対して福岡の守備は奈良とドウグラスの2人のみという圧倒的優位というか決定機の形を作ることに成功している。
この際、長倉はワイドに開きながらランニングしており、さらにそこへ三戸がパスを出すので奈良は長倉に付くしかしかなく、ドウグラスとの間、つまりはゴール真正面に大きなスペースを作ることに成功する。
このスペースに右にポジショニングしていた孝司が走り込んでくるので、あとはそこへ目掛けてマイナスのボールを供給するだけ!だったのだがキックが甘く孝司に届かずターンエンド。
とはいえ、これは完璧なカウンターアタックだしカウンターアタックのセオリーを遵守して理想的な決定機を創出するという、シンプルながら最も効果的なプレーだったりする。
前半40:50のシーンでは右サイドで同じ動きをして決定機まで持ち込んでいるし、後半80:10や94:55のの最終盤でも長い距離を超スピードで走ることができる底なし体力の長倉でもある。この長倉カウンターの動きは全国のサッカー少年少女指導者のみなさんは教材にしてほしい。
攻守共に素晴らしいものを持っているし、その能力が新潟のサッカーに完全タイプ一致している長倉。本当に素晴らしい。
春夏秋冬フルシーズン長倉祭りを開催してほしいと懇願せずにはいられない。
試合雑感
注目はなんと言っても長倉の先発。孝司との並びはどうなるだろうか。長倉が前なのか孝司が前なのか442の並びとなるのか。まずは前線の並びを確認しておきたい。ボランチは島田と秋山の並びでサイドには今日も巧が先発。
福岡はほぼ間違いなく442だろうし屈強な442守備でくるのは間違いない。前回対戦は涼太郎伝説で劇的勝利だったものの前半は福岡の442守備に完全沈黙だったので今日はどのように攻略を試みるのかを確認してみたい。
などなど、慎重な入りになるかと思ったら完璧な前半となった。本当に完璧と言っていい。
福岡の442ブロックに対して新潟は442の2の間にボランチを置いてピン留めする。その状態で両サイドバックを上げて攻撃的な布陣で攻め重視のサッカーを展開する。イケイケドンドン!という感じで危ういくらいに上がっているのだが結果全てが上手くいった。カウンターへの対応も万全でヤバイと思ったのはマイケルのスリップくらいだったんじゃないかと思う。
とはいえ、福岡攻撃時のゴール前連続ワンタッチからのシュートは迫力ありすぎる。先制したあとは新潟がイキイキして福岡の屈強なブロックが広がりがちになった。こんな感じで全て新潟のペースで試合が運べている。
そして長倉。素晴らしい。素晴らしすぎる。
トップ下のポジションから偽9番の動きで落ちてボールを受けに行くのが基本となる。このタスクは今まで孝司のタスクだったが長倉が代替することで孝司の負担が大きく軽減されている。結果として孝司は前プレにパワーを割けるようになるのでチームとしての守備強度が上がるという好循環。
加えて特筆すべきはカウンター時のランニング。守備がベッタリ付くことができない絶妙なレーンを綺麗に一直線に走り抜ける。守備が長倉に寄せれば真ん中が空くし、寄せなければ長倉にラストパスが通る。湘南戦を見てもこのランニングが長倉の特徴の一つになっていると思う。スペースの扱い方が本当に上手すぎる。
福岡もこのまま何も手当てせずジリ貧となるのを受け入れる訳ないはずだが、後半もこのままのペースでクロージングしてくれることに期待したい。
そして試合終了。双方全力を出し切った素晴らしい試合だった。
後半の福岡は442ブロックというよりは人に付く守備で対応してきたが、新潟は幾度となくマンツーマン守備に苦しめられていたので今回は対応もこなれていた。福岡は追う展開だったので442ブロックを捨てる必要もあったとは思うが長谷部監督も難しい判断だったんじゃないかなと想像する。
それにしても福岡、屈強な442守備と畳み掛けるゴール前という非常にスタイルが明確なチームで良い。新潟とは違うスタイルだが非常に魅力的なサッカーを繰り広げている。
新潟の後半だが、落ちるタスクが長倉メインではなく孝司も頻繁に落ちて受けるシーンが増えていた。その場合は長倉が待機という配置になっているのかどうかはDAZNカメラに映っていないので不明。スタジアムで直接確認したい。これ、W偽9番という表現ができるんじゃないだろうか。この仕組みをこれから練度上げてほしい。
そしてマイケル。飛び出してハントというシーンが何度もあったが全部潰してほぼミス無しシャットアウトは圧巻の一言。あそこまで何回も飛び出していたらひとつやらかして致命的なことになるんじゃないかとヒヤヒヤしていたが最後までやり切ってくれた。素晴らしすぎる。
とにかく全員が各々のタスクを完遂しての勝利だし、アイシテルニイガタのチャントもDAZNから良く聞こえた。この素晴らしい試合を噛み締めたい。
長谷部監督の試合終了後コメントを聞く限り、前半は新潟リスペクトの442で後半がシン・福岡だったらしい。確かにあの高火力ゴール前は脅威でしかなかったし、あの状況を意図的に作れるのはやっぱりチームとして素晴らしいものがある。対する新潟は本当に良く防ぎきったし、この日もやっぱり小島神だった。
どのチームも進化しているのだな、と実感できるナイスゲームでございました。